びけいこわい 第07話

 ちゅ。

 変な頬への刺激で俺は目覚めた。立てた奴は案の定千川だ。

「おはよう薫。素敵な朝だね」

 お前だけな。

 誰が男にホッペチューされて、素敵がって喜ぶんだ、アホめが!!!

 最悪な目覚めにむくりと起きると、千川は俺の制服セットを手渡した。お前は俺のメイドか何かになったのか?

 何も言わない俺なのに、千川は心の底から嬉しそうに眼をキラキラとさせており、なんか不気味だ。このあと何が起きるんだろうかと身構えてしまう。

 だが奴の放った爆弾は、身構えても無駄な破壊力を発揮した!

「今日からしばらくね、おばさんもおじさんも旅行で居なくなるからね」

 なっなっなんだとおおおおおお!!!!

「おふくろとおやじが?」

「うん」

 驚愕する俺に、ニコニコ顔の千川。

「なんで?」

 着替えようとして、じっと見ている千川に気づいて止めた。んもう、ケチだなあと千川は笑ったが、特に気にしている風もない。

 それより旅行って一体……?

 千川が頼んでもいないのに説明を始める。

「うちの父さんが、俺を引き取ってくれるお礼にって、一週間のイギリス旅行をプレゼントしたんだよ。ああ、おじさんの会社の仕事なら心配しなくていいよ、うまく重役にとりなして、イギリスに出張扱いになってるし、経費はうちの父さんが持ってるからね」

「はあああああああ?」

 何を狂ったことやってんだよ。なんでそこまでして……と、思って千川を見、俺はうすら寒いものを感じた。なんかこいつ、自分の親の弱みでも握ってんじゃ。そんで異様に気に入っている俺を独占したいがために、手を回しまくってんじゃ……。

 こわい、美形こわいぞ!

 なんとしても阻止したい俺は、ストリップ覚悟で着替える。痛いほど奴のぎらついた視線を浴びつつも堪えた。これくらいのサービスしねえと、こいつは懐柔されないだろう、クソ。俺の中で大切な何かがまた崩れてしまった……。

 ぐうと腹が鳴る。早く飯食いたい。

 だが、その前にこの企てを何とか阻止しねえと。

「それにしてもおかしいじゃねえか。子供だけだったら今回の同棲の話はないも同然だろ。大人が居ない、子供二人だけなんてもっとあぶねえだろうが」

 くすっと千川は笑った。気障な笑い方が似合う野郎だな!

「おバカさんだなあ薫は。そんなの僕のこじつけに決まってるじゃない。それに家政婦を通わせることに決まってるから、大人がいることになるよ」

「ああん!?」

 千川は階下へ降りようとする俺のためにドアを開けながら、いらねえ色気駄々洩れの視線を俺に流した。

「それに、薫だってわかってるんでしょ? 僕が薫とのラブラブライフのために手を回してるの。今更なんじゃないの?」

 こいつ……、開き直ってやがるううううっ!!!

 なんてやろうだ!

 ラブラブライフってなんじゃ!!!

 こうなったら、おふくろとおやじを止めねば。

 どたどたと階段を下りたら、おふくろとおやじは旅行準備に追われている所だった。

「おいおふくろ! 何で俺を置いて旅行なんて行くんだよ。子供の親としてどうなんだよ。俺再来年受験なんだぞ!」

「再来年でしょ、心配ないわよ。千川君が教えてくれるらしいし。それに今回はお父さんの出張についていくの、旅行じゃないわ。うっふふ、バッキンガムの兵隊さんの交替を見るのが夢だったのよねー。ローンドンばっしおっちった♪」

 うぎゃやめろ音痴! 耳が腐る!!!

「父さんはバイキングに興味あったんだよな。やっと夢が叶うからうれしくてたまらんよ。かあさんや、このセーターはどうだろうか?」

「素敵なアラン模様ねー。いいんじゃないの?」

 あほかお前ら、今は夏だろうが!

「俺も連れてけよ! なんで子供だけ置いていくんだ」

「駄目よお。薫は学校があるんだから」

 だったら普通の父親は仕事してるし、母親は仕事か家にいるだろうが!!!!

「もうすぐ夏休みだし、勉強も千川君が猛特訓してくれるから、母さんたち何の心配もしてないわ。それに貴方達恋人同士なんでしょ? 母さんたちも馬に蹴られたくないしい」

 ちっがーう! と言おうとした俺の肩を、千川が優しく抱いた。

 ううう、何をしやがる。

「そらね薫。だからお互いが好きなことしていればいいんだよ。お二人はラブラブ旅行。僕たちもラブラブ同棲なんだ」

「ふっざけんなー!」

 俺の絶叫も三人の鉄壁のやりたいオーラには叶わない。おやじとおふくろはあっという間に旅行の荷造りを済ませ、迎えに来た千川の家の車に乗って、じゃあねーと笑いながら幸せそうに手を振って、出発していった。

 待てー、このモンスターも連れていけー!!!

 

 学校へも一緒に行かされ、俺は朝練の皆の注目を浴びながら教室に入った。早速響がよおとやって来た。

「お前ら立派に恋人同士にされてるぞ」

「そうだろうよ……千川様が手下どもをお使いになったんだろう」

「どうしたんだお前。よほどの目に遭ったのか?」

「遭ったよ。親にも見せねえもんを見られるわえぐられるわ舐められるわ」

「生々しすぎるぞ。学校では控えろ!」

「んだな」

 まだ朝練の時間なので教室には俺と響しかいない。響は心配して早く来てくれたんだ。千川は生徒会の仕事で、すぐにどっかへ行ってくれたので助かった。

「とにかくあいつ仕事がはええ。あっという間に同棲だし、親は旅行をエサに排除されるし」

「なにい? 二人きりってことか?」

「うん……。俺、なんか前世ですげえ悪いことしたのかもしんねえ。だからホモの餌食になるんだよ」

 異様に暗い俺に、響は慌てたようだ。

「落ち着け! 前世なんかねえよ。今の人口と釣り合わねえじゃないか」

「人とは限らねえだろうが。きっと俺、つがいを裏切ったおしどりかなんかだったのかも……」

「あほ、おしどりは浮気し放題の鳥だ。騙されんな」

「じゃあ、千川の恋人を奪ったカマキリだったのかもしれん。腹減りすぎてオスなのにメスを食ったんだよ。だから今食われてんだきっと」

「落ち着け、カマキリのオスがメスを食うなんて難しすぎるぞ、メスの巨体にまず勝てん」

 くだらねえことを言っている間に、予鈴が鳴り、皆がどやどや教室に入ってきた。千川も。千川は響といる俺を見ても普通で、もう俺は自分のものだと余裕だと思ってる感じだ。

「ねえねえ、千川君とつきあってるってホント?」

 うちのクラス一の美少女の赤石さんが、無邪気に聞いてくる。さくらちゃんの次に気になってたから、むっちゃぐさっとくるわー。

「恋人なんだよね。当然白鳥君が告白よね。勇気出したねー。でも心配しなくてもいいよ、皆応援してるから。千川君も健気な白鳥君にゾッコンだって」

 ……知らない俺が独り歩きし、勝手に女どもは恋愛ストーリーを作っている。男どもはギャグかなんかだと思ってるらしくて、それを聞いて大笑いしている。千川と言えば、同棲してるよと問題発言をして、さらに皆を煽り立てまくりやがった……。

 くそう千川。このままで終わると思うなよ。

 絶対に仕返ししてやるからな!

 と思ったのにもかかわらず……。

「うぅ……あ、ああああっ……だめだ……ああ!」

 奴に後ろから攻められている駄目な俺。

 ぐちゅぐちゅ言ってる俺の後ろのアレ。乳首はビンビン弾かれて真っ赤。

 休み時間に、人がめったに来ない美術室の近くのトイレの個室で掘られている俺って何?

 部活の準備のために来たのに、何やってんのよ俺。

 千川はうれしそうに俺の耳を後ろからレロレロ舐めた。それがまた嫌に疼いて、腰が熱くなる俺。

「薫ってばいやらしいなあ。今日は何も使ってないのに」

 そうなんだよ。なんも使われてないのに! どーなってんだよ俺! 

 ああ違う。待ってくれ俺の息子。奴の手淫に反応するの、止めろってば!

「……っ……ああっ、ちが……ぁあん!」

 エロビデオみたいに悶える俺。俺って一体何なんだ。どうなっちまったの俺の身体!

 どくんどくんと奴の手の中に出してしまう。

 ぶるぶる身体を震わせて、射精の余韻で脱力していると、千川はとどめとばかりに俺の後ろのいいところを擦りあげまくる。待って、待って、それ以上やられたら午後の授業が駄目になっちまう。

「あっあっ……! やめろって、だめ、だめ、も……はげし……!」

 激しすぎるんだよと言おうとしたら、突然抜かれ、すぐさま向かい合わせに貫かれる。ガンガン突きまくる奴の目は野獣としか言いようがなくて、美形だけに怖すぎる色気がどっぱーと出ていた。

 俺はもう、狼に食われているウサギそのもの。

 首筋に吸い付かれて、また跡をつけられる。

「ううう……」

 気持ち良すぎる……。

 ダメな俺。エロに弱過ぎるだろう。

 どうしよう。

美形に抗うなんて無理なのか? 誰か教えてくれよ。

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