アイリーンと美獣 第15話

 蒼人が深いため息をついた。ソファに深く腰掛けている彼の前に、縮こまって正座している照久と岩井が居る。蒼人の背後で秘書がおろおろとして立っていた。

「てめえらは馬鹿か? こんなに使えねえとは思わなかった」

 不機嫌の極致に居る蒼人は、二人に目も合わせようとしない。見ているのは二人のずっと後ろにある大きなテレビの画面だ。編集されまくっているニュースをアナウンサーが深刻そうに話し、馬鹿そうなコメンテーターが答えている。

 それよりもくだらないのが今日の事件のこの顛末だ。蒼人は足元にあった小さなゴミ箱を蹴り上げ、照久の顔面にヒットさせた。

「ってえなあ! そんなに怒るなよ蒼兄」

「ぁあ? どの口が言ってやがるんだこの馬鹿が! 津島の馬鹿よりもてめえが馬鹿だってのは今日よくわかったがな。馬鹿の仕掛けてくる事には注意しろって言っただろうが。てめえの耳は飾りもんか? 役に立たねえ飾りは今すぐ切り落としてやったっていいんだぞ?」

 本気でしかねない蒼人に照久は首をすくめた。

「そう怒るなって。まさかあの馬鹿チンピラがあんな事できるなんて思わなかったんだ」

「だからてめえが馬鹿だって言ってんだろうが!」

「んー。確かに馬鹿だけど、今回の作戦の主旨を蒼兄は忘れてねえ?」

「何言ってる?」

 照久は蒼人の怒りにまったく動揺しない太い肝っ玉があり、それが蒼人が照久を信頼する所以だった。大抵の人間は、感情の制御が出来なくなった蒼人を止められずにおろおろするばかりなのだ。照久はとりあえず蒼人の怒りを発散させるだけさせておき、収まったところを見計らってずばりと冷静にさせる言葉を口にした。

「津島の馬鹿兄の居所を突き止める……だろ?」

 毒気を抜かれた蒼人に、照久はニヤリと笑った。その照久に岩井が慌てた。

「しかし、壱夜様の服は皆玄関に置かれていました。GPSも」

「ああ置かれてたよなあ。でもな、あいつらご主人様に似てどっか抜けてんだよ、何しろお馬鹿さんだからな」

「どういう事だ?」

 怒りが静まった蒼人がソファの肘掛に腕を掛けた。照久は土下座から立ち上がってテレビのリモコンを取り、画面を切り替えた。何回かの電子音の後、カーナビに似た地図が表示される。

「ちゃあんとわかってるじゃないか。住所は新宿の歌舞伎町のイースタン・フローリアホテル、……へえ、あそこって馬鹿兄が買い占めたんだ。ビルのオーナーが替わったとは聞いてたが」

「……なんで場所がわかるんだ?」

 蒼人が点滅している赤い点を見つめながら言った。

「あいつら、身体の外側しかチェックしてなかったからな」

「成る程」

 ようやく蒼人の機嫌がよくなり、場の空気が穏やかになった。しかし岩井が心配そうに言った。

「なら早く救出に行きませんと。何人の人間が一人様の手によって廃人になったか」

「蒼兄が行くまでは大丈夫だと思うけどなあ。あいつ蒼兄大好きだもんな」

「今度という今度は、あの馬鹿兄にきつい報復をしなければなりませんね。私の壱夜に手を出したのですから」

 照久はテレビを消してリモコンをテーブルに放り投げた。

「玩具扱いは同じじゃねえの?」

 蒼人が力任せに罪の無いテーブルを蹴った。端正な顔立ちは収まったはずの怒りに染まっており、隠そうともしない。岩井と照久はそんな蒼人を見る事はそうそうなかったので、それ以上は何も言えなかった。

(すげーイヤーな予感。外れてくんないだろーな……)

 あの巨大ベッドの端に座らされた壱夜は、周りを取り囲むカメラや集音マイク、バスローブを着た男二名とにやにや笑うあの自分を誘拐した男達と一人を見回した。怪しい器具が並べられているサイドテーブルを見るのも嫌だ。

(蒼人に会ってから僕ってついてねー。こんなのばっかし。あーあ、慰謝料ふんだくりてえな)

「妙に落ち着いてつまらないね。もっと怖気付いて騒いでくれれば面白いのに」

 優しげな風貌で残酷な言葉を一人が吐く。蒼人にそっくりだ。騒ぎたいのはやまやまなのだが、もうそれはこの現実の前に通り越してしまった。何をしようが男達に好き放題される事は変わりない。

(指とか切られるのかな。痛いのは嫌だな……。臓器とか売られるんだろうか。売るんだったら殺してからにしてくれよ。できるだけ楽に死にたいな)

 物騒な事を壱夜は考えた。でもやくざとはそういう生き物だと壱夜は思っている。蒼人は助けに来てくれるだろうか。確かに自分に執拗な思いを抱いている事は間違いないが、程度のいい玩具ぐらいにしか思っていないだろう。蒼人に愛してるなどと言われても、人間扱いされているとは到底思えない。壱夜の望みなど蒼人が叶えてくれた事はない。

(短かったなあ、僕の人生。一回ぐらいおっぱいでかい姉ちゃんとやりたかったな……。おふくろとオヤジも悲しむだろーなー。やくざに殺されるなんてなー。こんな事になるんだったら去年の正月帰ったら良かった……)

 だんだん暗い考えに取りつかれていく壱夜を、にやにや顔の嫌に筋肉質な若い男二人がベッドに押し倒した。どちらとも妙に整った顔なのが癪だ。一人の趣味なのだろう。片方は長髪で賢そうなタイプ。片方は体育会系の日焼けしたスポーツマンのような男だった。

「そう悲壮な顔すんなよ。気持ちよくなれるんだしさ」

「そうそ、なに、カメラがあるだけ興奮できるって」

 黒い革紐を長髪がびんと両手で引っ張った。

「……それ、何だよ」

「こう使うの」

長髪は紐を壱夜の乳首を挟むように二重に胸に回して背中で結び、今度は腰に括りつけて後ろ手に縛った。やたらと乳首が妙に強調されて嫌な気分だ。

「かーわいいね。君、ここ弱いんでしょ?」

「はう……っ」

 ぴんと膨らんでいる乳首を指で弾かれ、壱夜は顔を顰めた。長髪はサドなのか、そのまま指に力を込めて乳首を摘まんで引っ張った。蒼人と違って容赦がない。その分ダイレクトに痛みが走って壱夜は泣きたくもないのに涙を流した。

「あらら、泣いちゃった。これくらいで泣いてたら撮影についてけないよ~」

「馬鹿。お前サド過ぎ。もうちょっと優しくしてやれよ」

 体育会系が何もされてないほうの乳首を優しく吸った。びくんと身体を仰け反らせた壱夜に野卑た男の笑いが降りかかる。

 ちゅうっちゅう……、ぺろ。

「あ、はぁ……んっ……あ、あ」

「女みたいに悶えてやがるな」

 面白くなさそうに言った長髪に、壱夜は突然キスされた。

「んん───っ……ふぅ……ん!」

 ぬるぬると舌が入ってきて口腔内を掻き回す。息が続かなくて苦しい。誰の手かわからないが、下半身で立ち上がりつつあるものを握って扱き始めた。体育会系は相変わらず片方の乳首を吸っては舐めて、時々甘噛みする。

「んっんっ……ひう……」

 身体が熱い……。同時にもたらされる愛撫で反応しているのだろう。うねる壱夜の裸体に男達が興奮しているようで、妙に荒い息遣いが耳に入るようになり……誰かがべろりと耳を舐めて、穴の奥深くを穿った。

 びちゃり……、ずぶっ。

「……うううふっ……うんっ……ふうぅっ! んっ……んーっ」

「盛り上がって来たね。この調子で皆壱夜を可愛がってあげるんだよ」

 一人が面白そうに言う。彼は離れたところから見物している。どうも長髪と体育会系だけではなく、あの四人も自分に群がっているらしい。足のつま先を誰かが懸命に舐めたりしているし、両手は熱い肉棒を握らされて扱かされている。

 ずくっ……とアヌスが疼いた。情けない事に欲しているらしい……。誰かの指がぬるりとしたものをまとってアヌスに侵入し、掻き回した。ぬちゅぬちゅといやらしい音がして、指が探るように出入りする。

「ふ……ああ!」

 ようやく長髪のキスから開放された壱夜は、口からどちらのものかわからない唾液を流して喘いだ。指が前立腺を確実に捕らえ、擦り始める。一気に身体が熱くなった壱夜は懸命に襲い来る甘い疼きに抗った。

「いやっ……それは……いやあああっ」

 もがく壱夜を、左右それぞれの屈強な男の手が押さえつける。その手は妙にぬらついていて、ずるりと滑った。その部分がまた熱を持ち壱夜を苦しめて高めていく。

「それね、うちの会社の新製品の媚薬なんだ。今試験中でね……、壱夜が第一被験者ってわけ。安心していいよ麻薬は入ってないから。でも結構どぎつくてねえ……」

 一人が嘲る様に笑う。男達の愛撫は激しさを増し、壱夜は身体が火照って疼き、めちゃくちゃにして欲しいと何故か思った。

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