ディフィールの銀の鏡 第27話

「佐原さん、西さん」

 万梨亜の声に、一瞬だけ佐原は驚いたようだがすぐに調子を取り戻し、妙に威圧的な態度で見下ろした。

「ようやく来たの? 君はこのジュリオさんに迷惑かけて、上司に謝罪させたんだよ」

「……なんで嘘つくんですか」

「嘘? 嘘ついているのは君だろう?」

 ざわりとロビーに居た社員達がざわめいた。万梨亜は今度は西を見た。彼女の方は少し顔色が青くなっている。まさか万梨亜が来るとは思っていなかったのだろう。

「私、西さんに書類を確かに渡しましたよね?」

「私は……受け取っておりません」

「貴女も嘘つくんですか?」

 万梨亜が西に詰め寄ると、ジュリオが万梨亜の肩を掴んだ。

「止めなさい。二人に迷惑がかかるだろう」

「迷惑かけたのはこの二人です!」

 いつも気弱にびくびくしていた女がいきなり豹変したので、ジュリオは驚いたようだった。万梨亜の中ではかつて無いほどの怒りが渦巻いており、それが周囲を圧倒していた。怒りに燃えている万梨亜を始めて見た佐原も、僅かに鼻白んだ。

 万梨亜は遠くからこちらの様子を伺っているあの受付嬢に、大きな声で話しかけた。

「私は確かにここに来ましたよね?」

「はい確かに。でも佐原は少し遅れるという伝言でしたので、戸田様をあの部屋へご案内しました」

 受付嬢は、万梨亜を案内した部屋を手のひらで指した。

「何を馬鹿な!」

 佐原が焦ったように言い、受付嬢を睨んだ。この受付嬢はつい最近入社したての新人で万梨亜の悪い評判を知らない、万梨亜はそこに賭けていた。

 ジュリオが呆気にとられて万梨亜の肩を掴む手を緩めた。弱虫だった自分のどこにそんな強気な心があったのかわからないが、万梨亜は佐原を追及する手を緩めず、さらに詰め寄った。

「私は一時間以上も佐原さんをお待ちしておりました。そうしたらこの西さんが貴方の代理と言って書類を受け取りにいらっしゃったんです」

「いい加減にしてくれよ戸田さん。待っても居なかったくせに」

 佐原の口調が厳しくなった。何が何でも言い逃れするつもりなのだ。勤めていた当時もこの種の嫌がらせを木谷達にされていた。その時は大人しく引き下がって何も言えない万梨亜だったが、今日の万梨亜は違う。万梨亜はきつく佐原を睨みつけた。美しい万梨亜の瞳が汚らわしい企みを焼き尽くすようだった。

「いい加減にして欲しいのはこちらです。私もフォンダートも真剣にお取引させていただいておりますのに、貴方は私への苛めの為にフォンダートの仕事を踏みにじっているんですよ!」

「はあ? さぼっておいてよく言うねぇ。相変わらずだわあんたは」

 行方を固唾を呑んで見守っていた周囲は、ひそひそと万梨亜を見て話し始めた。木谷達の万梨亜を苛める手だった。周囲を完全に味方に引き込んで、自分達の苛めを正当化してしまうのだ。

「だいたいさあ、書類はどこにやったのさ? もらってないんだよねこっちは。あんたが捨てたせいで」

「捨ててなどおりません! 第一、何故私が捨てたなんて知ってるんです? 受け取っても会ってもいないのにおかしいんじゃありません?」

 佐原はぎくりとした。そして真っ青になっている西を見た。

「な、何を言ってるんだあんたは。本当にもらってないんだぜこっちは……」

「では、これはなんでしょうか?」

 万梨亜はドキリとする声を背後から聞き、恐る恐る振り向いた。いつの間にかあの大島がしわくちゃの封筒を持って立っていた。

「それは……」

 ジュリオの目が見開かれた。大島が持っているのは、万梨亜が西に渡したジュリオの書類だ。

「俺は見たんですがね。この戸田さんが、そちらの西さんて方に書類を手渡されるところを」

「大島さん」

 万梨亜が思わず名を呼ぶと、大島はにこりと微笑んだ。だがそれはホンの一瞬で次には厳しい目で佐原に向き合った。佐原の顔は青かった。

「カワサキハウスの社長はご存知なのでしょうか? 他社から受け取った書類をゴミ箱に捨てる社員が居る事を」

「それは……」

「貴方はその西さんて方に、書類をゴミ箱に捨てるように指示されてましたね? 僕はその現場にたまたま居合わせたんです。きっと大切なものだろうと思って、すぐに取り出しておいたんですが? こんな社員がいる会社との取引は考え直したほうがいいかもしれない。今すぐ頭取に言っておこうか?」

 佐原はがたがた震えだした。カワサキハウスでは、大島怜がイオバンクの社長令息である事は周知の事実だ。イオバンクが手を引くなどと業界に知れたら、カワサキハウスは翼をもがれるようなものだった。自分のやった事は、大量の火薬の傍で火遊びするようなリスクを持っていたのだ。

「…………っ 私は知りません! みんなこの女がやったんだ!」

 佐原はいきなり西のせいにしだした。当然西は怒る。

「佐原主任! 貴方が廃棄するようにおっしゃったんですよ?」

「だまれ! たかだが事務の分際で」

「主任だからと言って、何がえらいと言うんですか、めちゃくちゃな事をおっしゃったのは主任です!」

 ざわめきがひどくなるロビーで、万梨亜は事の成り行きを驚くほど冷静に見ていた。大島もジュリオも二人のやりとりをじっと見ている。結局、企画部の課長が騒ぎを聞きつけて駆けつけ、万梨亜達を別室に移動させて事の成り行きを聞き、三人が万梨亜達に向けて謝罪という形になった。

 おそらく、大島というこの会社の大事な取引相手の社長令息が居なければ、このような謝罪はなかっただろう。相当こじれた末に万梨亜の主張は握りつぶされたはずだ。所詮会社とはこういうものだ。世間体が大事なのだ。自分の疑いが晴れたというのに、万梨亜はやりきれない思いを抱えていた。

 部屋を出る時に見た佐原は、生ける屍としかいいようがないほど憔悴して見えた。人を苛めて楽しむためにやった事が、彼の経歴を真っ黒に塗りつぶしてしまったのだった。自業自得だが、万梨亜は後味がかなり悪かった……。

「大島さんありがとうございました」

 このまま帰るのも何だからと言われ、万梨亜達三人は佐代子の喫茶店に入っていた。大島はにこやかに微笑みながら手を振った。

「いいんだ。たまたま居合わせただけだから。本当は書類渡すところなんて見てないけど、たまたまあの二人の傍を通り過ぎた時にバルダッサーレとか戸田さんとか言っていたから、何かあると思って様子を伺ってたんだ。ただこっちも用があってすぐに届けられなくてすみませんでした」

「いえ、本当にお手数をお掛けしました」

「本当にいいんですよ」

 そこへジュリオが口を挟んだ。

「よくありません、貴方がいなかったら、誤解のまま全てが終わるところでした。大島さん、本当にありがとうございました」

 ジュリオは大島に頭を下げ、今度は万梨亜に謝罪した。

「万梨亜さん、貴女にもひどい事を言いました。許してください」

「フォンダートさん」

 頭をあげようとしないジュリオに万梨亜は焦った。彼が誤解したのは無理もないし、何も悪意があっての事ではない。その銀髪に手を伸ばすと、ばちりと電気のような火花が散った。同時に万梨亜の手と胸が青く光り輝き始めた。

 信じられない出来事に万梨亜は気が動転した。

 だが驚くべきなのは、びっくりしているのは万梨亜だけで、ジュリオも大島も、佐代子も他の客も何も気づいていない事だった。かなり大きな音がして、青い光で部屋中が満ちているのに何故誰も気づかないのだろうか。

 溢れ出る青い光にとまどって、万梨亜は手のひらを胸に重ねたがそれは消えない。万梨亜自身が光っているから消しようも無いのだ。

「ジュリオさ……」

 声をかけて万梨亜はやっと気づいた。皆気づいていないのではない。万梨亜以外の人の動きが止まっている。佐代子が淹れている紅茶も流れ落ちず止まっていた。ありえない事が起こった恐ろしさで万梨亜は竦み上がった。青い光は増すばかりで、発信源のような万梨亜の左胸が熱く痛くなってきた。

「だ、誰か……」

 助けてくれないだろうかと左右を見渡したが、皆止まって動かない。灰色のモノクロームな景色のようだ。

『おのれ…………万梨亜!』

 地の底から這うような暗い男の声が辺り一面から響き、万梨亜は腰をぬかした。椅子の横に転げ落ち、震えている万梨亜の前に赤い炎がいきなり現れたかと思うと、その炎の中から、古代ローマの貴族のような黒い衣装を纏った男が床に降り立った。

 心臓の音は凄まじく、冷や汗がさっきから滲み出て止まらない。こんな事はありえないのだ、あってはならないのだ。

 浅黒い肌の赤黒い輝きのその男は、蛇のような目で万梨亜を見下ろした。

『折角邪魔者のジュリアスの記憶を奪ったのに、お前が目覚めては意味がないのだ……』

「何……、何言ってるの?」

『ちょうどいい、この邪魔者の妨害がない今が好機だ。魔界へ連れて行く。今度こそ我のものになれ』

 万梨亜はあらん限りの悲鳴をあげた。この男がよからぬ類の男という事だけははっきりとわかる。

「誰か助けて……」

『誰も助けなぞ来ない。王子はこの通りだからな』

「王子?」

『くっ……、気の毒な事よ。わけのわからない世界に連れ込まれたかと思えば、頼りになる男は魔力を失った。お前は悪い事や辛い事尽くめだ。このような世界に居たいと思うか?』

「何を言っているのかわからないわっ!」

 胸が火がついたように熱い。だんだん冷や汗も引いてきて万梨亜は落ち着きつつあった。こんな状況で落ち着くなんてどうかしているが、これは夢なんだと思うと度胸もつく。 

『まあどうでもよい。来い!』

「嫌だってば!」

 赤いのに冷たい光にぞっとして、万梨亜はその男の手を振り払った。すると青い光が炸裂して男の手を直撃し、男が痛そうに顔を歪めた。

『く……っ。たかだか人間の癖に生意気な』

 目を怒らせた男にぎろりと睨まれ、万梨亜は恐ろしいのに目を瞑る事も逸らす事も出来ない。万梨亜の目は青い炎で燃えていたが、それを知るのは遥か後の事だ。

 ふたたび手を伸ばしてくる男の手を避けようとして、今度ははっきりと意志を持った力が、万梨亜の手から青い光となって放出した。爆風が沸き起こる中、男の恨みに似たような恐ろしい声が掠れ気味に響いた。

『おのれ……見ているがいい、必ず』

 青い光だけが満ちる喫茶店の中で、万梨亜は荒い息を繰り返していた。なんとか怖い男はいなくなった。しかし、どうやったらこの夢から覚める事ができるのだろう?

 急に世界が白くなり……万梨亜は何も見えなくなっていった。

 気がつくと、万梨亜は見知らぬ和室の布団の中にいた。まだ昼間のようで、障子越しに柔らかな光が差し込んでいた。敷いてあった布団の傍に自分のかばんがあったので、携帯を取り出して会社に電話をしようとしたが、運悪く電池が切れている。充電しないと使い物にならない。

「ったい……」

 上半身だけ起き上がると、何故だか身体中が軋みだるかった。変な夢の影響かもしれない。だがそんな事がありえるだろうか? 特に下半身がひどい。

 ふと、障子の向こう側に人の影が移動してきた。

「戸田さん、入りますよ」

「は……、どうぞ」

 大島が静かに障子を開けて入って来た、相変わらずにこやかな笑顔を浮かべていて、何故か着物を着ている。

「あの、大島さんこちらは?」

「俺の家です。戸田さんはいきなり喫茶店で倒れてしまったんですよ」

「そ、そうなんですか、あの、フォンダートさんは?」

「彼なら会社に戻りました。何かとても忙しそうだったので、俺が戸田さんをアパートまで連れて行くと申し出たんです。でも良く考えたら戸田さんのアパートを知らない上、もし知ったとしても鍵がバッグに見当たらなくて……、それで申し訳ないんですけどうちに来ていただいたんですよ」

 バッグの中を見ると、いつも鍵を入れている財布が無かった。おそらく会社に忘れてきてしまったのだろう。

「そうでしたか、面倒をおかけしてしまって、すみません」

 万梨亜が頭を下げると、大島は小さく首を横に振って微笑んだ。

「とんでもない、むしろうれしいですよ。戸田さんが家に居てくれるなんて……」

 大島の僅かに熱を帯びた視線を浴びて、万梨亜ははっとした。そうだ……この男は、交際を申し込んできていた。受け入れる事ができない人の好意をこれ以上受けては駄目だ。だが、立ち上がろうとしても、腰が何故か砕けてしまい万梨亜は布団に沈んでしまう。あせる万梨亜を大島が押し止めた。

「駄目ですよ、おそらくお疲れなんですから」

「でも、もう社に戻りませんと」

「……今日、日曜日ですよ?」

 今日は土曜日のはずだ。万梨亜が訝しんでいると大島が右手を取った。引こうとしても強く握られて振り払えない。

「戸田さんは、昨日からずっと眠っていたんです。医者にも見せましたけど異常は無いようでした」

「それは……ありがとうございます……、でもっ」

 耐え切れなくなって、万梨亜はその強く掴まれた腕をなんとか解こうと力を入れて引っ張った。でも現実は大島に引っ張り返されてその胸に抱き込まれてしまう。熱い息が降りかかり万梨亜の身体が強ばった。

「万梨亜……、やっと俺の手の中に」

 がたがた震える万梨亜の背中を、大島の手が撫でるように滑る。

 嫌。

 嫌だ。

 抗えないまま、万梨亜は大島に布団に押し倒された。その時初めて気づいた、スーツを着ていたはずなのに、今万梨亜が着ているのは薄桃色の着物だった……。

 

 着物の下から現われた鬱血の跡に、万梨亜は嫌な予感だけが膨らんでいく。着物を肌蹴させて、愛おしそうに一つ一つ撫でていきながら大島が言った。

「昨日、存分に抱いたつもりだったんですが、足りないようです。やっぱり気がついている万梨亜を抱きたい」

 万梨亜は耳を疑った。そして自分はまだ夢を見ているのだろうかと疑った。何故なら、そこにいるのは大島ではない気がする、誰かが大島の身体を借りているような妙な威圧感があり、それを自分は知っている。

「探した、万梨亜……」

 万梨亜の右手に唇を這わせて、大島は恍惚とした表情を浮かべた。

「大島……」

「デュレイスだ」

 威厳に満ちた低い声が大島の口から滑り出た。

「あのジュリアスのせいでお前はこの世界に入れられて、全てを忘れている。だから恋人だった私を思い出せないんだ」

「恋人って……」

 いつもの自分なら笑い飛ばすような話だ。だが喫茶店で怖い男に連れ去られそうになった夢を見た後なので、笑えない。ひょっとしてこれも夢ではないのか?

 デュレイスだと名乗った大島は、万梨亜の着物を脱がせると自分も脱いだ。その身体に無数の傷跡があった。

「戦争ばかりをしているから、生傷が絶えないだけだ。大した傷ではないよ、どれも……」

「大島さ」

 唇が重なってきた。ジュリオよりも優しい感じがした。ジュリオはもっと情熱的で蕩けそうな気分になる……。万梨亜が顔を背けようとすると顎を掴まれて動けなくされた、どんなに腕を突っ張ってもその強靭そうな体躯は動かない。大島の片膝がなにも履いていない股間をぐりぐりと刺激し、万梨亜は重ねられた唇の中でくぐもった声を出した。

 どろりと何かが恥ずかしいところから流れ出てきた。大島は顔を強ばらせた万梨亜の頬にキスをしながら、その部分を撫で回して、穿った。感じてもいないのに濡れているのは何故なのだろう。万梨亜は惑乱した。

「言ったでしょう? 昨日万梨亜を何度も抱いたって。気がついていなくても万梨亜は私に反応してくれてた。何回も何回も交わった……さ、万梨亜」

 指が引き抜かれ、熱いものが押し付けられる。それが何かわからないほど万梨亜は子供ではない。

「あ……やあっ!」

「万梨亜……!」

 息が詰まるほど抱きしめられ、激しく腰を揺さ振られた。大島の精液が潤滑油代わりになってスムーズに出し入れが繰り返される。そのうち万梨亜の身体が気持ちに背いて勝手に反応し始めた。

「はっ! ううっ! あんっ……! ンンっ……あ、あ!」

「……ケニオンに戻ったら……っ……お前を離宮に迎えよう。誰も触れさせぬ……、愛しているぞ万梨亜……」

 何を言われているのかわからない。ケニオンとは何だろう? 離宮……?

 万梨亜の脳裏を通り過ぎるジュリオの面影に、誰かが重なろうとして消える。思い出したいのに思い出せない。欲望を吐き出して、万梨亜に吸い付くようなキスを繰り返す大島の背後に赤い光が見える。あの男の笑う声が響いてくるような気がした……。

 大島の手のひらが絡み付いた。

 違う、違うこの手ではない。万梨亜が望んでいたのは……もっと優しい手だった。

 大島のものが再び万梨亜の中で勢いを戻し、固く熱くなった。望んでいない相手のものでも、万梨亜はその痺れ疼くこすれにどうすることもできない。再開する律動で万梨亜の身体は淫らに揺れてしまう、ますます大島を誘っているとは気づかずに……。

 万梨亜は掠れた声で言った。

「私は……あなたを……受け……入れられませ……ん……」

 大島は吸い付いていた胸から顔を上げ、荒い息を吐きながら、その大きな手で突き出ているやわらかな乳房を揉み潰す。

「ああっ……痛い……離してえっ」

「すべて操られて可哀想に。お前が愛していたのはこの私だったと言うのにな」

「違う、違うの……!」

 必死に大島の下から這い出ようとしても、絡み付いてくる身体に組み伏せられてしまう。

「違うものか、万梨亜は私の恋人なんだから。今に思い出させて見せよう」

 大島は一旦万梨亜から出ると、背後から貫いて膝の上に抱き上げた。

「あああっ……大島さん!」

 ズンズンと貫かれ、万梨亜はおかしな踊りをするように乱れた。身体が泡立つ様に震え、繋がった所はもうどうしようもなく快感だけを伝えてくる。それなのに心が冷えていく一方だ。あの青い光はない。あの変な力があったらすぐに逃げ出せるはずなのに、胸の奥底は冷え切っている。

「ああっ……ああ! いや! あ! ……く……う」

 執拗なくらい結合部の上の芽を撫でていた指が押し付けられた。ただでさえ固くなって感じやすくなっているのに、ぐっと押しつぶされて、堪えきれない痺れが一気に腰を直撃した。熱くて、だるくて、万梨亜は喘ぐ声が止められない。

「う……は、あん……っ! ああっあふ……んん……」

「昨日、寝ている時も感じてた……こんなふうに」

 喘いで乱れている万梨亜のウェーブのかかった髪の毛を唇で掻き分けて、大島が耳朶に柔らかく歯を立てる。それだけで内部はぎゅうっと締まり、万梨亜は身を揉んだ。もう駄目だ狂ってしまう……。

「私の子供を産んだらいい。そうしたら……万梨亜は奴隷から貴族になって、側妃になれる……」

 熱っぽい大島の声を聞きながら、万梨亜はジュリオの顔ばかりを思い出していた。

 ジュリオが自分を思い出して助けに来てくれると、ずっと信じて……。

 それが、ありえない事だとわかっていながら。

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