清らかな手 第1部 第04話

 それから二週間ばかり、雅明はフレディと一緒の部屋で生活していた。雅明が嫌がってもフレディは片時も離れずに、絶えず雅明の身体のどこかに触れていた。

「は……ん……、気持ちいい……」

 今も雅明はシャツの前ボタンを途中まで外されて、そのはだけたところからフレディの手を入れられて胸を嬲られ、掠れた声をあげている。同時に肉棒をさすられていた。

 雅明はベッドに座るフレディの股の間にいた。その彼らを斜め上から監視カメラが見ている。痴態はアレクサンデルの部屋のテレビや、監視部屋の映像に映っていた。監視しているアレクサンデルの部下達はまた始めやがったと野卑た笑いを浮かべてそこに見入る。

 しつこいぐらいフレディに弱点の耳を舐められて、雅明は泣きながら愉悦を訴えた。

『ああっあああっ……フレディっ……苛めないで……』

『……こんなに固くして感じているんだな?』

『うん、そう……だから……そんなに……ああああっ』

 香油を塗られてすべりをよくされた肉棒を滑らかにこすりあげられ、雅明のアヌスがうごめいているのがカメラに映って見える。

 監視している男が口笛を吹いた。

「この銀髪男のアヌスって最高だよな。なんでこいつ女じゃないんだ?」

「さあね、神のみぞ知る……だろ? くっく」

『ああああああんっ……はああっ』

 背後からアヌスにフレディの肉棒を挿入され、雅明が大声をあげて蠢いている。その真珠色の肌を持つ肢体が蠢くさまに、男達はごくりと生唾を飲み込む。男達の目は嫌でも結合部に行く。ピンク色に染まったそこに凶暴な肉棒が激しく出入りしている。

「この銀髪ともう一回やりてえなあ。声もたまらないし」

「もう無理だろ、アレクサンデル様が明日のオークションで売るって言ってたしな」

「え? 早く売っちまうんだな?」

『フレディ、フレディ……ああああ……』

 映像の雅明はフレディにキスをせがみ、フレディが背後から雅明の顔を横に向け、激しく貪るようなキスを始めた。唇を舐めあい、赤い舌が絡み合っては離れ、つつきあっては再び唇が重なり合って唾液で濡れていく……。

「銀髪男、このフレディとかいう男と別れて大丈夫なのか? えらくなついてるぞ」

「だからセットで売るんだと。銀髪には劣るけど、こいつも見てくれはいいし、技も持ってそうだからできるんだろう」

「へえ……。悪どいねえアレクサンデル様は」

「そうでなきゃ議員様にはなれないんだろうな。ふん」

『アウグスト……っ』

 フレディのほうが先にいってしまったらしく、雅明が身体を震わせて喘いでいる。広がりきったアヌスから白い液体がにじみ出てシーツに染みを作っている。

『あ、あ、抜かないでくれフレディ……ああ……』

 するりと抜け出ようとしているフレディのものを逃すまいと、雅明のアヌスがひくついている。

『もういいんだ。いけ、アウグスト……そら、気持ちいいだろう……』

 フレディが雅明を押し倒して、ローズピンクになっている小さな乳首を舐めてしゃぶりながら、己の萎えた肉棒と雅明のぱんぱんになっている肉棒を絡みつかせてしごきだした。それも別の角度のカメラから鮮明に映し出され、水音までぬちゃぬちゃと聞こえてくる。 

 けぶる瞳で雅明はカメラ越しに監視している男達を見た。見えているはずはないのに男達はドキリとする。

「なんて目をしやがる……、こいつ」

「勃っちまったよ、やべえ……」

『……いい……とても……、あああ……フレディ……たまらない……んん』

 瞳を潤ませて雅明は涙を零す。それをフレディが吸っては瞼にキスしている。

『……っく……ああ』

 ついに雅明が達したらしく、フレディがわななく肉棒に吸い付いて精を飲んでいる。自分の指についたものも綺麗に舐め、そして再び雅明の身体を舐めだした。弛緩している雅明は開放感を味わっているのか目を閉じてうっとりとしている。

「シーツ、取替えに行くか?」

「……ああ」

 ハインリヒを残して、男達は出て行った。シーツを取り替えると称して、その前に男達は雅明に襲い掛かるのだろう。大抵はこのパターンだった。

 彼は何の感情もうつさない顔で、パソコンから映像カメラを見上げた。先ほどの男達がフレディをソファに追いやって雅明を犯している。ずっと何も言わなかったハインリヒは一人になってやっと口を開いた。

「いけにえの哀れな羊にたかる狼のようだ……」

 雅明の繊細な声にも、ハインリヒは心を動かされない。

 ある日の夕方、二人は数人の使用人たちの手によって入浴させられ、薄化粧を施されると、古代ローマの若者のような服を着せられた。

 白い大きな絹で巻かれただけの衣服。その端には金色の色で華麗な縁取りの刺繍がされていた。雅明の首には金の首輪がはめられ、その先はフレディの腕輪に繋がっていた。

 アレクサンデルは二人の仕上がりに満足すると、うつむいている雅明に言った。

「雅明、君を手放すのは惜しいが、お別れだ。新しいご主人様に友達と一緒に可愛がってもらうんだよ?」

 霞がかった茶色の瞳で雅明はアレクサンデルを見つめた。完全に自我を奪われている雅明は、無垢な子供のような声を出した。

「新しい……ご主人……さま?」

「そうだ、今日お前達はステージに立つ。それを客席から見ているお客様のどなたかがお前達の新しいご主人様だ」

「……はい」

 こくりとうなずいて、雅明はフレディにもたれた。懐いて甘える雅明をフレディはうれしそうに抱きしめている。

 ハインリヒは正装しているアレクサンデルに言った。

「最高の仕上がりですね」

「俺もそう思う。楽しみだ」

 黒いベンツに4人は乗り込むと、公開オークションの会場に向かった。

 オークション会場はとある街外れのホテルだった。

 目立たない外装だが内装は一流のホテル並みだ。富豪たちの隠れた嗜好の催し物のために経営されているホテルで、一般の人々にはあまり知られていない。

 控え室には、数十人の男女が番号札をつけられて待機していた。

 女は胸や局部を強調させるような衣装を着付けられていたり、絹のマントを羽織っていても内部は裸で縄化粧をされていたりしていた。媚薬を塗られているのか足元がおぼつかず、顔を赤くしている者もいる。男も大体は似たような感じだった。

 いずれも若くて美しい男女だったが、雅明とフレデリックの様におとなしくしている者はほんの数人だった。大半は泣き叫んだり、怒ったり、逃げ出そうとしては見張りの人男達に連れ戻されている。

 雅明はその様子に怯えて、フレディにぴったりとひっついて俯いていた。二人は一番最後が出番で、今日の特別品とプログラムには書かれていた。

 ステージに上がり落札されたのだろう、おそらくはまだ10代後半の黒髪の女が、落札者の富豪に連れていかれるのを嫌がって泣き叫んでいる。フランス語だった。

「いやあ! 帰して。私は旅行でドイツに来ただけなのにっ。なんで……誰か助けてよぉっ」

「黙れ、お前は30万ユーロで落札されたんだ。わしのものだ」

 黒髪の女は、仮面をつけた太った男に引き立てられていく。大なり小なりそういう光景が繰り広げられているが、雅明とフレディは椅子に座って黙っていた。

 落札された者たちは、次々に富豪に連れられて消えていった。大半はそのままその富豪の家へ連れていかれるのだが、中にはそのホテルに宿泊する富豪の部屋へ消えて行く。

 やがて控え室に二人きりになると、フレディが雅明にキスして言った。

「大丈夫だ、俺がずっとついているから」

「……はい」

 そこへ係員がやって来て、出番だと言った。二人は立ち上がり係員の後をついていって、ライトで光が溢れている舞台に立つ。

「さあ、最後の出品です。78番!」

 司会者の声に、現れた美貌の青年二人に客席から歓声があがる。

 アレクサンデルが、司会者に代わり、マイクを持って説明をする。

「これは二人一緒が条件です。この銀髪の青年はこの隣の男が一緒でないと駄目でしてね。なあに、邪魔にはなりませんよ、夢のような世界へこの二人ならいざなってくれます」

 客の中から、実践してみて欲しいと意見が出て、拍手が沸き起こった。雅明は拍手に怯えてますますフレディの後ろに隠れたがり、その様が客の富豪たちの嗜虐心をかきたてる。

 フレディがアレクサンデルに命じられて、ステージの上でやるように言う。フレディは急遽ステージ上に設置された簡単な作りのベッドに、雅明を観客によく見えるように横たわらせた。客達は固唾を飲んで二人を見ている。

 簡単に脱げる服が脱がされて、雅明の肌がさらされると客席からため息が聞こえた。

「なんて美しい……」

「欲しいな」

 そんなささやき声が聞こえてくる。

「これは特別に調教してありますので、五万ユーロ(約、五百七十五万円)から始めさせていただきます」

 雅明がフレディの愛撫で繊細な声をあげると、会場に熱気が加わった。真珠色の肌がだんだんと桃色に染まり、汗が滲み、悶えるように身体をくねらせる雅明に、客の視線は集中する。彼らは顔がばれないように全員仮面をつけているが、その目は男も女も赤く濁っていた。同じく仮面をつけているアレクサンデルはそんな客の様子を満足そうに見ている。

「六万!」

 早速、競りが始まる。

「六万五千!」

「八万三千!」

 競りあがっていく中、フレディは雅明のアヌスに自分のモノを挿入する。途端に、雅明が激しく悶えて絶叫する。

「あああああっ……! あ、あ、……く……ああ」

 一時中断し、客達はその雅明の様子を食入るように見ている。そのうち客の一人が言った。

「あれは……日本の佐藤グループの社長では?」

 ついに出たかと、アレクサンデルは口角を歪める。マイクを持つと言った。

「その通りです。彼は双子の兄です。でも佐藤の姓を認められていない上、佐藤社長からも親族としては認められていません。さらにこちらの親族からも勘当されております」

 佐藤貴明の報復を恐れる者たちは、この一言で不安が払拭されたのか、再び熱気が会場をうずまく。

「……あの社長は手に入らないが、あれなら……」

「痛い目に合わされたが、あの男には何も出来ない。それなら代わりに……」

 してやったりとアレクサンデルは思う。あの佐藤貴明は至る所で恨みを買っている。その腹いせが本人に出来ないため、鬱憤が溜まっている者がいる。そっくりな血縁者の兄を犯すという事で、歪んだ欲望を満たすことができたらという客の意識を利用しようというのだ。また女性客の中では身持ちが固すぎる貴明に不満を抱いている者もいる。消して振り向いてはくれない貴明にそっくりな雅明に抱かれたら……と、またそれはそれで歪んだ欲望が芽生えていく。

 今度はうつぶせにされて背後から貫かれ、涙を流して愉悦を訴える雅明に、客の嗜虐心はより一層かりたてられた。

「ぐ……ああ! はああっ……っ、駄目、駄目……もう……っ」

 激しく腰をゆさぶられて、淫らな空気がステージから客の席まで漂っていく。雅明はやがて果てた。

「十万ユーロ!」

 ついに日本円で一千万円台に入った。今度はフレディが自分のモノを雅明にしゃぶらせている。ちらちら見える赤い舌が悩ましくて、男の客達は今すぐ彼を組み敷きたいと熱っぽく見ている。

「十万一千!」

「十万一千五百!」

 さすがにそれ以上はなかなか伸びない。その中で若い男の声が響いた。

「百万ユーロ」

 日本円で一億円以上だ。さすがにどの富豪たちもこの値段を出そうと言う気にはなれない。静まりかえる会場に雅明の喘ぐ声だけが響いた。

 アレクサンデルは、客を囃し立てた。

「百万ユーロ以上は出ませんか?」

 すると、野太い男性の声が言った。

「百万一千」

「百万一千五百!」

 中年の女性の声も響く。しかし、百万ユーロと言った若い男性の声がさらに言った。

「二百万ユーロ」

 さすがにもう誰からも声が出ず、雅明とフレディは二百万ユーロで落札された。

 アレクサンデルはステージから係員に連れ出される二人を見て、満足げに笑う。想像以上に稼いでくれた。雅明を手放すのは惜しいが、金儲けの機会を失うわけにはいかない。

 若い男性はいくつものケースに入れられた二百万ユーロを現金で渡した。アレクサンデルはそれを部下に受け取らせながら言った。

「よい買い物をされましたよ」

「そうですね、貴方はどこで彼らを?」

「それは秘密です。またご縁があればいらしてください」

「わかりました、二人をもう連れて帰りたいのですが」

 客達は若い男性は一体誰なのだろうという目で見ている。たかが玩具に二百万ユーロも出すとはどんな酔狂者だと。アレクサンデルは男性を二人が待つ控え室へ連れて行くために、会場の出口へ向かった。オークションは終了し、やがて客達はそれぞれの家路へつくことになる……。

 雅明とフレディは衣装を普段着に着替えさせられて、男性の前に立たされた。

「雅明、フレディ。こちらの方が新しいご主人様だ」

 このオークションでは名前も顔も明かさないことになっているので、アレクサンデルも男性も仮面をはずさない。雅明はやはりフレディの背に隠れている。アレクサンデルは男性に説明する。

「新薬の6yhを服用させています。少量で効き目がありますし、その間は従順でしょう。しかし切れると暴れだしますのでご注意ください。新薬はお持ちですか?」

「ああ、しかし、この男は?」

「こちらにも打ってあります」

「ふむ、よかろう」

 男性の部下が数人現れ、二人を連れ出した。

「では私はこれで」

 男性はアレクサンデルに言い、アレクサンデルは頭を下げた。男性達が去るとハインリヒが現れてアレクサンデルに飲み物を出した。

「あれは一体どなたでしょうか?」

「さあな、金さえもらえれば誰でもいい」

「しかし、半年持つか持たないかの人間によくもまあ二百万ユーロも出しましたね」

「まったくだ。よほどたまってるんだろうね」

 6yhは少量で効き目があるが、毒性が強い。半年も毎日使い続ければ間違いなく死に至る恐怖の麻薬だった。それを知っていて雅明にこの一月打ち続けていたアレクサンデルは、悪魔というほかはない……。

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