ディフィールの銀の鏡 第18話

 月日が過ぎ、冬至になろうとしていた。

 魔界ではルキフェルが正妻を迎えるという情報が、物凄い勢いで魔族達の間に広まっていた。何しろ相手は最強の魔力の石を持つ女で、その魔力の石は彼らにとっては人間以上に魅力的な宝石なのだから。

 万梨亜は漆黒の裾の長いドレスを着て、魔王の城の中を歩いていた。黄金の枷が相変わらず万梨亜の足首に巻きついている。部屋を出ても伸び続けるこの黄金の枷は、いつ外されるのかわからない。どちらにしても城の中なら自由に行けるので前ほど不満ではなかった。

 一つ目の男が向こう側から歩いてきたが、万梨亜に気づくと端に寄って頭を下げた。

 すれ違う魔族は侍女達と同じように、動物の頭をしていたり、角が生えていたり、目が多く付いていたりした。いずれの魔族も皆、万梨亜に頭を下げて道を開けていく。魔力の石の力が巨大でそれに彼らは畏怖しているらしい。

 ジュリアスと居た時青く光っていた魔力の石は、今はルキフェルの色に染まって赤く光っていた。

 どうしてなのか万梨亜にはわからなかった。魔界に囚われてルキフェルと交わり続けたせいなのだろうか。それともジュリアスがマリアに心変わりしたせいだろうか。

 ちくり……と胸に痛みが走り、僅かに赤い光が布越しに漏れた。ジュリアスやマリアを憎いと思うたびに胸の魔力の石が反応する。前はこんなふうではなかった。男に抱かれてない時は、いつもこんなふうに平常心が彼女を脅かし、とてつもなく不安にさせるのだった。

「これはこれは、お美しい万梨亜様」

 万梨亜はびくりと肩を震わせ、無意識に胸の前で腕を交差して後ずさりした。ルキフェルの部下のサティロスが、左手前の部屋のドアを開けてにやにや笑っている。きびすを返して部屋に帰ろうとした万梨亜だったが、あっけなく捕まり部屋に引きずり込まれた。

 そのままサティロスが身体を引き寄せようとしたので、万梨亜はそれを思い切り突き飛ばして部屋の隅に逃げた。

「こっちに来ないでっ」」

「何を嫌がっておいでですか? 魔界の女は沢山の男と交わるほうが名誉なんですよ?」

「嫌!」

 サティロスはいやらしい笑みを浮かべて、カーテンにしがみつく万梨亜を引き離して抱きしめた。この男はルキフェルから許可を得ているからと言って、出会うたびに交わろうとする汚らわしい淫魔だ。万梨亜の感情に反応して魔力の石が振動し光を発したが、サティロスはそれを左手一本で封じてしまった。

「まだまだ普通の石ですねえ。下級の魔族には恐れ多いものらしいですけれど。フフフ……」

「嫌です、お願いだからっ」

「そう言って、いつも最後には自分から腰振ってるじゃあないですか?」

 ドレスの上からサティロスに胸を揉まれ、耳朶を舐められた。淫魔だけあって、その動きだけで万梨亜を腰砕けにしてしまう。おとなしくなった万梨亜のドレスを脱がしながら、サティロスはうれしそうに笑った。

「そうら……ね? 身体の芯が熱くなって来たのではありませんか?」

「あ……、あ!」

 そのまま床に裸で寝かせられた。サティロスは万梨亜の両足を抱え、内側を何度も何度も舌で舐めて往復する。陰部がうずいて蜜が溢れていき、それを見てサティロスが嬲った。

「なんとまあいやらしい方でしょうね。たったこれだけでよだれをたらすなんて」

「だめえっ……ん!」

 局部すれすれのところをサティロスがきつく吸い上げた。そしてその部分をまた舐めていく。ぴちゃりと舐められる水音が淫らに響いて、万梨亜は首を振った。違う違う、望んでいるわけではない……!

「万梨亜様ぁ? 下のお口が誘っているんですけど、正直に触ってとか吸ってとかおっしゃってくださいませんかあ?」

「ううっ」

 絶対に言うものかと万梨亜は唇を噛む。ほかの事を考えればいい。そうだ、あの憎らしい人間達の事を考えよう……。サティロスはそんな万梨亜を見て、くすくす笑った。

「健気ですねえ。全てが悦楽に変わるというのに……そうら」

 ぬぷりと指を秘唇に差し込まれ、甘い疼きが全身に走った。

「いやああっ」

「何が嫌なものですか、私の指を食い締めているくせにっ。さあ存分によがりなさい」

 肉の芽に吸いつかれ頭の中が真っ白になった。もう何も考えられない。ねっとりと敏感に固くなった局部を舐められて、むず痒い痺れが万梨亜を支配していく。サティロスは指を増やして激しく万梨亜の内部を擦り上げながら、そこをじっくり味わうように舐めていく。

 淫魔というものは性交で力を得るのだというが、実際のところどうなのか万梨亜には分からなかった。

「もういいでしょうかね。貴女相手だと我慢ができなくなる……」

 サティロスはべろりと舌で唇を舐め、ごそごそと衣装の下だけを脱ぎ落として己のものを露出させ、万梨亜に覆いかぶさった。蜜にまみれた熱い泥濘に亀頭がぬぷりと入り、たまらないむず痒さで万梨亜は腰を揺らした。

「んんんあっ……、ああ」

「ふふ……相変わらず……いい」

 サティロスが腰を動かしながら万梨亜の両乳房をねじりあげた。

「たまりませんよ……っ。万梨亜様……」

「んむ……」

 いきなり唇を奪われて息が詰まった。すぐにサティロスの舌が入り込んできて、万梨亜の口腔内をねっとりと這い回る。結合した局部がぬちゅぬちゅと卑猥な音をたて、乳房は押し上げるように揉みしだかれ、サティロスのもたらす官能の響きに万梨亜は身体を震わせて歓んだ。

 赤く光る胸が熱いが幸福な気分にはならない。肉は歓んでも心は冷えていく一方だった。

 脳裏で銀の長い髪を揺らした青い目の男が、ゆっくりと万梨亜に振り返った。

 万梨亜は美しいジュリアスでないと満たされない。でもあの太ったジュリアスでも一向に構わない。姿形はどうでもいい、彼でさえあったなら。とても憎いのにどうしても愛しいと思う自分は、愚かしいを通り越して馬鹿だ。

「考え事ですか? 余裕ですね」

 サティロスがにやりと笑い、眼を赤く光らせた。万梨亜は見てはいけないと思ったのにまともに見てしまった。淫魔のこの目は、相手の眠っている性欲を引き摺り出してしまう。必要性があるのか、淫魔は皆美しい容姿をしている。普通の人間ならころりと参ってしまうだろう。

「あっあっ……やああっ……んぁっ……やあっ……は!」

 胸を執拗に弄る手や首筋を食むように舐める舌に、万梨亜は段違いの声を上げる。引きずり出された性欲に、舐められた後の唾液で塗れたそこが今まで以上にうずいて仕方ない。サティロスは万梨亜を貪りながら揺さ振り、欲に濡れた目でしっかり視姦した。

「人間達はわれわれの眼を見ると淫らになると責めますけど、ちがうのですよ? われわれは人間がひた隠しにしている欲望を解放してあげているのです」

「んんっ……ああ、あ、もう……ああああっ」

「今また蕩けたでしょう? 図星ですか、ふふふ」

 万梨亜の片足を肩に担いだサティロスがより深く入ってきて、ぞくぞくとしたものが這い登ってくる。サティロスが腰を回して万梨亜の中をかき回し、ますます万梨亜の身体は燃え上がった。

「どうして……っ……あ……んん」

「どうして? それは貴女がそういう女だからですよ」

「ちがうっ……望んで……ない」

 サティロスはどんなに万梨亜が醜態をさらしても涼しい顔をしている。もしくは涼しいふりをしているだけなのかもしれない。揺れる乳房を片手で楽しむように揉みながら、サティロスは万梨亜を犯し続ける。

「貴女から力をもらうにはこれが一番なんですよ。だからジュリアスも貴女と交わりたがったでしょう? デュレイスも」

「ちがう……ああ……そんな……王子はっ……」

 汗で濡れた万梨亜を抱き起こしたサティロスは、座位で汗まみれの万梨亜を攻め始めた。しとどに濡れた結合部分がより密着して擦れ合った。

「貴女の中で感情がうねるほど魔力の石の力は強くなる。そして交わる事によって、われわれは石の力を受け取る事ができる。王子は言っていませんでしたか?」

 そう言えば最初にジュリアスに征服された時に、そんな事を言っていたと万梨亜は思い出した。僅かな表情の変化に気づいたサティロスは、万梨亜の心に揺さ振りをかけてきた。

「愛だのなんだの言っていたでしょうが、あの王子は結局、貴女のその魔力の石の力が欲しかったのですよ? デュレイスを愛していた貴女を無理やり奪ったひどい男です」

 違う! と心が叫んだ。しかしその万梨亜の感情をあざわらうかのように胸が赤く光り、また魔力の石が熱を持ち始めて熱くなった。

「王子は……っ……。優しい……方……ああっ」

 肉の芽をぬるぬると指で撫で回されて、万梨亜は意識が飛びかけた。サティロスが青緑色の眼を燃やしながら、万梨亜の耳に熱い息をふきかける。

「それが女を蕩かせる方法だと知っているからです。私などより余程あっちのほうがひどい男です」

「やめて……うそ!」

 耳の中にサティロスの舌がぬるりと滑り込んだ。万梨亜は執拗に舐められて意識を飛ばすまいと、必死に男の身体にしがみ付いた。胸が、石が、熱い。

「うそじゃありませんよ。じゃあなぜ彼は今、貴女を苛めたマリアを熱愛しているんですか? つまらない貴女、ゴミのような貴女の価値はその石だけだったからです」

「はあ……あああ……く……ああっ! いやっ……んんん」

 ぬるぬるに溶け合ったそこは、万梨亜の身体なのか、サティロスの身体なのかわからなくさせた。サティロスが胸の先に爪を割り込ませ、その痛みに結合部がぎゅうとサティロスのモノを締め上げた。

 ようやくサティロスは顔を快感に歪める。

「……この私を……快楽に陥れるとは……さすが……ですね」

 乱暴に押し倒し、サティロスはさらに万梨亜を強く突き上げだした。比較のしようがないむず痒さがそこから沸き起こり、万梨亜はあえぐ事しかできなくなる。万梨亜と繋がりながら、サティロスは忙しなく自分の服を器用に脱ぎ捨て、筋肉質の固い肌から汗をにじませ、万梨亜に吸い付くように絡みついた。

「もう……終わって……駄目……んあっ!」

「……この……まま……くっ! のぼり……つめてしないなさい!」

 さらにサティロスは腰を突き動かす。黒い大理石の床は、押し倒された時は冷たかったが今は熱い。そして流れ出た蜜で水溜りが広がっていく……。

「ああ、たまらないですね。貴女の力っ……! ……最高……だ」

「はあん……んんん……ああっ……ああっ」

 出入りするサティロスの質量がまた増して、万梨亜は愉悦でおかしくなっていく。固くて熱いものがひくついている内部をかき回して暴れ、万梨亜を万梨亜でなくしてしまう。

「──────っ!」

 黒い波が押し寄せ、万梨亜はそれにざんぶりと飲み込まれた。サティロスのものが万梨亜の中で弾けて震え、熱く満たしていく……。

 サティロスは物足りないのか、ぐったりした万梨亜の股を広げて局部を吸い始めた。じゅるじゅると音を立てて、自分の精液ごと蜜を舐めているサティロスの背後にルキフェルが立った。隣にヘレネーも居る。

「……そなたは馬鹿か? 万梨亜に魅入られてどうする?」

 

 声が聞こえないのか、サティロスは万梨亜の肉の芽を刺激しては蜜を溢れさせ。それを吸い上げる行動を繰り返している。万梨亜は意識がない中でもその愛撫に反応して、声をあげては身体を熱くさせている。そして万梨亜が達すると、再びサティロスは固くなった自身を押し込んで、ずちゅずちゅと蜜壷を攻め始めた。サティロスはいつもは出さない巨大な漆黒の翼を広げ、万梨亜を覆い隠して陵辱を続ける。

「恐ろしいものじゃ。これが魔力の石の力かえ?」

 ヘレネーは口を扇で隠し、侮蔑の視線をサティロスに投げつけた。

「サティロスのような上級の魔族でさえも虜にできる。だからこそ万梨亜は手放せぬわ」

 ルキフェルは満足そうに二人を見やった。魔王の間に瞬間移動し、豪華な黄金の椅子に座ったルキフェルは長い足をゆったりと組んだ。隣にヘレネーもふわりと移動して立った。

「して、ディフィールはどうなっている?」

「仕上げにかかるところじゃ、兄上」

「ほう」

 ヘレネーはルキフェルの前に映像を映し出した。マリアが侍女と今後の事について相談している。

「この女、ついにジュリアスを国王にしようと決意したのか?」

「大分時間がかかりましたが、まもなく」

「テセウスもこれまでか、哀れな奴だな」

「ほほ」

 全てがデュレイスを世界の覇者にするための過程に過ぎないヘレネーだ。彼以外がどうなろうと知った事ではない。ジュリアスの正式な妻になったら新たな欲が出てくるに決まっているので、マリアもいずれ処分するつもりだった。

「なんにせよ万梨亜にどんどん精を注ぐ事じゃ。兄上も励まれる事じゃな」

「……そなたは」

 ルキフェルは、まっすぐに自分を見返すヘレネーの顎に手をかけた。

「何じゃ、兄上?」

「我を裏切るか? デュレイスのために?」

 底冷えする低い声のルキフェルに、ヘレネーの顔は歪みも笑いもしない。無表情に兄を見つめ返すだけだった。

「……何の事を申されておるのか判らぬぞ、兄上」

「……まあよい。せいぜい人間に尽くす事だな」

 手を顎から外されると、ヘレネーは頭を下げて姿を消した。

「心の内を読めるという”真実の眼”。そのようなものがあれば我も苦労はしないが。何故あのような何も望まぬ男にその目を授けたのか、悪魔の我には神々の思惑はわからぬ」

 ふと、サティロスの意識が眠るのを感じたルキフェルは、右手の指を弾いた。横の寝台に裸の万梨亜が現われて横たわった。寝台の端に腰をかけたルキフェルは、すうっと万梨亜の身体を撫でた。すると汗や精液などでべたついていた身体がきれいになり、魔力の石が赤く輝き始める。

「かなりの力を放出したなサティロスめ。加減を間違えたか。しばらくあやつは使いモノにならぬな」

 ルキフェルは面白そうに一人で含み笑いをした。

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