アイリーンと美獣 第8話

 壱夜は小野寺と渡辺という二人の強面の男に連行されるように、空港近くのホテルに入った。ほんの数十分前、北海道の千歳空港行きの飛行機に乗った所をこの二人が乗り込んできて、驚いている壱夜を飛行機から引き摺り下ろし、黒い車に押し込んだのだった。

 あまりにあっけない逃亡劇の終焉に、壱夜は深い深いため息をついた。同時に蒼人の怒りを思い背筋が冷たくなる。やくざの蒼人だ、何をされるかわからない……。

 ホテルのエレベーターから降りた壱夜は、出迎えた岩井の顔に息を飲んだ。

「ご苦労様です……」
「それ……」

 腫れ上がっている頬に、明らかに人がつけたと思われる目の横の傷。岩井は申し訳なさそうに顔をゆがめた壱夜に言った。

「お気にされませんよう。転んだだけです」
「…………」

 蒼人がしたのだと、壱夜は陰鬱な思いを抱いた。通された部屋はかなり広く目の前の空港の夜景が美しく見渡せた。蒼人はまだ居ないようで、壱夜は一人ソファに沈み込んだ。

「……ごめん…………岩井」
「壱夜様のせいではありませんと、申し上げました」
「でも」
「これに懲りたら、逃げようなどと馬鹿げた考えは起こさない事です」
「…………」

 感情のない声で言われ、壱夜はうなだれて目を閉じた。

 岩井がいつのまにか置いてくれたコーヒーに気付いた時、コンコンとドアをノックする音が響いた。部屋の隅に立っていた岩井がさっとドアに近寄って、蒼人を迎え入れる。そして同時に出て行ってしまった。

「…………」

 ばたんと閉じられたドアの音が、壱夜の緊張を一気に極限まで高めた。しかし蒼人は怒る風もなくゆっくりと壱夜に微笑みかける。

「疲れたでしょう? シャワーでも浴びましょうか」

 意外な言葉に、壱夜は警戒を隠せないまま蒼人を仰いだ。蒼人の手にはあのチョーカーがあった。

「……怒らないのかよ」
「怒りませんよ? ただ旅行は事前に言ってくれないと困りますね。あとこれ、川に落ちてました……結構弱い金具だったようなので、簡単に取れないものに換えておきましたからね」

 壱夜は微笑んでいる蒼人が怖くて後ずさった。この顔は怒りを押し隠していて、捕まるとまずいと本能が訴えかけてくる。ますます警戒を強める壱夜に相変わらず微笑みながら蒼人が言った。

「とにかく服を脱ぎなさい」
「……嫌だ」
「壱夜?」

 どのみち酷い目に遭わされる事は間違いない。壱夜は腹を括った。

「もう僕は嫌だっ。頼むから解放してくれよ。僕は、僕は、男に抱かれるなんて嫌だ。あんたの傍に居るのも嫌なんだ!」
「何を言うかと思えば……」

 くっくっくと蒼人は笑い、楽しげに壱夜を見つめる。

「まだそんな事を言っているのですか? 壱夜はもう私のものなんですよ?」
「お前が勝手に決めたんだろっ。僕は承知してない」

 近寄ってきた蒼人の手を払いのけ、壱夜はドアの前に逃げた。追いかけてきた蒼人をギッと睨みつける。

「僕は僕のもんだ。てめえのもんじゃないんだっ。あっ……」

 利き腕を捻りあげられて壱夜は悲痛な声を上げた。なんで力比べで負けた事などないのにこの男には勝てないのだろう。

「関係ありませんよ……、この私が欲しいと思った。それだけで君は私のものだ」

 ぬるりと耳を舐められて壱夜は首を横に振る。冗談じゃない冗談じゃない!

「も……やだ」
「その口、何処まで聞けるでしょうか?」

 バスルームに乱暴に連れ込まれるなり壁に押さえつけられ、キスをされる。逃げる舌を追い掛け回されて捕らえられ、やさしく撫でられて壱夜は膝を震わせた。

「―――ンっ…………」

 作業着のボタンを外されて胸の先を爪で弾かれると、その刺激が下半身を直撃して壱夜は座り込みそうになった。

「ふふ……可愛い……」

 シャワーの湯が降りかかり、二人とも服がずぶ濡れになっていく。壱夜は両腕を振り回したが床に四つん這いで押し倒され、あっけなく頭の上に一まとめにされてしまった。

「……頼むよ。……僕は…………」
「このままではお風呂に入れませんね。服を脱がないと」
「嫌だっ。もう嫌だ……あうっ」

 ぬるりとした感触が胸の先を掠めて壱夜は仰け反った。うつぶせでシャワーの湯で濡れ鼠になっている壱夜を、蒼人がにやにやと笑いながらボディーソープを服ごと塗りつけていく。

「これ……服……あぁあっ」
「洗濯するからいいんですよ。可愛い飾りがさらに綺麗になるし」

 ぐりぐりと服の上から刺激され、壱夜は女のように喘いだ。

「あぁっ……んんんーっ……や、や」
「気持ちいい?」

 壱夜を抱いてバスルームの壁に凭れた蒼人が、固くなった胸の先をなんどもなんどもボディーソープのぬめりを利用して指で擦りつける。その度に壱夜の身体は律儀に反応して震え、湯のように火照って熱くなっていく。

「さあ、私のものである証をつけましょう。迷子にならないようにね」
「あん……は……ぐ……」

 鍵付のチョーカーを付けられ、銀のコインを口に突っ込まれた。蒼人にその唇にキスをされながら胸を嬲られ壱夜は泣いた。薄手の夏の作業着はしとどに塗れ、淫靡に立ち上がっている胸の先を透けさせ、蒼人の欲望を煽る。

「あああ……あ、あっ」

 ボディーソープが流れてしまい、肌蹴た胸を蒼人の舌が舐めあげていく。胸から断続的に襲ってくる甘い刺激に、壱夜の口からコインが落ちた。

「女のようですね、こんなに固くして」
「いいっ……あああ」

 かりりと噛まれて壱夜はまた仰け反った。その背中を抱えてさらに蒼人が胸の先を噛み、ちゅうっと吸い上げる。

「そこ……ばっか……やっ」

 壱夜は感じるのが悔しくて顔を腕で隠したものの、直ぐに蒼人にシャワーの床に押さえつけられてしまった。まともにシャワーの湯が顔にかかったのに、すぐにかからなくなったのを不思議に思って目を開くと、蒼人の美麗な顔が直ぐ上にあった。

「……壱夜」

 水に濡れた蒼人は、いつもに増して妖しい魅力を放っていた。その涼しげな眼が欲望に染まって壱夜を屈服させる。

「んんっ……」

 ずぶ濡れになりながら抱きしめられて口付けを受ける。シャワーの湯よりも熱く感じる蒼人の腕の中で、さらに壱夜は身じろぎした。するともうとっくに立ち上がっていた壱夜のものが、蒼人のものと複雑に擦れて甘美に疼く。水ではないぬめりがずぶぬれの下着の中で滴っていて、熱い塊をさらに熱くさせた。

「困った子だ。触ってもいないのに勝手に出しちゃあ駄目ですよ」

 蒼人の手が作業ズボンを下着ごとずりさげ、立ち上がったものを握った。

「んあ……あ、いっ……」
「ぬるぬるしますね……。胸を舐めただけで感じるなんていやらしい」

 胸の先を舐められながら、立ち上がったものを摩られて、壱夜はさらに蒼人を喜ばせるように身じろぎを繰り返した。

「あっ……駄目っ」

 亀頭の穴をぐりぐりと親指で嬲られてしまう。たちまち腰がじんと蕩け、あっけなく壱夜は達して欲望を吐き出した。三日ほどしていなかっただけで、ドクドクと粘りのある白い液体がシャワーに混じって流れていく。

「あ…………っあ……」
「あっけない……、縛っておいたほうが良かったかな?」
「やめ……も……おわ……てえ……」
「私はイってませんよ」

 淫らに上気した壱夜を抱えあげると、蒼人は舌なめずりをしながらズボンを脱いで、己のものをゆっくりと壱夜に埋没させていった。

「あんっ……」

 頭の先に新たな痺れが走り、壱夜は力が抜けた両腕で頼りなく蒼人の背中を抱きしめた。ゆっくりと突き上げられながら、その疼きに負けまいと懸命にしがみ付く。だけどもこの期に及んでも、シャワーの音に混じって女のように泣く自分の声が、自分のものとは壱夜は思いたくない。無理矢理されているのだ。感じるなんておかしい……。

「く……ああっ」

 深く繋がったそこが、ゆっくりと回されて中も複雑に擦れあう。壱夜のものからは先ほどから白いものが流れっぱなしだ。

「こんなに喜んで……、待っていたのかな? 仕事中にコレを考えたりした?」
「ひいっ……あ、あっ、あっ」

 再び床に押し倒されて激しく突かれた。両腕を固く床に押さえつけられて、蒼人の圧倒的な力に壱夜はすすり泣きながら声をあげ、蒼人を獣に変えてしまう……。

「いっ……ぃ……あうっ」
「ここがいいんだろう? このひと月で教え込んだ……」
「あっあっ……あお……と」
「ふふ……こんなに乱れて……可愛い……」

 抜かれては押し込まれ、再びはちきれそうになっている物を激しく愛撫されて壱夜は涙でぼろぼろになりながら蒼人に愉悦を訴えた。その首元に付いているチョーカーを、まるで犬のリードのように引っ張っられ、さらに乱暴に揺さぶられる。

「もっと、欲しいと、……言いなさい……」
「あ、もっと! も……」
「蒼人、と」
「あおとぉっ……ああああっ!」

 ぐちゅぐちゅと淫靡な音がひどくなり、壱夜はめちゃくちゃな愛撫を受けた。顔から唇、首から胸へと吸いつかれては舐められて、翻弄されてしまう。

「壱夜……、アイリーン……、そう、お前はもう……私から逃げられないんですよ……。絶対に手放さない!」
「あっ……あっ……あああああああっ…………っ」

 がんがん腰をうちつけられ、壱夜の視界は真っ白になった。
 蒼人の狂宴は、まだ終わりそうもない……。

Posted by 斉藤杏奈