アイリーンと美獣 第06話
蒼人の言うとおり、麻痺した感覚から蕩ける様な甘美な痺れに変わり、頭がおかしくなりそうだ。壱夜は涙が流れるままに、いやいやをする。淫らな振動で、手の指先の感覚が無くなってしまった。
それほど蒼人に溺れかけているのに、壱夜の生来の負けん気が毒づくのを止めない。
「このやろ……う……ああっ……あ、あ、あ、……やだあっ」
「君の分身が固くなって立ち上がってますよ、気持ちいいんですね。こちらは素直で本当によろしい」
壱夜は押さえつけてくる蒼人を何とかしてどかそうと、躍起になって暴れた。でもやはりどれだけ力いっぱい押し返しても、相変わらず蒼人は涼しい顔をしている。痺れている壱夜のか細い力など、無力すぎるというものだった。
「んン……ン……ああ……も……っ」
昨日開かれたばかりのそこに感じている自分が恥ずかしくて、壱夜は蒼人の顔を見まいとして目を固く閉じる。すると目を閉じた事によって、バイブの振動がよりダイレクトに壱夜を責め苛んだ。
「抜けって……、頼むから……抜いて……あん……ん」
ベッドの上で、壱夜は蒼人に支配されながらも抵抗する。それが蒼人の嗜虐心をいたく刺激した。
「君は自分の魅力を知らないんだね。罪な事だ」
蒼人は人が見たらぞくりとする笑みを浮かべて、バイブの端を持ち、抜けそうになるぐらい引っ張り出すと、先ほどよりも深く突っ込んだ。香油のぬめりの甘い擦れが壱夜を一気に絶頂に押し上げる。
「ああ……あーっ…………!」
壱夜が身体をびくびくさせて果てると、ようやく蒼人がバイブを抜いてくれた。
「まだ余力がたっぷりありそうですね。付き合ってあげましょうか」
その酷薄さを滲ませた声に、壱夜は青くなってベッドから転がり落ちた。甘い痺れが下半身から全身へ駆け巡って来るが、壱夜は震えながら四つん這いで必死に蒼人から逃れようとする
「はあ……っ……くっ……!」
屈辱的な格好だが、壱夜は必死だった。これ以上されたら、今度は腰が立たなくなるかもしれない。本当に蒼人のものになってしまう。
蒼人は、必死に動いてドアの外に向かっているつもりの壱夜を横目に、流れるような動作でネクタイを解いて服を脱いだ。男の癖に艶かしい壱夜の背中を見おろすと、自分の奥に眠っている魔性がハッキリ目覚めるのを感じる。
「はあっ……は……は……あ?」
懸命に這っていた壱夜は蒼人にあっけなく捕まり、向かい合わせに膝の上に乗せられた。宙に浮かされた腰に、次に来る衝撃を思って、壱夜は力が抜けかけている身体を後ろにそらして逃げようともがく。
「まったく、しつけがいがあるのかないのか……」
「やめろっ……こ……の畜生!」
「最高の褒め言葉です」
バイブとは違う、弾力のある熱い肉の塊にずぶりと貫かれ、壱夜はかすれた悲鳴をあげた。
「あああっ……あ、ァあ……ひ……っ」
楽しむように動かされ、壱夜は何も考えられなくなる。蒼人は壱夜の着ているシャツを脱がせると、尖りきった乳首に吸い付いて噛んだ。
「あンっ……」
「蕩けそうな顔。淫乱……」
生暖かい舌と唇が、這いながら意地悪をする。壱夜は降参したように蒼人の首に両手を回した。繋がっている部分から頭まで、気持ちよさが駆け抜けていく。揺さぶられながら壱夜はよがり声をあげて、蒼人の胸や首に口付けた。どうしてそんな事をするのかわからないが、やりたくて仕方なかった。
「んっ……あん……ン……あ!」
「イイだろ? たまらないだろう?」
「イイっ……たまら……ない……ああっ……もっと! もっとして!」
自分でも何を言っているんだと心の中で叫ぶのだが、意思に反して蒼人をさらに煽るような言葉を言ってしまう。壱夜の出した蜜が股間に滴っていて、ぐちゅぐちゅと粘り気のある水音が結合部から響く。壱夜は、抜き差しされるモノが気持ちよくてたまらないのだった。
「……っ、さすがに今日は、私も持ちませんっ」
蒼人が苦しそうに言い、壱夜はそのまま押し倒されてスパートをかけられた。
「あっあっ、……んッ……くッ……あふ……ん」
「すごい締め付けですよ」
両手に蒼人の手が絡みついてラグに押し付けられ、壱夜は、もうすぐ来るであろう蒼人の絶頂に備える。
「まったく……この…………、……くっ」
熱く繋がったところに、さらに熱いものが注がれて広がっていく。中に出されたと思いながらも、壱夜はもっと気持ちよくなりたくて腰を揺すった。その貪欲さに蒼人はくすりと笑う。
「今日はおしおきですから。これで終わりですよ」
「おね……が」
「また今度ね。愛してますよアイリーン」
「ン……」
そのまま眠ってしまった壱夜を、満足そうに蒼人は抱き上げた。身体がべちょべちょでこのままでは風邪を引いてしまうだろう。気を失っている壱夜は、色香が半端なくて、蒼人はもっと汚したい気持ちに駆られたが、振り切った。
バスルームに入って壱夜をきれいにして出てきた蒼人を、脱衣所でバスタオルを持った岩井が待っていた。
「こちらをお使い下さい」
「……何か言いたい事があるようですね」
「……ございます」
バスタオルで壱夜を拭いている蒼人に、岩井は声を落とした。
「ほどほどにされないと、何週間も禁止になります。壱夜様はまだ傷口が治ってないんですよ」
「手加減はしている。まったく医者は口うるさい」
岩井は医師免許を持っている。壱夜の傷口を治療したり、体調管理をする為に始終一緒にいるのだ。
「お二人とも大事だから申し上げております」
「わかったわかった」
拭き終わるとバスローブを着せて、壱夜を優しく横抱きにし、蒼人はそのまま壱夜の部屋へ歩いていく。
壱夜はとても身体が軽いので、蒼人は疲れていても何の苦も無い。片手で壱夜を抱えなおしてドアを開けると、微かに壱夜が何かを呟いた。
「……なんだ?」
問い返してみたが、壱夜からの返事はない。
眠りの淵をさまよっている壱夜を静かにベッドに横たわらせると、蒼人はその肩をゆっくりと撫でた。さっきまでの激しさはなりを潜め、穏やかな気持ちでじっと壱夜を見つめる蒼人は、聖人君子のように見える。……だが見えるだけだ。
「これで当分は大人しくなるでしょう。ならなかったら……両足首を切ってしまおうかな」
恐ろしい事を呟くと、くすくす笑って、裸のままの壱夜の身体をそのままなぞり、やや細い足首を持ち上げる。
「いや、それをすると綺麗な壱夜の身体が欠陥品になる。駄目だな。元気いっぱいの壱夜でないと魅力が大幅に消えるし」
そのまま足首に口付けて、蒼人は目を閉じる。それは愛する人に向けるような態度ではなく、愛玩にする態度だった。
「う……」
壱夜が微かにうめいたので、そっと足首を元に戻し、上掛けをかけた。
シャワーを浴びなおした蒼人が、さっぱりとした気持ちでキッチンへ入ると、岩井の作った手料理がテーブルの上にずらりと並んでいた。
蒼人が席に着くと、岩井がコーンスープの皿を置きながら言った。
「何もされなかったら、壱夜さんの手料理が召し上がれたんですよ」
「そうか……、まあ本人を食べたから良しとしましょう」
すっかり上機嫌の蒼人を見ながら、岩井は腰に巻いていたエプロンをはずした。
「本当にほどほどになさって下さい。蒼人様もまだ周囲がざわついているのをご承知でしょうに」
「分かっていますよ。ですが、壱夜が逃げ出そうとするのを諦めさせないとね。まったく、ストーキングされこそすれ、逃げ出そうとする人間など今までいなかったのに」
「壱夜様は、蒼人様の何にも惹かれないようですね」
「まったく、自信喪失しそうです」
それでも蒼人は楽しそうだった。根っからの狩人である男は、自分好みに躾ける事に喜びを感じているらしい。
岩井は、やれやれと思いながら部屋を出る。
「お気の毒だが、蒼人様が壱夜様を手放す事はあるまい」
ちいさく呟いて、岩井は自分のアパートへ帰っていくのだった。