ディフィールの銀の鏡 第19話
ディフィールでは騒動が沸き起こっていた。それはテーレマコスが意図せずに起こしてしまったものだった。彼は、テセウスを後宮に入り浸りにさせている原因を突き止めようとしていたのだが、それにテセウスが感づいたのだ。
テーレマコスからの頼みで調べていた彼の親族は、テセウスの前に引っ立てられ尋問を受ける事になり、そこでマリアの不貞が浮かび上がった。
その日、隠し部屋でジュリアスと愛し合っていたマリアは、突然乱暴にドアが開けられ、乱入してきたテセウスに動揺した。
「何をしている!」
「ひっ……」
マリアはテセウスのいでたちに血の気を失った。外で見張りをしていた男奴隷を斬ったのだろう、テセウスの右手には赤い血が滴り落ちる剣が握られている。華麗な絹の服にはべったりと返り血がにじんでいて、錆びた臭いがする。何より恐ろしいのは、憤怒の顔で自分を睨みつけてくるテセウスの恐ろしい瞳だった。
「……どういう事だ? マリア」
マリアは震えながら裸のジュリアスにしがみついて、その胸に顔を埋めた。状況を深く読み込めていないジュリアスはそんなマリアをぼんやりと見て、そしてテセウスにも同様の視線を向けた。
「これはこれは兄上、生きておいでだったか」
皮肉にみちたテセウスの言葉も、ジュリアスは反応しなかった。
「……そなたは?」
「国王テセウス。あなたはこの私の兄です。そしてあなたが抱いているマリアは私の后です」
「そなたがマリアの……そうか……」
テセウスはジュリアスの様子がおかしい事に気づき、剣を握りなおした。自分の顔を兄であるジュリアスは知っているはずだ、それなのになぜ始めて見るような顔で自分を見るのだろう。
しかし相手は自分がこの世から抹殺したい男だ、テセウスはゆっくりと二人に近づいた。
「そこまでじゃ」
背後からヘレネーの声が響き、テセウスは殺気をみなぎらせたまま振り向いた。彼の目にはヘレネーはまだ二十歳にもならない、子供のような美少女だ。魔法は使えてもそれだけの女だった。
「よその国の王妃は引っ込んでいただこうか」
「そうはいかぬ。引っ込むのはそなたじゃ」
テセウスは見知らぬ兵に囲まれると剣をむけられ、戦慄する。
「こ……れは」
「そなたはもう用無しじゃ。これ以後はこのジュリアスが国王となる」
高らかに笑うヘレネーにテセウスは剣を構えた。
「誰がそんな事を許した。誰か、出合え!」
「誰が許さずともよいわ! わらわの通りに動けばよい、それだけじゃ。テセウス……、そなたはなかなかよく動いてくれたのう。わらわの魔法でそなたの兵は動けぬのじゃ。何か最後に言う事はあるかえ?」
「戯言を!」
襲い掛かってくる兵の剣をかわしながら、テセウスは叫んだ。狭い室内で多勢に無勢のテセウスはあっという間に追い込まれていく。もう駄目だとテセウスが目を閉じた時に、何か柔らかなものが自分に覆い被さった。
それはマリアだった。
「何をしておるマリア!」
ヘレネーが苛立った声で言い、彼女を引き剥がそうとしたがマリアは離れない。
「無理……無理なんです。私にはとてもできない!」
「今が好機だと言うに愚か者が! ジュリアスを愛しているのではなかったのかえ!」
マリアは泣きながら頭を左右に振った。
「でも……でも! 殺すのはやっぱり嫌! できないのおっ」
騒ぐマリアの胸をテセウスの剣が一直線に突き刺さった。マリアの目は見開かれ、冷たく見下ろすテセウスを映した。刺されたのにマリアはうれしそうに笑う。
「テ……セ……ウス……」
「馬鹿が……。人を殺すのに躊躇うからだ」
その声はテセウスらしくなく僅かに震えていた。剣はマリアの血を吸って抜かれ、床に捨てられた。やがて身体がぐったりとしたマリアを、テセウスは両手で大切そうに抱えた。日頃の傲慢さは消え、その目にあるのは明らかな悲しみと深い恋慕だった。
「マリア、お前はそんなに私が大事か? 私と同じように愛してくれていたのか……」
その瞬間、空気が張り詰める音がして、ヘレネーの細腕に巻き付いていた銀色の蛇の腕輪が砕け散った。
「な、何事じゃっ!」
誰かの魔力が暴発し、隠し部屋の中で爆風が吹き荒れた。渦を巻いたそれは天井を直撃して、凄まじい爆発音と共に砕かれた瓦礫が部屋の中にばらばらと落ちて来た。開いた天井からは砂煙が晴れていくのと同時に、夕焼け空が覗く。
青い光が辺りに満ちた。
テセウスに剣を向けていた兵士達がばたばたと倒れていく。ヘレネーはその中でジュリアスを探し、驚愕した。
「魔力がっ!」
そう言ったのはテセウスだった。青い光を放ちながら、ジュリアスが長い銀の髪を揺らして瓦礫の中で立っている。
「……そういう事だ、テセウス」
す……と裸の胸にジュリアスが手を滑らせると、脱ぎ捨てられていたはずの白い絹の衣服が彼の身を包んだ。
ヘレネーは目を大きく見開いたまま後ずさった。
「何故……薬が」
自分の作ったほれ薬の力は強力だった。自分以上の魔女などこの世界に存在しない。しかしほれ薬から解放されたジュリアスが、青い炎を瞳に燃やして目の前に立っているのだ。
「そなた、思考を閉じているつもりらしいが、デュレイスの事が絡むとほころびが生じるようだな。そこからそなたの心に入って、余にしようとした事を読んだだけだ。そして自分自身に術をかけた」
「何じゃと!」
「……マリアをテセウスが刺したら、そなたの術を破るようにとな」
「小賢しい!」
ヘレネーが怒りに眼をつりあげて、赤い火の玉をジュリアスに放った。しかしそれはジュリアスの青い光に吸い込まれて消える。
「無駄な事だ。そなたの魔力など、ディフィールでは遠く余に及ばぬ」
「わざと謀られたと言うのかえ!」
ヘレネーは何度もジュリアスに攻撃を続けるが、全てそれは消えていく。息をきらしたヘレネーにテセウスの剣が襲い掛かった。しかしヘレネーは身を翻して黒い小鳥に変身し、無くなった天井から逃げて消えた。
「おのれっ! 魔女め」
テセウスが呪文を唱えようとしたところを、ジュリアスが止めた。
「止めておけ、もうケニオンの本体へ戻ったはずだ。それに魔力を使い果たしたあの女はしばらく何もできぬ。おまけにケニオンの王妃だ、今手を出すとデュレイスが何をしかけてくるかわからぬぞ。それよりもマリアを救ってやらねばならぬ」
「この女は私を裏切ったんだ!」
「……お前はこの女を愛しているのであろうが」
ジュリアスはテセウスに背を向け、かすかに呼吸を繰り返すマリアに手をかざした。見る間に出血が止まり、血の気が甦っていく。
呆然としているテセウスに、ジュリアスは温かく微笑みかけた。
「この女子。性根は腐っているかも知れぬが、そなたを本当に愛していた様だぞ。余が好きだと言いながらいつもそなたの事を考えていた。そなたが他の女子にうつつを抜かすのが辛くて、余にすがったのであろうよ」
「…………っ!」
「どこまでも自分勝手な女だが、そこに同情の余地はありそうだな」
顔に朱がさしたテセウスの肩に、ジュリアスは右手を置いた。
「慣れない女遊びはするものではない。女狐の侍女を逃すな」
「わ、わかっておるわ!」
テセウスは肩におかれた手を振り払い、マリアに駆け寄って彼女を抱き上げた。そしてそのまま部屋を出て行こうとして足を止める。
空の方から鳥の鳴き声が聞こえてきた……。
「前国王夫妻を殺した事は後悔していない。あの二人は国を崩壊させるばかりだった」
「……わかっている」
「だが……」
テセウスが、ジュリアスに振り返った。
「兄上を殺そうとしたのは過ちだった。……貴方はマリアを助けてくれた」
「!」
さっと身を翻し、テセウスは早足でマリアを担いで出て行ってしまった。瓦礫の中にたった一人残されたジュリアスは、天井から覗く赤い夕陽をまぶしそうに仰いだ。そしてふわりと空中を舞うように浮き上がり、王宮の庭へ着地した。
「……久しぶりに家に戻るか」
一人で呟き、そのまま王宮の外に向かって歩き始めた。
王宮内はざわついているが、それはテセウスがマリアと仲直りしたらしいという噂話のざわめきだった。テセウスがすぐにジュリアスの指名手配を解いたらしく、ジュリアスが王宮内を歩いていても、誰も捕らえようとはしなかった。
(とりあえずは一難去ったが……)
ジュリアスは大きく息をついた。夕日は南西へ沈んでいく。冬至が近い。
「万梨亜……」
遠く離れている愛しい女を思い、ジュリアスは夕日に染まる王宮の庭にしばらく佇んでいた。
ジュリアスの家の前で、土の上に描かれた魔法円の前にジュリアスが立っていた。テセウスは少し離れた場所から近衛兵に囲まれて、やや不安げにそれを見ている。宮廷魔術師長のデメテルがしわがれてはいるがはっきりとした口調で、そろそろ始めたいのですがテセウスに言った。時刻はもうすぐ昼になろうとしていて、晩秋の寒空が広がっている。
「では、兄上そろそろ」
「うむ」
魔法円の中にジュリアスは静かに入った。それを発動して魔界へ行き、万梨亜が魔王の后になるのを阻止しに行くのだ。それには魔界から手引きする者が必要だったのだが、幸いニケが魔王の城まで導いてくれる事になっている。
マリアがテセウスの横でそれを面白くなさそうに見ていた。テセウスとよりを戻しても、ジュリアスが好きで手放したくないのだ。それなのにマリアが大嫌いな万梨亜を、ジュリアスは命の危険を冒してまで救いに行くのだという。
(あんな子放っておけばいいのに)
悔しそうにマリアは扇を握り締めた。だが仲直りしたテセウスがジュリアスに協力的になったために、文句を言う事はできない。それにジュリアスは自分の命の恩人だ。
(万梨亜なんて、魔界の后でもゴミでもなってしまえばいいのに)
「……マリア」
醜い思いで下を見ていたマリアは、唐突にジュリアスに声をかけられてびくりと顔をあげた。あの美しい青い瞳が自分をじっと見ていたが、先日までは愛しさに満ちて見返してくれたその瞳は、もうマリアのものではない。
「何でしょうか」
かすかに語尾を震わせてマリアは返事をした。
「そんなに万梨亜がうらやましいか?」
「な……っ!」
「父親の愛情を横取りした万梨亜を苛め抜いて、一体そなたに何が残る」
「貴方に何がわかるのよ。あんな子、苛められて当たり前だわ! どれだけ足手まといだったと思うの!」
マリアの近くに控えていた侍女が、驚いて自分の女主人を見上げた。彼女の前ではマリアは優しい女主人で、こんな風に人をけなす人間ではなかった。
ジュリアスは哀れむようにマリアを見た。そしてテセウスに視線を移す。テセウスは気まずそうに見返したが何も言わなかった。マリアの心に巣食う闇に気づいてはいたが、ここまでとは思ってはいなかったらしい。また万梨亜は奴隷だ。王妃であるマリアが、奴隷である万梨亜を軽く扱うのは当たり前だと彼は思っていた。だが元の世界では平等であったというので、テセウスはその異なる価値観を持て余している。おまけにいつの間にやら兄であるジュリアスの后になってしまい、それなりの対応をせねばと考えているところだった。
「そなたばかりに非があるものではない、万梨亜にも勿論非はある。しかし万梨亜がそれを乗り越えようとしているのに対して、そなたはますます頑なになっている。このままいけば、いずれそなたは自分で作った闇に食われてしまうであろう。テセウスであろうとそれは救えぬ、結局は自分自身が目覚めねばならぬものだからな」
マリアの唇が屈辱に震えたため、テセウスが前に立って彼女を庇った。
「兄上」
ジュリアスは青い炎を一瞬燃やしてから天を仰いだ。雲に隠されて太陽が見えず、日食が起きているわけでもないのに今日は暗い。
「魔王に支配されている魔力の石。いかな余でも陰の気が最高に満ちている今、真っ向に向かえば再び命が危うかろうな。あのケニオンの女狐めは臥せっているから何もできぬだろうが。……何が起こるかは予測ができぬ」
「ならば!」
テセウスが足を踏み出そうとして魔法円に入りかけ、魔術師達が慌てて止めた。
「それでも行かねばならぬ」
「王子! せめて私だけでもお供を」
テーレマコスが言うのを、ジュリアスは止めた。
「魔界は魔族の本拠地。魔力が強かろうと人間のそなたでは歯が立たぬ。ニケだけで十分だ」
「しかし、あいつは……」
「あやつは余と同じく半分は神の血が流れている。それを差し引いても余はニケを信頼している」
「は……」
ジュリアスはテセウスに視線を戻した。
「余達はおそらく暫くの間こちらへは戻れない。余がいなくなれば、あのヘレネーが何かとデュレイスを通じて揺さぶりをかけてくるであろう。けして油断するでないぞ」
「わかっている」
「王宮内に間者が多くいる……気をつけるのだな。テーレマコスと共にあぶりだして始末せよ」
「はい」
ジュリアスは正面を向いた。それを合図に宮廷魔術師達が詠唱を始める。魔法円が発動し辺りの空気が振動し始めた。
テーレマコスもテセウスもマリアもそれぞれの思いを秘め、ジュリアスを見守る。
詠唱が途絶えた途端、ジュリアスの姿は魔法円からかき消えた……。
魔界では、魔族という魔族達が魔王の城に集っていた。下級の魔族は城の庭で、中級の魔族達は大広間に繋がる廊下やそれぞれの部屋や小さな広間で、上級の魔族達は大広間で、魔王ルキフェルが后を迎える式を挙げるのをいまかいまかと待ち構えている。ざわめきがひどく、顔を近づけて会話をしないと相手の声が聞き取れないくらいだ。現在の魔王がその座に座ってから百二十年になる。どんな女にも振り向かなかった魔王が后を迎えようとしているのだから、魔族達が興奮極まりないのも当たり前だった。噂話やこれからの話に花が咲き誇っている。
ニケは城の庭で壁に凭れて頭の後ろに手を組み、下級魔族達が飲めや歌えやのどんちゃんさわぎを起こしているのを見やっていた。彼はジュリアスからの言いつけで大広間へ彼を導くためのポイントを探し終えた所だった。人間界から魔術師達の魔法円でジュリアスがこちらへ来たら、ニケが動く手はずになっている。その合図を待っているのだが、なかなかその合図は来なかった。
暇だなと思っているところで、魔界の知り合いの下級淫魔が声をかけてきた。
「よおニケ、久しぶりだなー」
「キャップか」
キャップは人懐こい笑みを浮かべて、ニケに抱きつき首筋を舐めた。ニケはキャップをめんどくさそうに押しのけながら文句を言った。
「よせよ。俺、男同士は嫌なんだ」
「なんだよ。せっかくこのキャップ様が至上の快楽をやるってのに」
「俺は豊満な美女がいいんだよ。妹のルシカはどうしてんだ?」
「ここよ。ニケ」
ニケの後ろから、黒髪を短く切った妙齢の女が美しく着飾って現れた。この女も当然淫魔だ。妖艶な美女をニケは抱きしめて口付けた。
「ニケ、最近見かけないから心配してたのよ」
「わりい。いろいろやっててさー」
「地上の王子様関連だな?」
キャップはやれやれと言わんばかりに、舌を鳴らした。ニケはこの二人にだけジュリアスの事を話している。彼らは三人とも神と魔族との間の子だった。
「うん、こちらにいらっしゃるんだ」
ニケがにこにこして言うと、キャップは口笛を鳴らした。
「やるねえ、魔王の后を奪いに来るってか? どうりで城の中の警備が厳しいはずだぜ」
「おえら方の中には、万梨亜様が気にいらねえって奴がいるだろうからな」
「それならおかしいじゃない。私なんて身体検査なんて言われて部屋に連れ込まれたのよ。大した魔力がない私にいやらしいったらないわ」
口を尖らせてルシカが文句を言った。おそらくルシカの魅力にやられた兵なのだろう。兵達は城の中は厳重に警備しているが、城の外は適当だ。城の外を警備している兵は規律が徹底していないらしく、気に入らない輩を殴ったり、ルシカのようないい女に粉をかけたりしている。そこにニケは目をつけて、ジュリアスを迎え入れる準備をここでする事にしたのだ。キャップがつばを吐き捨てた。
「けっ。雇われ魔族は魔王の犬かよ、みっともねえ。下級でよかった。俺達は自由だもんな」
「そういうこった」
ニケは酒の入った皮袋を腰から取り出して直接口をつけてがぶがぶと飲んだあと、二人に気前よくそのまま手渡した。キャップが飲んだ後に満足そうに息をついた。
「相変わらずうめえなー。テーレマコスって奴ワイン作りの天才?」
それはテーレマコスの酒蔵からかっぱらってきたものだった。ニケは魔界の貴重な植物などをテーレマコスに提供しているので、テーレマコスは何も言わない。
「頭はいいんだけど堅物。絶対童貞だよ。ルシカ、お前ちょっと女の味教えてやってくんない?」
「いい男ならいいけど?」
「こんな奴」
ニケが二本の指をルシカの額につけて映像を送ると、ルシカはうれしそうに微笑んだ。
「いい男じゃない。いいわよ。でもその前にニケが味わいたいわ」
「いいぜ。一仕事終わったらね」
「その王子を助けるつもりかよ」
ニケはにやりと笑った。
魔族の大半は魔王の魔力に押さえつけられて大人しくしているが、忠誠などくそくらえと思っている者ばかりで、むしろ反乱を待ち望んでいる。平和に支配されるなど退屈なのだ。ニケ達のような半分神の血が入っている魔族は魔王も手が出しにくい存在で、結局は人間界と同じで戦火が完全に治まるなどありえないのだった。
「命の恩人である以上にあの人が好きだからなぁ。ちょっと意地悪なところがたまんねえ」
「お前変態か? まあそれでも俺はお前が好きだよ」
またキャップがニケに抱きついたので、ルシカが腹をたてて引き剥がした。
「もうお兄ちゃんやめてよね。ニケは女しかいらないの!」
「ちぇっ。ま、いいよ。他の男釣ってくる」
「おう行って来い!」
ニケはキャップに手を振った。ルシカはそのニケの右腕に自分の両腕を絡ませると、兄と同じように首筋にキスをした。
「魔王の側近のサティロス様。万梨亜様に魔力を吸い取られてしまって、未だに屋敷から出られないってさ」
「魔王がそんなふうに魔力の石を作り変えたんだな。ジュリアス様はそんな事されなかったのに」
「普通の魔族はこわがっちゃってね。万梨亜様に近寄らないわよ」
サティロスは魔王の側近で魔力が強い方だ。その彼の魔力を吸い取ってしまったとなれば、万梨亜はかなりの陰の気をその魔力の石に取り込んでしまったと思われる。魔王とサティロスの二人に万梨亜が抱かれまくっているのを知っているニケは身震いした。
(さて、王子がいらしたらどうなるか見物だねえ)
舌なめずりしているニケは、どうしても神より魔族の血のほうが上回ってしまうようだ。そこへ、待ちかねていた合図がニケの頭の中で鳴り響いた。