アイリーンと美獣 第04話

 翌日、壱夜にとっては屈辱的な事に、素っ裸な上、男の腕の中で目覚めた。そしてさらに腹が立つ事に、男はとっくに目覚めていて自分の寝顔をじっと見ていた。

「おはよう壱夜」

「……なんでお前、こんな事するんだよ」

「風情がない。第一声がそれですか?」

 蒼人は残念そうに小さく息をつくと、壱夜のフワフワの茶髪を梳いた。いかにも手馴れている仕草がますます壱夜の癪に障る。きっと蒼人には何人も愛人とか恋人とかいるはずだ!

「……いきなり襲われたりさらわれたりしたら、誰だって僕みたいになると思うけど?」

 口を聞いているだけでもマシだと思って欲しいくらいだ。逃亡先まで追いかけてきて誘拐して犯すとは、どれだけ鬼畜だと思う。壱夜は蒼人の腕を振り解くと馬鹿広いベッドから飛び降りた。

「シャワー借りるぞ」

「どうぞアイリーン」

 嫌なあだ名で呼ばれて壱夜は蒼人を睨んだ。蒼人はベッドから起き上がって穏やかな微笑みを浮かべながら、裸の上に白いバスローブを羽織って腰紐を結んでいる。

「なんでお前がその名前知ってんだよ?」

「なんでって、君の店の社長とは知り合いですから」

「知り合いって……! まさかお前っ」

「はいはい、それについては詳しく話してあげるから、とりあえずシャワーを浴びておいで。裸で寄って来られると、またこっちも自制心がきかなくなるからね」

 自分が全裸だという事を思い出して、壱夜は慌ててバスルームに飛び込んだ。遠くで蒼人が爆笑しているのが聞こえてかなり悔しい。男同士なのだからここまで恥ずかしがる必要は無いのに、なぜか壱夜は蒼人を意識してしまう。

「げっ! あのやろー」

 改めて見ると、身体中至る所にうっ血跡があった。特に首筋がひどい。全身が映る大きな鏡の中の自分は、いかにも昨日やられまくりましたと言っている。これはタオルか包帯を巻いておかないと、他人にあらぬ誤解を受けて、とんでもない事になる。

「くそ……あの変態め!」

 昨夜、さんざん舐め回された事を思い出した壱夜は、赤面して身体中に泡を塗りたくった。もしも自分が嫌がっている事を知ったら、あの蒼人の事だから余計に嬲るに決まっている。壱夜はぶつぶつ一人で呟いて、もくもくと身体を洗った。

 用意されていた服を着て浴室から出てくると、キッチンに卵の焼けた美味しそうな匂いが漂っていた。壱夜は無言で席に着き、蒼人のすらりとした長身の後姿をじっと見つめ、あんなふうに自分も背が高けりゃなとうらやましくなる。あんな身体を持っていたら、こんな屈辱的な目に遭うこともなかったはずだ。

「お待たせ。じゃあ食べようか」

 味噌汁の碗をそれぞれに置くと、蒼人は微笑みながら壱夜の向かいの席に着いた。

 かちゃかちゃと食器が触れ合う音以外は響かない、静かな朝食が始まった。

(くそー……、レイプ犯の癖に優雅に食べるなこいつ)

 壱夜は舌打ちしたい気持ちを堪えて、焼鮭をほぐして口に運んだ。程よい焼加減の鮭は時鮭のようで、脂が程よく載っていてとても美味しい。壱夜の給料では時鮭はちょっと抵抗を感じる値段な為、チリ産ばかりだ。ご飯も釜で炊いたように美味しい、味噌汁も出汁が上品に利いている。

 料理が旨い上、優雅に食事するレイプ犯てなんだよと、壱夜はこっそりため息をついた。蒼人はそんな壱夜を穏やかに眺めやりながら食事をすすめて行く。そしてご飯を食べ終えると、お茶を入れてくれた。

「……もう聞いてもいいのかよ」

 ぼそりと壱夜が口を開くと、蒼人は微笑んで湯飲み茶碗をテーブルに置いた。

「ああ、さっきの君の勤め先の社長と、私が知り合いという件ですね」

「……そうだよ」

 蒼人はくすりと笑うと、黒い前髪をかき上げた。

「簡単ですよ。君の上司の畑中チーフは、実は社長なんです。そして私の部下の一人です」

「はあああああっ!?」

 あんぐりと口を開けてびっくりしている壱夜に、さらに蒼人は続ける。

「本当の事をばらすと、君、半年前に逃げたつもりだっただろうけど、私達は三日後には君を見つけていたんだよ」

「何?」

 蒼人は湯飲みを口にすると、少しだけ飲んでテーブルに戻した。

「すぐに迎えに行きたかったのだけど、ちょっと家族の間でごたごたがあってね、思ったよりそれを片付けるのに手間取ってしまって、まあごたごたを起こした相手にはそれ相応に報復してあげたよ」

「報復?」

「そう……」

 報復とはなんだろうと壱夜は考えた。それを見つめる蒼人の微笑みにゆっくりと影が差していく……。それを目の当たりにした壱夜は目を逸らして、自分の湯飲みに視線を落とした。

 そういえば、こいつはたしか……。

「それって……」

「二度とお日様を拝めないようにする事です」

「……二度と?」

「地べたに這いつくばってでも空気が吸えていたら幸せかな? 少し悪くて日本の土の中……、悪くてどこかの海で魚に突かれているのかも?」

 死を意味する言葉を微笑みながら言う蒼人に狂気を感じ、壱夜は知らずに身体をぶるりと震わせた。

(やっぱりこいつ、ヤクザなんだ)

 蒼人の目にあの妖しい影がユラリと立ち上がり、先ほどまでの朗らかな気配が完全に消えた。

「こわい?」

「…………」

 立ちあがった蒼人が手を伸ばしてくる。それはまさしく魔物か死神の手で、壱夜は恐ろしさに椅子から転げ落ちるように抜け出し、リビングの出口へ走った。しかし呆気なく青人に捕まり、リビングの冷たい床の上に押し倒される。壱夜は恐ろしさと相まって叫んで暴れた。

「離せっ……! 離せよ!」

「往生際が悪いですね……」

 目をぎらつかせている蒼人が化け物に見える。大体この男は正体不明すぎる。惚れ惚れするような優しい微笑みを常に絶やさないくせに、何故自分と話しているとスイッチが入ったように豹変するんだろう。

 頭の上に押さえつけられた両手をなんとかしたいが、やはり動かせない。この男は優しげな外見とは裏腹に、壱夜の倍の怪力の持ち主らしい。

「ひ……」

 股間を押し付けられて、壱夜の背中に妖しい痺れが走った。とんでもない事に蒼人は朝っぱらから壱夜に欲情している。張り詰めてかちこちに固まっているのが布越しに伝わってきて、何故か壱夜の方が赤面した。

「ふふ、恥ずかしいのですか? やっぱりアイリーンは可愛い」

「だから。お前……、それ、やめろって……うああっ」

 耳の中を突然舐められて、壱夜は腰に熱くて淫らなものが走った。節操がなくなってしまったのか、自分のものが一気に立ち上がってしまったのがわかる。

「お前……っ、わざとっ、やってるだろ!」

「と・う・ぜ・ん」

 いちいち熱い息を吹き込みながら蒼人が答え、そのたびに壱夜は甘い刺激で、がくがく身体を震えさせる。耳朶を軽く噛まれただけで手足の力が抜け、これは気持ちいいと言う身体の訴えに負けた壱夜は、女のように声を張り上げた。

「ああ……あ……!」

 もう壱夜が反抗する気が無いと見て、蒼人は掴んでいた両手を離し、シャツのボタンをはずして、尖った小さな乳首を意地悪く摘んだ。

「うはあっ……いっ……あ!!」

 ねじるように引っ張られた後、ねじ込まれて揉まれていく。痛いのに気持ちが良くて、壱夜は首を振ってその疼きを逃そうとした。

「壱夜は胸の先を吸われるのが、好きなんでしたね」

「ば、僕は……女じゃ、ね……あ!」

 蒼人の手が壱夜の両胸をシャツのボタンを全部外して露出させ、片方を唇が、片方を力がある割には細い指先が、いやらしく苛んだ。

「あ……あ……、もっと……あ……っんっ……、やだ、それ、……だめ」

 蒼人が、壱夜の立ち上がったものを、自分の腹で前後に擦りあげて刺激する。白い胸に昨夜つけた赤いあざをさらに増やし、唾液でべたべたにして、蒼人はべろりと自分の形のいい唇を舐めた。

「正直な子は好きですよ。アイリーン……」

「……ああっ……ンあ……や、や!」

 睫を震わせている壱夜の首筋に顔を埋めてきつく吸うと、蒼人は壱夜のズボンのベルトを外し、立ち上がっていたものを乱暴に取り出して握り締めた。

「あああっ……ひいいっ……」

 電流が熱く流れ、壱夜は仰け反った。じんじんする愉悦が、頭を真っ白に染め上げてイきそうになる。涙を流す壱夜を蒼人はうっとりと見下ろした。

「ああ……たまらない、壱夜の感じている顔ほど、私を興奮させるものはありませんよ」

 しゅっしゅと音がしそうなほど、蒼人の手が壱夜のものを激しく上下に擦りあげる。そのうずきにもだえる壱夜をしばらく楽しんだ後、形を固く誇示させて蜜がしたたるそれを、蒼人は顔を壱夜の股間に沈めて口に含んだ。

「はあ……あああ!」

 温かな口腔内のぬめぬめとする感触が、壱夜の腰をいっそう蕩けさせた。もう何も考えられない。その口の動きと舌の弾力が巻き起こす快感を、強く感じたいと言わんばかりに壱夜は腰をいやらしく揺らしてもだえ、蒼人を喜ばせた。

「やあんっ……ん、ん、ん、……あんっ」

 壱夜は蒼人の頭を、何のためらいもなく股間へ押し付けてしまった。無意識のその行動が蒼人をますます煽り、立ち上がって解放を求めるそれへの刺激を、よりいっそう強めていく。

「ああっ……ああっ……あお……と……、あああっ、気持ち……い……い!」

 小さな入り口から先走りの蜜が溢れると、蒼人の唇がヒルのように吸い付いて早く出せと催促する。

「あぁあーっ……それ以上は……っ」

 壱夜は我慢が限界に達し、蒼人の口の中へ大量の蜜を吐き出した。それでもさらに吸い付かれて、壱夜は終わらない悦楽に身体に汗を滲ませる。そして、かろうじて身体に引っかかっていた衣服を、剥ぎ取られていった……。

 ぐったりした壱夜の裸体を、蒼人が自分の膝へ抱き上げた。うっすらと目を開けた壱夜がぼんやりと見ると、蒼人も服を脱ぎさっている。

「ねえ? そんなにやくざは怖いですか?」

 再び立ち上がったものを擦りあげられ、壱夜は身体を細かく震わせて泣き叫んだ。

「いや……っ……やーっ……!」

 爛々と目を輝かせ、日ごろの紳士振りが消えうせた蒼人は、獣そのものに背後から壱夜を弄ぶ。

「そうです、私の父はやくざです。私は父と縁を切るつもりはありません。だって、この世界が好きですからね」

 抱きしめられて、うなじに噛み付かれた壱夜は痛みで理性が戻り、身体を反転させて蒼人から逃れようと這いつくばった。しかし射精したばかりで、快感がまだ身体の感覚を鈍らせていたため、あっけなく蒼人に圧し掛かられて捕まってしまう。

「逃がしませんよ。もう二度と」

「……あ」

 蒼人の人差し指がすうっと背筋を降りていき、尻のすぼまりへ蜜を利用して入り込んできた。物をそこに入れたことがない壱夜は、気持ち悪さと痛みに逃れようとする。壱夜の伸ばされた右手に蒼人の右手が重なって、リビングの床に縫いとめた。

 妙にドスが聞いた声で、蒼人が壱夜の耳元に囁く。

「……逃げたりしたら……、監禁します。そしてもう二度と外に出られないように、快楽の淵に沈めて官能の鎖で縛ってあげましょう」

 カチャっと金属の音が背後でおき、指が引き抜かれる代わりに熱いものが押し当てられた。何をされるか分かった壱夜が、また逃れようと足を踏ん張らせたがもう全てが遅かった。

「ひいっ…………、ああ…………っ!!!」

 灼熱の熱さとこじ開けられる痛みが、捕らえられた壱夜を容赦なく貫いた。

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