アイリーンと美獣 第09話

「あああっ! あァっ! あ、あ」

 胎内に入れられたローターが震え、壱夜は腰をくねらせて背後から抱きしめる蒼人から逃れようともがいた。どろどろのねちゃねちゃになっている肉棒の根元には、紐が巻きついていてイク事もできない。それなのに蒼人は嬲るような愛撫をやめてくれない。

 汗みずくの壱夜は、ベッドのシーツに擦り付けるように唯一自由な足をばたつかせ、悦楽の毒を逃がそうと必死だった。両手は蒼人の左手で束ねられて動かない。それ以前に、肉棒を縛っているのと同じ紐で縛られて動かせないのだが。

「ああっああっ……やめろっやめてくれ、解いてっ」

 幾筋も口から唾液が零れ、呂律さえも怪しい。気が狂うような甘い毒に身体は限界を超えていた。

 蒼人は含み笑いをしたまま、壱夜の痴態を思う存分楽しんでいる最中だった。こんなに楽しい獲物は今まで見た事がない。

「ふつうここまできたら、私の奴隷も同然に動いてくれるんですけどね。なんて可愛い子だ」

「はああぅっ!」

 しゃぶられまくってぷくりと膨らんでいる乳首を指先で抓られ、新たな快感が下半身を直撃する。何度も舐められ続けている壱夜の首筋は、蒼人の唾液で濡れ光っていた。

「何度犯しても最初は必ず抗う。正気に戻るたびに私を拒否する。それでもいつの間にか私の愛撫に狂ってくれる……たまらない玩具だ……、ふふふ」

「やだっ、もう許してくれっ ああっあ、あ、あ」

 耳朶に吸い付かれ、その生暖かさと刺激が壱夜を狂わせる。同時に乳首をしごかれて壱夜は蒼人の胸の中でのけぞった。それでも蒼人の拘束は解かれないまま。

 ヴヴヴヴヴヴ……。ローターはずっと壱夜の胎内で暴れ続け、快楽の淵に沈む事を許してくれない。気を失いかけると、意地の悪い蒼人が震えを弱めたり、電源を切ったりする。そして油断して身体を楽にさせようとすると、再び疼くような震えが壱夜を襲うのだった。

 ぴたりと快楽の源に押し付けられたままのそれは、悪魔の玩具だ。

「ううう……ああ……あ……くっ……ああ」

 バスルームから引きずり出された壱夜は、もう何時間もこの有様だった。今何時なのか見当もつかない。

「とって、とって! イかせて、お願いだからぁっ」

「私を満足させたらイかせてあげるよ」

 蒼人がねっとりと壱夜の耳朶を舐め、ローターのレベルを最強にした。秘めやかな震えがいきなり乱暴に快楽の源に襲い掛かり、爆発する強烈な快楽に壱夜は叫びまくった。

「あぁあっああああああああああっ!」

「ふふふ……」

 楽しんでいる蒼人の胸ポケットの携帯が振るえ、蒼人は不快気に顔を顰めながらそれに出た。

「なんだ」

『お楽しみ中恐れ入ります。本家の奥様よりお電話が入っております』

「どうせ見合いかなんかだろ。断れ」

『そうではありません。津島の正和様がらみのようです』

「どちらにしろ今すぐは無理だ。あと5分待ってもらえ。こちらから掛け直す」

『了解しました。失礼します』

 蒼人は舌打ちをして、ぐちゃぐちゃに乱れたシーツの上に壱夜をうつぶせに押し倒した。そしてローターが入ったままのそこに、自分のモノを容赦なく一気に挿入する。

「ひいいいいっ」

 ローターの刺激と肉棒の熱さと擦れに、壱夜は目の前が真っ白になりかけた。腰が砕けるような段違いの甘い悦楽に首を仰け反らせる。

「開放されないまま、イきなさい。それがお前の課題だ」

「ああっ、ああっ、ひ、ひいいっ、あん、あんっ」

 パンパンと壱夜の尻に蒼人の身体がぶつかる。羽毛枕に顔を突っ込んだ壱夜は腕で身体を支える事ができないまま、蒼人に激しくゆさぶられてよがり狂うしかない。

「あはァんっ、あん、はああああァ! く……う」

「ああ……いいっ。壱夜のここは最高の締め付けだっ」

 蒼人の両手が胸をまさぐり、強く乳首をひねり上げた。さらなる甘い疼きで壱夜は蒼人が望む以上の啼き声を上げまくる。

「あァっ、ああっ、んん、んんっ、はあンっ、あああああっ!」

「…………っ」

 甘美な擦れで、壱夜の頭の中でいくつも光がスパークする。嬲られているのに気持ちいいなんてどうかしていると思うのに、蒼人の与える甘く容赦ない愛撫と愉悦が壱夜を屈服させる。……このひと時だけは。

 ぐっと腰が押し付けられ蒼人が壱夜を押さえ込んだ。同時に蒼人のモノが爆発して欲を壱夜の胎内に撒き散らす……。

 射精する事なく果てた壱夜は、身体中をぬめる汗と蒼人の唾液と精液に汚され、足を開かれたあられもない格好のまま気を失った。

「……趣味わりぃよ」

 壱夜は、左足首に嵌められた銀の足枷とそれに繋がっている鎖を見下ろした。さんざん蒼人に嬲られた次の日の朝……、正確には昼だったが、起きるとこのような状態になっていた。ちなみに蒼人のマンションの自分の部屋に帰ってきていた。気を失っている間に連れ戻されたのだろう。

 腰がガクガクなので起き上がる事は出来ても、歩く事ができないのは確かだ。しかし、この足枷と鎖はないだろう。どう見てもこの短さでは部屋から出られない。トイレに行きたくなったらどうしたらいいんだと、壱夜は焦りに似た気持ちを抱えた。そう思ったら、なんだか尿意が湧いてくるような心地がして別の事を考える。

 でも頭に蘇ってくるのは蒼人の声、熱く繋がった身体。這い回る蒼人の大きな手。今この瞬間に撫でられている気がして、ぞくりと肌が泡立った。それには間違いなく快感が多分に含まれていた。

(うそだ。僕は変態じゃないっ)

 綿のパジャマを着替えたいと思ったが、ベッドから立ち上がる事が出来ないので壱夜は諦めて頭を抱えた。蒼人から所有物扱いされた印のチョーカーが、胸元でぶらぶらと揺れる。

『お前はもう……私から逃げられないんですよ。絶対に手放さない!』

 蒼人の艶のある声が耳の底に蘇り、壱夜は顔を赤くした。でも同時に青くなる。これを外さない限りどうしたって蒼人からは逃げられないだろう。

「こんなものっ!」

 引きちぎろうとしたが、それは頑丈な皮と鍵によって首に固定されていてびくともしない。首に痣が付くほど壱夜は何度もはずそうとした。しかし自分の肌が傷ついて痛くなるばかりでどうしたって外れない。厚い皮はぴったりと首に張り付いていて、はさみが入る隙間もない。

 そのうち血が流れ出し、壱夜は諦めるしかなかった。

「……もうやだ。元の生活に戻りてえよ」

 天井を仰いだ壱夜の両目から涙が滴り落ちた。あの日、蒼人の引越しに出向かなければこんな事にはならなかったのに。その後悔が胸をよぎる。人を疑う事を知らない自分がすべて悪かった。蒼人がどんな人物か調べていたら、社員証など取りには行かなかった。でもどのみち誘拐されていたのかもしれないが……。

 コンコンとドアをノックする音がして、壱夜は肩をびくつかせた。

「壱夜様、入りますよ」

 岩井が軽食のサンドイッチが乗ったトレイを持って入ってきた。蒼人に殴られた顔は青紫に変色していて、これもかなり痛そうだった。でももう全く同情する気にはなれない。

「おかげんはいかがですか壱夜様」

「……見りゃわかるだろ。番犬」

 顔をぷいと横に逸らし壱夜は毒づいた。蒼人に味方するものは皆敵だ。

「診察しますから」

 腕を掴まれた壱夜は、蒼人にされた事がフラッシュバックし悲鳴を上げて岩井を振り払った。同時に身体中に激痛が雷のように走ったが、触れられるほうが嫌だった。

「……来るなっ」

「壱夜様。見るだけで触りませんから」

 あの蒼人の部下なのだから言っている事は信用できない。壱夜は狂ったように顔を横に振り、上掛けを頭からかぶって突っ伏した。岩井はベッド脇で困っているようだが、そんな事は上掛けの中の壱夜には分からない。とにかく身体には触れられたくない。

「やだっ。出てけっ!」

「壱夜様。お願いですから……」

「うるさい。どこにも行かないから放っておいてくれ!」

「わかりました……。でもせめて食事だけはなさってください」

「…………」

「壱夜様」

「…………」

 壱夜は動かない。岩井が大きくため息をつくのが聞こえた。

「……蒼人様をこれ以上怒らせない事です。あの方をこれ以上怒らせると足枷どころでは済まなくなります。最悪、足切断か薬を打たれます。嫌でも黙って受け入れて下さい。貴方のためです」

 好き勝手な事を言うな! 壱夜はぐっとシーツを握り締めた。

「壱夜様。大人しく従順にされていたら、あるいは蒼人様は貴方に早く飽きるかもしれません。開放されたいのなら、今の反抗的な態度は逆効果です。おわかりですね?」

「…………」

 どっちも嫌だと壱夜は叫びたかった。でもできなかった。岩井の淡々とした口調の中に脅迫めいた恐ろしさがあり、それが反抗を許さない。

 結局黙っているしかない。

 取り付く島もない壱夜の態度に、岩井が諦めて部屋を出て行った。再び一人になれた壱夜は上掛けから顔だけ出してため息をついた。身体のあちこちが痛い。中でもローターで嬲られ蒼人のモノが出入りしまくった所が、少し身体を動かすだけで激痛が走る。便秘でもないのに、なんでこんな目にあうんだと壱夜は悔しくてならない。

 じゃら……と鎖がたゆみ、壱夜はそれを疎ましいと思った。

「絶対負けないからな。絶対に逃げてやる……っ」

 シーツをきつく握り締めて、壱夜は目を伏せた。

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