おまけトリップ

 おまけトリップっての、知ってる?
 キャラメルのおまけみたいに、本命の人と一緒についてきた人間のことよ。
 
「神子様、今日はとてもお綺麗だったわね」
「うらやましいわ。王太子とご結婚だなんて。あんなに美しい方はそうそういらっしゃらないもの。次期王でもあられるし、お優しいし、剣もお強い上、学問も優れておいでだし……」

 へー、神子様こと大石かなえは、王太子とやらと結婚したのか。
 二十歳前で男と遊び放題していたあの女が、王子と結婚か。
 よかったじゃないか、玉の輿狙って合コン行きまくってたもんね。めでたいめでたい。これからは王族のお一人におなりあそばすのね。
 私は人参もどきをがんがん刻みながら、今の境遇を呪った。
 今日は晩餐会とやらのせいでノルマがめちゃくちゃ多い。
 野菜を朝から晩まで洗って刻んで洗って刻んで、こんな毎日もう嫌だっつーの!!
 てか、くっちゃべってるそこの二人もやらんかい!
 私の呪いの視線に気付かないサボり女達は、べちゃくちゃと話をしながらとうもろこしもどきの皮をむきはじめた。

「ところでさあ、おまけの人はどうなったの?」

 どき。

「おまけぇ? 何それ」
「神子様と一緒にくっついてきたそうよ。すんごいちびのねずみみたいな女が」

 どきどき!

「知らない。そんな付属品みたいなの必要ないから捨てたんじゃない?」

 私はゴミか! 思わずにんじんもどきを一刀両断してしまい、まな板まで割りそうになった。
 でも二人ともまさかそのおまけが私とは夢にも思ってないから、べちゃくちゃと話しながらとうもろこしもどきの皮を剥いていく。

「なんでそんなのがくっついてきたの?」
「がめつい女で、私が神子だって言って聞かなかったんだって、お気の毒よね神子様」

 あの女、そんな事抜かしやがったのか!
 私は元の世界に戻すように通訳しろって言っただけなのに。
 かなえは神子だからこの世界の言葉が瞬時にわかったらしいけど、私は神子じゃないからわからなかった。人が話せないのをいい事に好き勝手に改変しやがるとは、さすが社内根性悪女ナンバー1だけある。
 なんで私がおまけトリップしたかと言うと、召喚の穴に落ちたあの女がたまたま通りかかった私の足首を掴んだせいなのよ。
 あーあ、あの時コーヒーを買いに休憩室に行かなきゃこんなことには。あのうざいかなえが消えた会社はさぞ平和になっただろう。
……満喫したかったな。その世界。

「魔道師のロシェック様がすぐにそのおまけを引き下がらせて、神子様はご無事だったみたい。それから後、おまけがどうなったかは誰も知らないのよ」
「へー。神子様を騙ろうとしたんだったら重罪だわね」
「馬鹿よねー」

 馬鹿は、あの女のでまかせを信じ込んでるあんたらだっつーの!
 二人は料理長がやってきてギロリと睨んだおかげでおしゃべりを終了し、猛烈な勢いでとうもろこしもどきの皮を剥き始めた。
 いけない。私もスライサーとして刻みまくらなければ。と、思って頑張ってたのに、

「ちょいとあんた、チャボコを二十個持ってきて」

 人使いの荒いおばちゃんに用事を言いつけられた。
 えええ、食料庫って地下の真っ暗ゾーンじゃん。
 やだなあもう!
 でも逆らえない私は黙ってうなずいて、汚れ気味のエプロンで手を拭いた。
 新入りでみよりがない私はいい小間使いだ。おまけに話せないし告げ口も出来ないからと、皆にあれこれ使われ放題。早くもとの世界に戻りたい……。
 式典が行われている王宮からは、綺麗な音楽が漏れ聞こえてくる。
 お貴族様やかなえ神子様は、ダンスなどを楽しんでいらっしゃるんでしょうね。
 ああもう腹が立つ!
 こちとら朝から夕方の今まで、立ちっぱなしの刻みまくりで何にも食べてないのに。
 履き慣れない木靴をずるずる引きずって、地下へ続く階段を下りた。
 ところどころに蝋燭もどきが燃えてるけど、そのゆらゆら照明のせいで私の影もお化けみたいに揺れて気持ち悪い。
 ……手、あかぎれだらけで痛いなあ。
 おなか減ったなあ。
 テレビ観たいなあ。
 出ない声を出してみようとしたけど、かすれた息が出るだけでやっぱり話せない。あの極悪神子と極悪王太子と最極悪魔道師覚えとけ!

『余計なことを話されると困るんですよね。だから貴女には話せない人になってもらいます。でも言葉がわからないのはかわいそうだからわかるようにしてあげる』

 最極悪魔道師は、虫も殺さないような優しげな顔で残酷な魔法を私にかけたのよ。
 ああやめやめ。奴について考えるのはよそう。
 それよりかぼちゃもどきを20コか。かぼちゃもどきは坊ちゃんかぼちゃみたいに小さいから楽ちんかな。
 食料庫に山と積まれている野菜達の一番奥に、かぼちゃもどきの山があった。
 これだなー。
 掌を広げたくらいの大きさのかぼちゃもどきを、背中に背負う籠の中にごろごろ入れた。
 一個一個は軽いけど20個だとどれくらいの重さになるのやら……。

「運んであげましょうか?」

 聞き覚えのあるムカツク声が暗闇の中から響き、私は警戒マックスにしてそっちへ目を凝らした。やっぱり、じゃがいももどきの山から姿を現したのは、最極悪魔道師のロシェック!
 な、なんでこんなとこにいるのよ! 背後に下がろうとしてもここは一番奥だし。
 ロシェックは、いつものズルズル衣装ではなく、お貴族様の普段着みたいな簡素な格好をしていた。それだけにやたらと長いストレートの銀髪が目立つ。アジ○ンスでも使ってんのかって位サラサラヘヤーが軽く嫌味だ。
 お断りだ、邪魔だからどいてください! と言いたいけど、こいつの最極悪魔法のせいで声が出せず、ぎっと睨みつけるだけで精一杯なのが情けない。
 それよりなぜこんなとこに居るの!
 私が左へ行こうとすると左へ、右へ行こうとすると相手も右へよってくるせいで、私は一向に前へ進めない。何のいじめだろこれ。早く帰らないとおばちゃんに怒られるのに。ただでさえ人手が足りないんだから邪魔すんな!

「だから私が魔法で運んであげましょうって、親切に言ってるのに」

 悲しそうな顔してるのがわざとらしい。
 だったらどいてよ!
 こうなったら強行突破しかなさそうだ。
 多分、こいつの体重より、今の私のほうが重いはず。
 カボチャモドキ+私の体重だからね。
 じりじり……と後ろに下がって助走の勢いをつけて一気に突っ込んだ。……つもりだった。

「おっとー。この先は肉が漬け汁に入っている樽ですよ。ひっくり返したらどうなるやら」

 声が出たのなら、ぎゃーっと大声で叫びたい。
 カボチャモドキの籠が消えて、最極悪魔道師に抱きしめられている私を誰か助けて!
 抱きしめられてるというより、捕獲されていると言ったほうが正しいのかも知んないけどさ!

「ねえねえ? 厨房の仕事しんどいでしょ? 嫌でしょ? いい加減諦めて私の嫁になりたいなーとか思わない?」

 まだそんな寝言言ってやがるのか、このやろおおおおおうっ。
 そうなのよ、こいつすんげえ鬼畜で、自分と結婚するなら声を返してあげると言って迫ってくるのよ。
 なんだって私がこんな腹黒仮面の妻にならなーあかんのだっ。
 ああ? 将来有望だとか、実は第一王子なんだけど王太子が嫌で辞退して魔道師になってるとか、私にはどーでもいい情報だからね!
 銀髪ストレートのサラサラ長髪だろうが、金色の目とか、王太子より美形だとか、まじでどうでもいいんだよ。私のタイプはマスオさんであって、腹黒魔道師ではない!

『いやだっつーの! 離・し・や・が・れ』
「声でないのに必死だなあ。んふふ。そんなところが可愛い」
『るさい、黙れ変態。こっちは忙しいんだから離せっつーの』
「だからあ、チャボコはたった今魔法で厨房に送ったよ。あとは私とのあつあつスウィートタイムだけ~」

 砂吐きそうな単語をさらっと言いやがる極悪魔道師の顎を石頭でごつんこし、奴の腕が緩んだ隙に私は食料庫から飛び出した。
 そりゃもう必死よこちとら。あんな変態に暗闇で襲われたらたまんないからねっ。
 螺旋下院段をガンガン木靴でずり上がって、ぜーはーとなんとか地上に出られた……、ああ……しんどい、死にそうだ。よたよたと石畳の上を歩いて、食料庫の壁にへたった。まだ二十歳なのに運動不足のせいで、たかだか階段50段で息あがるとは情けない……。

「大丈夫ー? いきなり走ってくからびっくりしたよ」
『………………』

 ただでさえ疲れているのに、さらなる疲労を呼び込む男の声がした。
 そうだね、こいつは魔法使えるからね。
 でももう逃げる気力がねええ……。足ガクガクなんだこれが。

『王太子ご夫妻のパーティーはいいんですか?』
「ん? なんでそんなもんに私が出なきゃいけないの?」
『あんたの弟の結婚式のお披露目パーティーでしょ?』
「だってあいつら嫌いだし」
『…………』

 なんつー我がまま男だ。普通いくら嫌いでも兄弟の結婚式は出るだろうよ~。
 でもなんか上手い事言い繕って欠席しやがったんだろうなこの男。
 皆みーんな騙されてんだ、こいつの優しげな外見に。
 なんで私、会った瞬間に気付いてしまったんだ、こいつの極悪オーラに。気付かなきゃきっと元の世界に即戻してもらえたはずなのに。
 ロシェックの指がうつむいている私の頤をゆっくりと撫でた。猫じゃないぞ私は。

「そうだねえ。君が初めてかも、気付いたのは」

 何で皆気付かないのか不思議だよ。

「んふふ。女は美形をフィルター通して見るからね。男は仕事できて人脈ありゃいくらでもごまかし可能」
『離せっての!』
「ふふふ……そんなところが可愛いすぎる」

 私が動けないのを良い事に、ロシェックは勝手にお姫様抱っこする。
 やめろおおおおっ。誰かに見られたらどうすんのっ。
 と思ったら、世界が真っ暗闇からきらびやかな室内に変わった。お貴族様のお部屋のようだけど……、部屋の奥にあるベッドに抱いて連れて行かれてる。
 私、ひょっとして大ピンチ?

「私の部屋へいらっしゃーい」

 どっさああああっと荷物のごとくベッドに落とされ、そのまんま奴に身体の上をダイブされた私は動けなくなった。
 やばいやばいやばい。冷や汗だらだら流している私を横目に、ロシェックは興奮気味に顔を高潮させている。
 壮絶に色気がだだもれなのが怖すぎる。やめ、やめてよ服の上から身体を撫でさするのはっ。

「もうさあ……待てないんだよ。一週間待ってあげたけど、もう限界。今すぐ選びな。私の嫁になるか、声をこのまま失ったままでいいのか」
『あんたの嫁になるくらいなら、声がないままでいいわよ』

 口パクでも思いっきり嫌味たらしく言ってみた。奴は早くも日本語マスターしていて口の動きだけで会話が出来るから、ついでにべーってしてやった。
 かなり胸がすっとしたと思ったのは一瞬で、次は冷や水をどっばーっと浴びた気分に襲われた。
 奴が私の作業着に手をかけて、一気に前を破いたから。

『きゃーっ! 何すんの!』

 金色の目を猛獣のように爛々とさせながら、奴は声も出さずに笑った。

「……ふ、そんな生意気な口が聞けるのも今のうちだけですよ。身体に「嫁になります」と言わせてやる……!」
『冗談でしょーーーーーっ。私は結婚相手としかやりたくない!』
「大丈夫、私が夫になるのだから望みは叶います。良かったですね」

 もろに胸を揉みくちゃにされながら首筋をべろりと舐められる。
 ぞくぞくぞくーっと、得体の知れない物が背筋から這いのぼってきた。

『やだああああっ。私は料理長みたいな優しいおっさんが好きなんだからぁ』
「じゃああのおっさんはクビですね。似たようなタイプは皆王宮から追い出しましょう」

 美麗な顔でロシェックはニヤニヤ笑い、一方で何やら得体の知れない嫉妬の炎を燃やしながら、自分の指を舐めてから私の秘唇をぬるりと撫で、私がびくつくとうれしそうに笑う。
 ううう……感じちゃってる私だけど強姦だろこれーっ。この異世界ではこれがセオリーなの? とかなんとか思いつつも、身体はさらにロシェックに反応してしまう。
 私は優しいおっさん以上に美形に弱いから、どうにもならない。
 この男は顔だけは極上なんだ、顔だけは……。

「声が出ないのがざんねんですねー。きっと可愛い声が聞こえるでしょうに」
『極悪人! は……あァっ……や、んっ』

 長い指があそこにぬるりと入ってきて、柔らかくほぐしていくのが痺れる。
 絶対になんか魔法使ってるよー。初めては痛いはずだ。怖いはずだっ。卑怯者ーっ!!!

「極悪ですよー。極悪でないと魔道師なんてなれませんからねー。さあどうします? 嫁になるのなら今は犯しませんがね」
『どっちみちやるんなら同じでしょーが、変態っ!!」

 つーか、もうほとんど犯してるじゃん。
 足に奴の固くて熱いものが押し付けられてるのが生々しい。勘弁してよもうううううっ。
 綺麗な顔が私の胸に埋まり、ぺろぺろと先を舐めるのが恥ずかしいっ。
 と思っていたら、完全に奴の指が私の中に納まった。

『あああっ! やめ、』
「感じてるんだうれしいな……」

 こっちはうれしくないわーっ。
 なんとかせねば。
 なんとかせねば。
 えーと、えーとっ。

「大体なんで元の世界に戻してくんないのよ。ははーん、さては戻せないのね?』
「私と結婚するのなら戻してあげますよー」

 それはまさしく天啓の如く私に降臨した。
 私は思わずじいっとロシェックを見上げてしまった。
 奴はにこにこ笑っている。

『まじ?』
「私はうそはつきませんから」

 結婚したら元の世界に戻れるの? それはいい! 
 結婚なんてここの世界でも紙一枚だけのもんだし、すぐに離婚すればいい話だ。もし仮に元の世界に戻ってこいつがついてきたところで、衣食住の面倒をみる義理なんぞ無い。置いていって知らん振りしてやればいいのだ。
 そんな意地の悪い考えを腹の中に隠して、私はロシェックに言った。

『声も元に戻る?』
「もちろんですとも。私と結婚するのならね」

 貴族のお嬢様&オバサン達が、魅了される優雅な笑みを浮かべるロシェック。

『よっしゃあ。結婚しましょう!』

 元の世界に帰りたい&声を取り戻したい私は、すぐに離婚するつもりで結婚を承諾した。
 奴はそんな私に天使のように微笑んでいた。
 そりゃもう清らかなほどに……。

「母上ー。ジャックが僕のペンを取った!」
「ちがうよ! アールが勝手に使ってたんだから」

 …………。
 目の前で騒ぐのは、自分の子供には思えないような銀髪美形のお子様達。
 しかも全員男で三人も居るんだよ、ちくしょう。
 毎日こいつらに振り回されてクタクタなのに、夜には旦那の相手でクタクタの私。
 なんでこうなったんだ。

 知らなかったのよ。この世界で離婚が認められていないなんて。
 なんでも一生添い遂げるのが当たり前で、相手が死んだ以外の再婚は犯罪になってしまうらしい……。
 そんでもって結婚すると、つまり相手と一回でも寝てしまったら、元の世界へ戻れない身体になってしまうんだそうだ。

「……最極悪魔道師め」

 ロシェックの趣味のやたらと乙女チックなドレスを着させられ、臣下に下って公爵になったやつの妻になった私。
 声は出るようになった。
 朝から晩まで厨房に居る必要はなくなった。
 だけど、奴と奴の子供の面倒で一日が終わるのはなんなの。
 子供は嫌いではない、好きだ。
 好きなんだけど、どいつもこいつも奴のコピーみたいに根性が腹黒い。

「兄さんのラブレター、きっちり清書してあげましたよ」(次男ジャック、得意技:人の隠しているものの粗探し)
「お前の彼女、僕に乗り換えるだって。顔だけで頭脳がないとはお気の毒にな、お前とは言わないけど。アール、お前の彼女もだよ」(長男チャーリー、得意技:人の物を奪い取る)
「うわああん、兄さんが僕を馬鹿にするー。母上から父上に言ってー」(三男アール、得意技:天使顔を活かして人を操る)

 あいつのコピーがなんでこんなに増えてるの! 明らかに世の中の害だよこれは。
 根性を直そうにも奴の遺伝が優秀すぎて、外面が最高にいいから誰も気付かない。わかってるのは母の私だけというありさま。
 ああ、この子達の嫁になる子が可哀相過ぎる。
 深いため息をついていると、その諸悪の根源が仕事から戻ってきた。
 相変わらず早い。もっと残業してくれないかなー。

「ただいま。皆仲良くしてたか?」

 天使のようににっこり笑う最極悪魔道師に、天使のように一斉に返事するお子様達のその威力……。
 大昔のなつかしのメガンテのよう。
 以前に就職説明会にいたなー。メガンテ使う悪徳? 社員がさ。
 でも仕事はいいでしょ、嫌になったら辞められるから。
 この世界の結婚は辞められんのよ。とほほ……。

「じゃあ母上はこれから私と遊ぶので、皆はもう寝なさい」
「はい」
「はーい」
「はぁいっ!」

 お子様達が出て行った瞬間に、私の腰をガッシと両腕で巻き取り、奴は熱烈キスを私にする。
 うええん、始まったよまた今夜も。ちゃんと寝られるのかしら。
 抱かれるが嫌で、だめもとで話題を振ってみる。

「……かなえはどうしてる? 神子をちゃんと出来てる?」
「神子って誰でも良いんですよね。国王の好みがあの変な女だったってだけで。なんの神力もいらないのに、誰もそれ知らないのが不思議でなりませんよ」

 変な女って、あれでももう一応王妃なんだよ……、なんかかなえも現実を知ったのか最近痩せてるよね。
 この前の舞踏会の時会ったけど、毒舌に精彩を欠いてたし。国王に猛愛されてると聞いたけど幸せすぎるのかな。うらやましい奴め。

「ああでも、あの変な女のおかげで貴女に出会えたのだから良かった。あの変な女を見捨てて歩いていこうとする貴女に一目で恋に落ちたんですよー。あれ? どうしたんですそんな泣きそうになって。幸せすぎるからですね? 良かったですねえ、子供は元気だし私も元気だし。前途洋洋ですよ、元の世界に戻らなくて正解」

 そうか、やっぱり幸せすぎると痩せるのか。そうか、そうか……。ベッドに押し倒されながら、私はやっぱり失敗かと心内で舌打ちをした。

「やだなあ泣いちゃって」

 泣いてないわよ。

「これからもっと気持ちよくなって泣かせてあげますから、そんなに泣かなくてもいいんですよ」

 誰か時を遡って、結婚を承諾したアホの子の私を殴って止めて頂戴。
 もしくはもっと遡って、コーヒーを買いに行こうとした私を止めてくれ。

 どうやらこいつにとっては、私が本命で神子がおまけだったらしい。
 職権乱用魔道師をなんで駆除しないのか不思議だよ……。
 それでも繁栄しているこの国、こんな人間ばっかし。トホホ。 

 異世界トリップ、最悪だ。

「異世界トリップなんて、誰得なのよおおおおおおおう!」

──── 召喚した人間に決まってるでしょ。byロシェック(美しすぎる悪魔の微笑と共に)

Posted by 斉藤 杏奈