ディフィールの銀の鏡 第14話
どのように世界が作られているのかはわからないが、魔界にも太陽があり、月がある。星もある。次元が違うだけで皆同じものを見ているのだと万梨亜は思っている。
今空に浮かんでいるのは満月、そしてきらきら輝く星達。
ジュリアスもこの星達を見ているのだろうか。
「何を考えている、万梨亜」
裸の万梨亜の横にいる、同じく裸のルキフェルが背後から乳房を掴んで髪に顔をうずめた。情交の後の気だるい雰囲気の中で、万梨亜は窓から見える星を見ていた。そうでもしないと心が壊れてしまいそうだった。
「何も……ただ星があるから」
「星か」
そう言いながらルキフェルは万梨亜の首筋にキスを落とす。そのままきつく吸われ、万梨亜は呻いた。万梨亜の身体を緩急つけてまさぐりながらルキフェルが言った。
「あの星の数だけ、運命(さだめ)があると言うが、万梨亜はなんと過酷な星のもとに生まれてきたものか」
「…………あ、……く」
ルキフェルに乳房を強く揉みしだかれた。もう片方の頂に吸い付かれて甘い疼きが沸き起こり、万梨亜はシーツを握り締めた。
金や宝石が散りばめられている豪華な寝台には天蓋がついていて、紗の入った美麗なカーテンが下がっている。やわらかな寝台の上で万梨亜はルキフェルに散々抱かれた。身体と言うものは嫌なもので、好きな相手でなくても快楽は伝えてくる。万梨亜はそれが辛い。カーテンの隙間から見える星を見て、万梨亜は今どうなっているのだろうと思う。
「己に何の咎もないというのに、親の業を押し付けられて哀れなものだ」
「やめ……、あん……」
首筋をぬるぬると舐められ、万梨亜は逃れようと身体を動かした。すると左足首につけられた黄金の枷の鎖がじゃらりと鳴る。鎖の先は寝台の脚についている。鎖は部屋の広さの分の長さしかなく、逃げられないようになっていた。
身体をよじるのをルキフェルは許さず、万梨亜を押し倒して両手首を片手で押さえつける。
「お前ほど孤独な魂は見た事がない。よくそれで生きてこられたものだ」
哀れみを含んだやさしい声に万梨亜ははっとする。鼻を付き合わせる距離に、ルキフェルの赤い双眸がある。普段は黒だが時々赤になる。それは忌むべき色だったが、こんなにほっとする色に見えたのは初めてだ。
「こ……どく?」
「誰一人味方がいない所で、散々傷つけられながら生きていたのだろう? 母親ですら味方ではなかった」
「…………」
「大勢の人がいるというのに、誰一人お前を愛さなかった。いるのはお前を貶めてさげずむ輩のみだったのだと、魔力の石が言っている」
ルキフェルの唇が万梨亜の頬にやわらかく押し付けられた。途端、魔力の石が青く光り、部屋中をその色で満たした。まぶしくて見ていられないはずなのに、ルキフェルはまぶしがる事もなく続けた。
「お前が美しいものだから、貶めて傷つけたかったのだろうな」
「美しくなどないわ」
「……そうか」
「空気みたいに消えればいいのにと思ってるわ……」
「ほう……」
面白そうにルキフェルは口元を歪め、泣き出した万梨亜を見つめる。万梨亜は手で拭う事もできないまま泣き続けた。
「もう……駄目なの、駄目なの」
「そうか、大変だったな辛かったな……」
「駄目なの……」
やさしく撫でてくるルキフェルの手が、何故かうれしい……。自分はどん底以下に堕ちてしまったのかもしれない。魔王に安らぎを感じるなんてありえない。
「お前は光にはなれない。だから神の子のジュリアスのもとには居辛かっただろう?」
「……つまらない女だもの」
「光の人間にとってはそうかもしれないが、我ら闇の人間にとってはお前は素晴らしい女だ」
「……なんで?」
「そのうちわかる。とにかくここでは言いたい事を言う事だな。だれも非難はしないし、それどころか喜ぶだろう」
「こんなに暗い事を言っても?」
「もちろんだ」
なぜか万梨亜はほっとした。否定されないという事はこんなにも安心するものなのだろうか。ルキフェルはじっと万梨亜の瞳を見つめて、意味深に笑う。なにか底知れぬ闇に引き込まれているような心地がして、万梨亜は目を閉じた。その瞼にルキフェルはキスをしてくる。何かがほわりと入ってきたが、それがなんなのかわからなかった。いつの間にか魔力の石の光は消えていて、ほわりとした何かが石の中へ入って甘く疼いた。
「じゃあ、枷をとってください」
「それはできない。逃げるだろう?」
「……抱かれるのが、嫌」
「そのうち良くなる。お前はいつもそうだ。お前の中は気持ちいい……」
ぬるりぬるりと秘唇と硬くなった芽を撫で回されて、万梨亜は声をあげる。片方の乳房を鷲掴みに揉まれながら、敏感な部分を何本もの指で嬲られて、腰が砕けそうになる。甘く疼き、手足に震えが来て、だんだん何も考えられなくなる。
「このように涎をたらして喜んでいる……、くっく……」
ルキフェルの尾てい骨から長く伸びている、牛の尾に似た黒い尾が万梨亜の太ももを撫でた。やはりこの男は悪魔なのだと万梨亜は認識する。ルキフェルの耳は先が尖り、頭には銀の角が生えている。人ならざる闇の魔物に抱かれて万梨亜は悶えているのだ……。
「は……、あ、ん、んんう……っ」
「すべりが良いぞお前の蜜壷は……。しかも我の指を奥へ誘おうとしている」
「うそ……」
「ここが良いのだろう?」
長い男の一本の指が、万梨亜の指では届かない内部の感じるところを擦る。
「あああっ! いや、そこは」
「良いのだろう? もっとよがるがいい」
「やめてください、駄目、駄目えっ」
止められるどころかさらにいやらしく擦られ、嬲られていないほうの乳房の先端を唇で噛まれて、万梨亜はこの悦楽の虜になる。
二又の赤い舌で舐められていく乳首は恥ずかしいくらいにそそり立ち、ルキフェルを喜ばせるばかりだ。万梨亜の秘唇を嬲る指が三本に増えてじゅぶじゅぶと出し入れを繰り返し、その痺れに万梨亜は声を張り上げた。
「ああっあ、あ、あーっ」
「ふふ……、もっと声をあげるがいい」
「く……、はあ……」
横倒しになっている万梨亜の背後から、ルキフェルは好き勝手に万梨亜の身体を苛んで、楽しむように卑猥な事を囁き続ける。
「いやらしい音がするぞ……、そんなに我と交わるのは楽しいか?」
「……ああ、んんん……、んんっ」
金の枷の鎖が先ほどから悲鳴をあげて鳴り止まない。狂ったように悶える万梨亜はルキフェルの愛技に抵抗する術がない。何故ジュリアスではない男に、それも人から忌み嫌われる魔族に抱かれて感じる事ができるのだろうか。
「ゆ……る……ああ!」
ルキフェルの爪が肉の芽に強く食い込み、万梨亜の身体に電流が走った。目の前が真っ白になり、秘唇からだらだらと蜜が流れてルキフェルの手をぬるぬるに濡らしていく。
「う……う」
激しく収縮を繰り返している秘唇に、ルキフェルの先端が当てられるのが分かった。ずぶりと入って、一気に最奥に到達したそれに万梨亜は絶叫する。
「いやあああっ」
「嫌ではないだろう? ぬめぬめと絡み付いて我を離さぬと言うのに」
首筋を赤い二又の舌で舐めながら、ルキフェルはねばつく声で言う。もうたまらない、粘膜が擦れるたびに甘い痺れが走って、万梨亜をおかしくさせる。万梨亜の気持ちなどお構い無しに本能がルキフェルの腰に万梨亜の足を絡みつかせる。じゃら……と金の枷の鎖が鳴った。ルキフェルはさっきからゆっくりとじれったい動きしかしない。焦らすように万梨亜を舐め、乳房を押し上げるように撫でまわしている。
「も……う」
「もう何だ? 万梨亜」
笑いをかみ殺した声でルキフェルが万梨亜の耳に熱い息を吹きかける。それですら万梨亜は震え、腰を動かした。動きを緩慢にしているルキフェルをなんとかしたくて、万梨亜は自分で淫らに腰を動かし、その泡立つ痺れで、もっと、もっとと思う。
「言わねばやらないぞ」
「動いて……っ、ああっ、めちゃくちゃにしてください……っ」
万梨亜は動きを完全に止めたルキフェルに懇願する。下腹部の熱をなんとか解放したい。イきたいのだ。太さも熱さも増しているというのに最奥まで刺さったまま動かない。
「動いて、動いてえっ!」
涙を流して叫んだ万梨亜にルキフェルは陰湿に笑い、やっと動き出した。すぐに激しくなった腰の動きに万梨亜は嬌声をあげた。
「ああっ、あああっ、ひいいっ」
「淫乱な女め。存分に乱れるがいい」
「あああんっ、もっとお……、欲しいの、欲しいのっ」
「ジュリアスにもそうだったのかお前は」
激しく腰と腰がぶつかり、肉の音と粘つく水音がさっきから止まない。淫気が満ち、ますます万梨亜を狂わせて行く。
「言わ……ないでっ」
「さぞかし嘆くだろうな……、こんな様を見ては……」
「聞きたくない……やめてえっ」
ぎゅうっと花洞が肉棒を締め付け、ルキフェルは呻いた。いつの間にかお互い汗でぬめっている。
ぬちゃ、ぬちゃ、とルキフェルは腰を回転させて万梨亜の感じる部分を新たに探しながら、肉の芽を親指の腹で揉みまわす。蜜でしとどに濡れているそこは、熱くゾクゾクする悦楽を伝えてきた。うるさい鎖の音ですら情交の熱をさらに高めていく。
「あっああっ! や……はぅ……あっ」
またいつものように波が来る。ルキフェルも余裕が無くなってきているようだ。だが寝台の横に人の気配を感じたルキフェルは、赤く眼を光らせた。
「……ヘレネーか、我の楽しみを邪魔するでない」
「楽しそうじゃな兄上」
ヘレネーもデュレイスに抱かれた後のようで、透けた薄いドレスをまとっているだけだ。だが、万梨亜はそんな二人の会話に気づかないほどルキフェルに溺れていた。
「ああん、止まらないで……」
ルキフェルの背中に爪を立てる万梨亜を見て、ヘレネーはあざ笑った。
「ぶざまな女子じゃ。愛しい者が居るというに、他の男に欲を求めておる」
「我の前ではどのような女でもそうなる。お前とて例外ではない」
頬を赤く染めてヘレネーは顔を逸らした。魔王はあらゆる魔族の頂点であるため、淫魔等よりも性技は優れている。それゆえ抱かれたりしたら、いかなる女でも彼を求めてよがり狂ってしまうのだ。焦らすだけ焦らして後は放置という手ひどい事もしょっちゅうしている。
「じゃが、わらわはデュレイス様のほうがいい」
「ふん、たかが人間ではないか、多少の魔力と剣の腕があるだけの」
再び激しく腰を打ちつけながらルキフェルは言った。息が荒くなりつつある。万梨亜の内部はいままでのどの女よりも甘美で、さすがのルキフェルも果てないようにするにはかなりの忍耐が必要だった。汗が顎から滴り万梨亜の胸に落ちた。
「この様子をジュリアスに見せてやろうと思うたのじゃ。氷の心を持っているあやつでも動揺するはず」
「好きにするがいい……」
万梨亜はそんな会話がなされているとも知らず、ルキフェルの腰の動きに合わせて声を張り上げる。ルキフェルは両手の指を万梨亜の手に絡みつかせ、シーツに深く沈みこませた。ぐんとさらにルキフェルのものが膨張し、万梨亜はもうすぐ来る瞬間を悟る。ヘレネーはルキフェルの淫気に当てられ、自分がおかしくなる前に退散して消えた。
「あっ……ああああ……」
「く……、締め付ける……っ」
ルキフェルの顔が万梨亜の右横に落ち、同時にルキフェルが弾けた。熱いものがじわりじわりと内部に満ち、ルキフェルがそれを万梨亜の奥にまで満たそうとして、ゆっくりと腰を動かした。
「……孕め、我が子を」
「あ……っ」
「孕めばその子は次の魔王になる……」
「う……う……」
悪魔の囁きを聞きながら、万梨亜はまったく別の事を考えていた。
ジュリアスを裏切っているのに、何故、左手薬指の婚姻の指輪は外れないのだろうかと……。
「王子……」
万梨亜の声と共に、金の枷の鎖が小さな音を立てた。