アイリーンと美獣 第13話

 翌日、壱夜は昼過ぎまで寝ていたところを岩井に起こされた。案の定腰はだるくて手足も力が入りにくい。舌はしびれて痛いし、ろれつが回りにくいような気がする。おまけに喉も叫び過ぎたせいで痛かった。

何故か蒼人の白いカッターシャツと自分のジーパンを履いていた。おそらく蒼人が着せたのだろう。

「……蒼人はどうしたんだよ?」

「蒼人様は今日はお戻りになりません……ですが」

 何故か岩井が壱夜を横抱きにしてリビングまで運んでいく。いつも蒼人が座っているソファに見慣れない若い男が居て、壱夜は眉をひそめた。

「……誰?」

 男は小さく笑っただけだった。代わりに岩井が答えた。

「この方は蒼人様の弟にあたる方で照久様です。照久様、こちらは……」

 岩井が言う前に照久が手をひらひらと振った。

「あ~、いいっていいってわかってる。兄貴の恋人の壱夜ことアイリーンだろ?」

 照久と向かい合わせのソファに座らされた壱夜は、認めていない事柄と言っていないはずの個人情報に怒った。

「バカやろ! 僕は誘拐されたんだっ。そんでもって監禁陵辱され中の可哀想な男なんだよ! あいつの恋人じゃねえっ。それになんでお前が僕のアダ名知ってんだよっ」

「ピーチクパーチクうるせえ男だな。兄貴に決まってるだろ。おい岩井、こいつ教育がなってねえな。なんて口の聞き方だよ」

 人差し指で片耳を塞ぎ、照久はガラスの灰皿に煙草の灰を落として再び煙草を口に咥えた。岩井がそこへ壱夜にホットミルクを持ってきて、ソファの前のテーブルに置いた。照久の前に置かれていた珈琲の苦い香りにミルクの甘い香りが混じり、照久がおかしそうに吹き出した。

「ひゃっははは。お前22歳にもなってホットミルクかよ」

「っせーな岩石男! 僕だってブラック飲みてえよ。お前の馬鹿兄貴がいじめるからこんなもの飲むはめになるんだろうがっ」

「岩石男ってなんだよ。意味不明」

「お前マジであいつの弟? 全然似てないじゃん」

 はっと鼻で笑った壱夜に、照久も笑った。

「男に抱かれてあんあん泣いてた奴は、さすがに女みてえなくだらねえ事に目をつけるよな」

「なっ」

「昨夜兄貴にケツ掘られて、気持ちよさそ~にしてたじゃねえか」

 壱夜に昨夜の記憶はほとんどない。椅子で嬲られていたのは覚えているのだが、気がついた時には蒼人のベッドの上で寝ていたのだから。ただ全身痛いしとにかくやられまくった事はよくわかる。指を動かすのも面倒な程だるい。

 くっくと照久がまた笑った。

「まあしょうがねえさ。兄貴は絶倫だからよ。女でも抱かれたら2日は寝こむぐらいだからな」

「……そういやあいつは何処行ったんだ? 今日は休みだろ」

「本家だよ。おふくろの呼び出し」

「え? あいつに母親なんているの?」

 びっくりしている壱夜に照久が爆笑した。

「ったりめーだろ。木の股から生えてきたとか思ってんのか? 男と女がナニして女が産まねえとガキが出てこれるかよ」

 そうは言われても、どうしても壱夜には蒼人の赤ちゃんの頃や、子供の頃など想像できない。いつもすましていて、残忍で、それいでいてしっかりした大人で……。壱夜はなんとなく気まずい思いをかかえ、思い出したように甘い匂いを放っているミルクを啜った。適度な甘さに岩井の心配りが感じられる。

 気づけば岩井は何処の部屋に行ったか、リビングから姿を消していた。いきなり初対面の強面男と対峙している事に気づき、壱夜の目は警戒するように照久を見た。

「お前な~。そういう目すっから兄貴が夢中になるんじゃねえの?」

 照久が灰皿に煙草を押し付けて消した。その仕草は妙に雄を感じさせるもので、壱夜はぎょっとしてソファの背もたれに仰け反った。

(岩井の馬鹿やろ! なんでこんな強面男と二人っきりにするんだよ! 殴られたら痛いじゃん)

 壱夜は怪力男だが暴力沙汰は大嫌いだった。昔から喧嘩で勝てた試しはなくいつも逃げることに専念しており、逃げ足だけを誇っていたと言える。びくびくしている壱夜に照久が意地悪く笑い、壱夜の隣に移動して自分より細い腰を抱き寄せた。

「ぎゃ! お前っ。なんなんだよっ」

「そーびびんなって。へー……いっちょこ前に髭生えてんのか?」

 ざらりと顎を撫でられて、壱夜は背中がゾワゾワとして総毛立った。

「ったりめーだろっ。僕は男だぞ」

「はーん? まあ確かに○○○はついてるようだけどなあ?」

 ジーパンの上から男の証を押さえられてしまい、壱夜は泣きたくなった。何が悲しくて真昼間から男のボディタッチを受けているのだろう。

「へ、へ、へんなとこ触るなっ。お前ゲイかよっ」

「ん~……。ゲイじゃないけど、お前は抱きたいかも」

「ボケ! それがゲイだよ。やめとけよ、野郎なんざ固いし毛だらけだし、声は野太いし、臭いし、いいとこねえじゃねえか!」

「気が合うな~。俺もそう思ってたんだけどさ、お前ならありって昨日目覚めたんだよ」

 ソファの上にそのまま押し倒され、壱夜は心の中で女のような悲鳴をあげた。

「勘弁してくれよっ。僕は蒼人にめちゃくちゃヤラれて尻の穴ヒリヒリするんだよっ」

「あ? 心配すんなそれはないから」

 それはないというのなら、何が他にあるのだ。それが心配だ。第一なんでジーパンを脱がせる? 蒼人の前開きのシャツのボタンを外す必要があるのだ。

「おま、お前、そんあ……いっ」

 いきなり乳首に吸い付かれて壱夜は変な声を出してしまった。散々昨日蒼人に吸い付かれて噛み付かれて揉みまくられたそこは、とても敏感になっていて鮮烈な快感が雷のように広がる。

「やめって……、あいつら……見つかった……ら。んっ!」

 じゅるじゅると吸われた後、今度はぎゅっと指先で抓られた。ぎゅっぎゅと遠慮無く摘まれて痛いはずなのに、すっかり蒼人に慣らされている壱夜には気持ちいいだけだった。

「やめえっ。あっあっ……あん……きつく……はあああん」

「へー。間近に聞くとさらに色っぽいな~。兄貴が夢中になるのわかるな~」

「だ……から! あいつ、バレたら……、おま、何されるかっ」

「やーさしいなーアイリーンは。挿入以外はしてもいいって許可出てるんだよ」

 やさしく胸の粒を親指でおし潰されると、たまらない快感がそこで生まれて嫌でも股間が熱くなっていく。もう息が淫らに浅くなっていて、苦しい。その悩ましい吐息が照久を煽っている事に、壱夜は全く気づいていない。そして懸命に声を殺そうとして喘いでしまうその淫らさにも……。

「うそ、だ、あいつが……許すはず」

「まあいいじゃん。お前は気にすんな。ちょっとお前のエロい声聞きたいだけだからよ」

 片方の乳首に吸い付く照久の頭を引き剥がそうとして、壱夜は髪の毛を掴んだ。だがいかんせん照久の髪は中途半端な短さで掴めないまま指が滑っていくだけだった。それを照久は催促されていると勘違いしたのか、立ち上がった乳首をヌルヌル舐める舌の動きが激しくなった。壱夜は激しくなる快感から逃れようとしたが、逆に胸を押し付けるように身体を反らせてしまう。

「んんっ……あんっ。ダメだって。あぐ……んーっ」

 突然照久の人差し指を口に突きこまれた。指は壱夜の口腔内を唾液を混ぜ返すように、イヤラシくゆっくりと動いた。

「この指な、お前のや~らしいケツに入れてやるな」

「んーっ!」

「そーかそーかうれしいか。そうだろうなー。兄貴にガンガン突かれてよだれ垂らしてたもんな~」

「んんっ! んふぅ!」

 照久の指のせいで壱夜は何も言えなかった。噛みちぎっても良かったのだが、逆らうと殺されそうな、底知れない鋭利なオーラが漂っていてとても出来ない。もし蒼人にバレたらと思うと恐ろしくてたまらないのに、それが却って官能に火をつけたようで身体の芯がさらに熱くなった。

「なんだよ、お前も超やる気出してねえ? ここ、ギンギンに固くなってる」

「ん……んっ」

 だらだらと口から唾液を流しながら、壱夜は首を横に振った。やさしく肉棒を撫でられるとそれだけで出してしまいそうになる。昨日散々吐き出したのに、もう立ち上がっているのだから驚きだ。

「舌はあんまり触らないようにしてやるな。ホントは俺のモノ舐めて欲しいんだけど、お前舌炎で大変みたいだし」

 俺様そうで変な所で優しいのが蒼人そっくりだ。指がタップリと唾液の糸を引いて口から引き抜かれ、ゆっくりとアヌスに挿入されていく。

「うあん……あん……」

「あっついなあ。お前のここ。兄貴に慣らされてるせいで柔らかいし、ほぐす必要ねえのな」

探るような指がアヌスを甘くしびれさせる。痛いのにやっぱり気持ちいい。そうだ、蒼人がその場所をいやらしく感じる場所に作り替えてしまった。

「あん……っ。そこはっ!」

「ああここか。男だもんな、当然ここ触られるとたまんねえよな」

 前立腺をあっけなく探り当てられ、ぐりぐりと刺激されたからたまらない、腰が甘く蕩けて肉棒が反応し、あっという間吐き出しそうになる。しかし照久の指が輪になって根本を締めあげた。

「うううっ!」

せき止められた淫らな熱が狂おしく下半身を駆け巡り、壱夜は汗みずくになって淫らに悶え、照久をさらに興奮させた。

「や……くるし」

「まだイくなよ。お楽しみはながーい方が良いんだからな」

 涙をぽとぽとソファに零しながら、壱夜は照久に懇願した。

「やだ、早く、終わらせ……」

「今日はダメだが、今度は俺のもんで栓してやるからな」

「じょーだんじゃ、ね」

「言ってろ。そーらそら、苦しいよな、気持ちいいよな~」

 楽しそうな照久に、壱夜は頭の片隅で毒づいた。

(もうやだ。なんで野郎ばっかりたかってくんだよっ!)

 ヌプヌプと卑猥な音がする。妙に甘い花の匂いは、おそらく知らない間に香油を塗られたのだろう。壱夜はそのぬめりを伴う刺激にとても弱い。

「ふぅうう……あは……それ、あぁ……んん!」

「お前な、すげえ男好きする男に変えられてしまってるんだよ。ああ、ぶち込みてえなあ」

「ああ……───っ!」

 放置されていた乳首にまた吸い付かれ、壱夜の身体はびくびくと跳ねた……。

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