びけいこわい 第02話

 怖い、怖すぎるだろこれ。

 千川は犬ではなくて人間のはずだ。人間は飴やアイスぐらいしか舐めない。人の頬を舐めるなんて有り得ない。

 顔を背けようとしたら、がっと両頬を両手で押さえつけられ。今度は瞼ごと舐められた。

 ぴちゃりぬちゃり……。

 ぎゃーっ! 変態だ! こいつ、とんでもねえ変態だっ!

 もう怖いとかなんのかのと考えてる場合じゃない。何とかして逃げないとっ!

 幸い今のこいつは、俺の顔を舐めるのに夢中だから、身体への圧力はない。俺はさっきとは逆回転に転がった。ごちんと音がした。千川が床に後頭部をぶつけた音だ。

 形勢逆転し、俺は無くなった拘束に力を得て、出口へダッシュした。

 ……つもりだった。

 何故かズボンが絡まって、立って直ぐに転んだ。

 もう痛すぎるって。転ぶの二回目よ?

 急いで逃げないとやばいってのに。

「え?」

 再び立ち上がろうとして失敗した。見ると、俺のズボンの左の裾に、千川の手があって、握り締めている……。

 まじかよ。

「離せ……!」

 もうこちとら必死よ。なのに、奴は俺より怪力だから(俺が非力なだけだけど)、渾身の力をこめて引き剥がそうとしても離れない。

 後から考えたら、この高校の生徒は体操服の上に制服を着るのがデフォで、俺もそうしてたから、ズボンを脱いで逃げればよかったんだが、この時は頭がテンパってて無理だった。

 再び千川が圧し掛かってくる……。

「いけない子だなあ……薫は」

 ぎゃあああああああっ!

 まるで追い詰められたウサギを追い詰める、腹を空かせまくったオオカミみたいな声だ。

 こいつ病んでるよー。誰がいけない子だっ!

「うっせえ、馬鹿! てめえ離せよ!」

「離すわけ無いだろうが。やっと1人になったところを狙えたんだし。いっつもいっつも誰かがそばにいたから、近寄れなかったんだからな」

「はあ?」

 意味不明な話を始めた千川は、俺のブレザーのボタンを外して、そこから手を滑り込ませてきた。

 な、な、なんだよっ。

「ひぃ……っ」

 服の上から胸をさすさすされた。ぞわわわわと肌が粟立つ。男に粘着質に触られたら、誰だって気持ち悪い……はずなのに、気持ちいい。

 熱い。なんで?

 べろりと首筋を舐められた途端、なんだか変なものが腰へ走った。何これ。気づいたら千川の手はカッターシャツのボタンも外し、中の体操服や下着を押し上げ、肌に到達していた。

 なんつう早業だ!

「は…に……っ……を」

「想像通り、綺麗だなあ……薫。あいつに触られたりしてないよね?」

 あいつって誰だよ? それより……うう……ベルト外されて、ズボンが……あうっ……直接股に手を押し込んできやがったこいつ。

「おま……ホモ?」

「やだな、違うよ。薫が好きなんだ」

「なに……い!?」

 唐突な告白に、いきなり俺の大事なを握り締められて、声が裏返ってしまう。同時に乳首がきゅっと摘まれて、異様にそれが甘く疼いた。

「やめ! お前……冗談っ!!!」

「冗談なんかじゃないよ薫。ずっと、ずーっと好きだったんだ。ここに入学してきた時から」

 うえええええええええ? まじですかい。でも俺たち三年生だよな? それって、俺が気づいてないだけで、こいつに見られてたってこと? 三年数ヶ月も?

「おまえ、俺が嫌いで……睨んでたんじゃ……」

「馬鹿だな大好きだよ。ふふふふふふ……。ああ、でも、好き過ぎて目が怖くなってたかもね」

「ひうぅっ! あ……は」

 何て声だしてるんだよ俺。でも、でもさ、なんか身体が裏切りやがって、ジンジンあそこやら乳首やらが疼いて仕方ないんだ。変だ、舐められて気持ちいいのって一体。

 冗談じゃない。俺は彼女が欲しいんだ。変態の餌食になってなってたまるか。

 美形なんてくそくらえだ。

 とりあえずこいつは俺に殺意は無いらしいが、犯す気はまんまんらしい。

 とんでもねえ貞操の危機だ!

 諦めずに逃げようと両腕に力をこめた途端、鋭くそれを察知した千川が、こともあろうに、俺のネクタイを引き抜いてそれで両手を後ろに縛りやがったんだ。しかもぎちぎちで血が止まりそうだ。

「解けよ!」

「駄目だよ、逃げるだろ?」

「当たり前だ。俺はホモじゃない」

「ホモだよ。だって、こんなに喜んでるもの」

 情けない事に、俺の息子はギンギンに固くなって反り繰り返っており、奴が先っぽをぐりぐりとすると、たまらないむず痒さで腰が蕩けた。

「ああ……っ!」

「ははっ、いい声だ」

 うれしそうに千川は良い、感じすぎてぶるぶる震える俺を仰向けに転がし、強引に口付けてきた。快感でぼけてる俺はそれに抵抗なんてできず、なすがままに唇を舐められたり吸われたり、舌を絡められたり思う様に嬲られた。

 くちゅくちゅと執拗な口付けは、やっぱり変態だ。

 美形は怖いが変態はもっと怖い。

 それなのに俺はあまりの気持ちよさの前に、ちっぽけなプライドが無くなっていってしまう。

 ぐいぐいと押し付けられてくるのは、奴のアレだ。俺のよりでかいんだろうな……、なんとなくわかる。

 あ……それより。

「うう……く…………っ」

 俺のアレを握り締め、愛撫する手が早くなる。たまらなくなって、千川にしがみ付いたら、奴はうれしそうに笑いやがった。くそが!

「もう……それ……っああああぁ!」

「我慢しないでいったらいいよ」

 ぬりゅぬりゅ……ずる……っずる。

「や……だ! 野郎の手なんて……っ」

「だーめ。僕の手でいくんだ」

 奴の唇が離れ、胸に奴と俺の唾液がぬるりと垂れ落ちていく。

「ああっ……! あぁ……ン……や……くそ……うううっ」

「我慢してる薫は可愛いなあ……」

 千川が、ダメ押しとばかりに乳首をちゅううっと吸った。

 もう駄目!

 俺のアレが限界を告げる。

「…………────っつ!!!!!」

 びくりと背中が脈打った。

 どぷどぷと白濁が出る。俺のズボンは抜き去られてるから無事だけど、奴の手は俺の白濁まみれだ……。

「はあ……はあ……」

 身体が熱い。力が入らない。あそこがぬれぬれのぐちゃぐちゃで……。

 また千川がまた俺のアレを扱き始めた。一体何回する気だ。そもそも男が男のものを触ってうれしいのか。

 変態だからうれしいんだろうな……。

「う……ふぅ」

 また唇が塞がれる。むき出しの股に、直接千川のアレが擦りつけられ、俺のと一緒に握られた。うへえ……、まじでホモのフルコースだ。

 だけどやっぱり気持ちがいい。

 俺のヌルヌルのあれと、奴のギンギンのアレが合わさり、手荒い手つきで激しく扱かれる。千川はずっと俺の口を吸っては舐めて、舌を絡める。もう口はぐちょぐちょだ。汚いけどそれがなんだか興奮する俺って、一体なんだ?

「ああ、たまらないな……薫が俺の下で喘いで、俺の手でいって、俺の手をこんなふうにどろどろに汚してくれるなんて……。ははは。こんなに赤い顔をして本当に可愛いよ、薫。思ったとおりだ……。好きだよ、凄く好きだよ」

 変態じみたねっとりした声で囁く千川。

 それなのに、俺はかあっと身体を熱くさせてしまう。どうなってんだ俺? 正気に戻れ!

「おま……え、こんなのが……たの、しいの、かよ?」

 快感に打ち震えながら聞くと、奴はさもうれしいとばかりに微笑んだようだ。

 美形は微笑んでも、怖さ倍増だろうな。

 普段なら卒倒ものなのに、今の俺はろくすっぽ奴の顔が見えていない。涙でぐしゃぐしゃになってるからさ……。

「楽しいよ、すっごく。ああ、もう僕いきそうっ」

「ひいぃっ、ち、くび引っ張るなよ」

 興奮しているのか、千川はもう片方の手で俺の乳首をひっぱり、捏ね、ぐりぐりと指の腹で撫で回す。女じゃないのにそこも感じてしまって、声が止められない。

「やわらかくて女みたい。ピンク色だし」

「言うなっ!」

 ひそかに気にしてるのに!

 千川はまた声を出して笑い、扱く手を早めた。腰が何故か動き、俺たちは一緒になって揺れた。吐く息もお互いをむさぼるような熱さで、いきたいとしか考えられなくなる。

 こんなのおかしい。おかしいのに。

 さっきから何回も同じことを考えては、千川の手にグダグダにされてしまう俺。

 ずっちゅずっちゅといやらしい音がする。それさえも興奮の材料になる。

 千川の手も気持ちいい。

「うう……っ、はあ……っ、は……ん……くぅ……」

「あ、も……いこうよ」

 苦しそうな千川が先にいった。そしてぐったりと俺に凭れて来て、その白濁が俺のアレや股間や腹を濡らしていく。その熱さとヌルヌルで俺もいった……。

 また男にいかされてしまった……。

 男のロマンが一つ消えた気がする。

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