清らかな手 第2部 第12話

「二日経ったけど動きは無いな」

 社長室で貴明が書類にペンを走らせながら言った。高野は少し離れた自分の机で顔を上げる。

「ええ」

「大丈夫なのかねえ……。新田は相当の男好きだぞ? 二丁目に自分専用のクラブまで持ってる位なんだ」

「自分で行くと言って行ったのですから、社長が気に病まれる必要はありません」

「しかしなあ、いつまで経っても連絡が来ないぞ」

「直接来たら困ります。そのうち情報部から何らかの連絡が来るでしょう。相手の目的はそこなんですから」

 その口調はいつもと変わりないもので、貴明はなんという男だと呆れかえった。

「お前、ちょっとは心配したらどうだ。どこにいるのかもわからないんだぞ」

「社長はミッドガルドをいささか甘く見すぎてます。あれは一応最前線でスパイしてた男なんですから」

 それは貴明にだってわかっている。しかし、一年間も普通の業務についていた人間が、いきなり闇の世界に戻って、元のように動けるものだろうか。フレディは拳銃さえも持たないで行ったのだから。貴明がそれを口にすると高野は相変わらず冷たく言った。

「フレディは攻撃部隊には居なかったようですよ。雅明様と同じく情報部隊です。持っていたとしてもあまり役にたちませんよ」

「……お前、やけに詳しいな」

 貴明の右眉がすっと上がる。その鋭い鷹の目が鋭く高野を射抜いたが、高野は動じない。この恐ろしい上司とつきあうには、睨まれるたびにいちいちびくついてなどいられない。それに自分はもっと野蛮で残酷な連中と、過去に沢山付き合っていた。

「部下を調べるのは当たり前です。ですが怪しい動きでもない限り、社長には逐一申し上げません」

「ふうん。まあそういう事にしておいてあげるよ」

 貴明は何か言いたげだったが仕事に戻った。その貴明を、今度は高野が見つめる。この男は全て知っていて口にしないのだろう。思えばこの会社はさまざまな人間が働いている。エリートから高卒、中卒、かと思えば自分のような闇の人間まで。

 フレディの事は心配だ。なんでもない事のように言ったが、本当は心配でたまらない。ハッカー専門のフレディは攻撃力に乏しいだろう。銃の腕は悪くはなかったが、玄人と比べるとてんで駄目なレベルだった。そんなフレディが敵の真っ只中に居る間自分を護るには、自分を与えて油断させるしかない。

 一番危惧しているのは、雅明が打たれ続けた麻薬だ。アレクサンデルの屋敷に居た時はごまかせたろうが、今回はそれを知っているトビアスが相手だ。

(早く動きがあれば、すぐにでも駆けつけるのに……)

 高野は待つだけの自分が愚かに思えた。

 

 ぴちゃぴちゃぴちゃ……。

 自分を舐め回す二人の男は、何故そんなに舐めるのだろう。砂糖のように甘いわけでもないし、女のような肌理細やかさも無いのに。しかしその濡れたくすぐったい刺激は身体中を蕩かせるのには十分で、フレディは身体中を愛撫されて身悶えている。

「くっ……ああ」

 絞るように肉棒をさすられて、動けないフレディは身体をがくがくとさせる。フレディが動けないのは、天井から下がっている鎖に両手を縛られているせいだ。鎖は銀製だったが、手首に触れる部分は傷つかないように革紐になっていた。

 前に居る青年は一心にフレディの胸の先を舐めしゃぶり、後ろに居る新田はフレディを貫きながら身体中を舐めまわしている。

 媚薬を飲まされ、アヌスにも肉棒にもたっぷりと媚薬を塗られたフレディは、官能に従順で、男二人を夢中にさせていた。外見が真面目で堅物に見えるだけにその乱れぶりがたまらないらしい。

「ああっ……ああっ」

「ほらほら、もっと腰を動かしなさい」

「ひぃあっ……あああっ」

「これだけ後ろがほぐされているんだから、相当気持ちいいんだね。純、もっと強く乳首を吸ってあげなさい。それでは駄目だ」

「はい」

 純と呼ばれたあの黒髪の青年が、汗や唾液で濡れ光っている乳首を口に含んだ。

「-------っ!!!」

 びくっびくっと身体を震わせ、フレディは今日何度目かの白濁を吐き出した。

 気を失ったフレディの腰をゆすりながら、新田は笑った。

「ずいぶん開発されているな。高野秘書辺りかな……」

「……そうでしょうね」

 純がフレディの手首に絡みついた革紐を解くと、新田はぐったりとしたフレディを抱えてさらに腰をゆする。その振動でまたフレディは起こされて、再び呻き始める。二日続けてろくに睡眠を与えられず、どろどろの官能に溶かされてその甘い痺れが辛い。

「あ……うう」

「さっきから呻いてばかりだね、少しは何か話したまえ」

「……もう……やだ……」

「情けないねえ。君は一番なってないよ。大抵の子はすぐに慣れるのに」

 ズクンズクンと疼くアヌスは、媚薬のせいで熱くドロドロになってしまっている。愛液など溢れるはずもないのだが、さんざん舐められたり白濁を吐き出しているので、それらが溢れかえっているのだろう。

 新田のモノには何か異物が入ってぼこぼこしている。それにアヌスの中を掻き回されると恐ろしいほどの痺れが身体中に走り、フレディを乱れさせるのだ。

「まあいいさ……さあ、今日はこれで最後だよ」

 ぎゅっと背後から胸をつかまれ、先をつねられた。びりびりと痒みに似た疼きが走りフレディはもだえ狂った。

「いいいっ……ああああああっーっ!!!」

「ほらほらほら、もっときつく咥えて鍛えないとね」

「うあっ……ああっ……ああ! ああっ、あん!」

「どうも締りが悪い気がする。純、お前のものを彼にあげなさい」

「はい」

 純のモノがフレディの口に無理やり押し込まれ、フレディはそれから逃れようと頭を振り、純の両手で固く押さえ込まれた。

「ヘタだな。もっと喉奥深くまで咥えなよ」

「……っ……ん……ぐ」

 呼吸がままならないフレディは、しかたなく純のモノを咥えた。

「それでいいんだフレディ。さっきよりずっと良くなった」

 耳に新田の舌が忍び込み、その唇がフレディをまた舐めしゃぶりだした。さきほどよりも腰の揺さぶりは激しくなり、固くなった乳首を指の腹で押され、摘まれ、ぐりぐりと刺激されていく。

「ぐう……ん…………っ……っ……!」

 だらだらとフレディの口から、唾液がぼたぼたと滴ってベッドに落ちた。ベッドのシーツは白濁や汗や唾液でぐっしょりと濡れて、皺が寄って乱れている。

「はあ……っ……ふふ……この男は……いい」

「……ンぐっ……ぐ……」

「もういい……純、抜いてあげなさい。声が聞きたくなった」

「はい」

 純のモノが抜かれるのと同時にフレディの声が飛び出した、新田に白濁や唾液でめちゃくちゃになっている身体を抱きしめられ、フレディはぼろぼろに泣きながらされるがままに身体を弄ばれている。

「ああっ……あっ……はあん……っ……ああっああ!」

「……く…………っ」

 白濁がアヌスの中を満たしていくと同時に、新田に肩を噛み付かれてフレディは細く啼いた。乱れた髪がべったりと身体に貼り付いてひどい有様だ。

 細かく震えているフレディから、肉棒をずるりと抜くと新田はうれしそうに笑った。仰向けに倒れたフレディの顔を何度も撫でて、淫猥に口付ける。

「フレディ、たまらんよ君は……。正直ここまでとは思っていなかった」

 目を薄く開けて、まだ余韻で揺れているフレディの顔に、新田の白濁の残りが吐き出された。みるみるその秀麗な顔は白く汚されていく。二人がかりで二日間嬲られ続けたフレディに、それを避ける力はもう無い。

「う…………」

 新田の唇が重なり、舌をクチュクチュと吸われ口腔内を舐めまわされた。息が苦しい。しかしだらりと投げ出した手足を動かす気にもなれない。

「旦那様、お時間ですが」

 控えめな純の声が、いつまでも続くかと思われたキスを終わらせた。名残惜しそうに新田はベッドから立ち上がる。

「やれやれ面倒な事だ。暫くは休みだと思っていたのに」

「仕方ありません。早く支度なさらないと間に合いません」

「わかった。じゃあフレディ、続きはまた帰ってからだ……」

 陵辱の時間はやっと終わり、新田は純と部屋を出て行った。屋敷の外で車のエンジンの音と新田の声がする。そしてドアが閉まる音がして、車が道を下って行く気配がした。

 短時間で眠りに落ちていたらしい。フレディは、自分の身体に降りかかるシャワーの湯に目覚めた。眠くてたまらないが瞼を持ち上げて見上げると、純がフレディの髪を洗っている所だった。

「寝てろよ。明日の夜帰ってきたらまたやられるんだから」

「…………」

 饐えた嫌な臭いが、シャワーの湯とボディーソープで洗い流されていくのが気持ち良い。すっかり綺麗になるとバスタオルで拭かれ、長い髪をドライヤーで乾かされた。その動作は嫌に手馴れていて、新田が男を連れ込んでいるのは本当なんだなとフレディは思った。

「……ずいぶん綺麗な髪だな」

 さらさら流れる髪に純が口付けた。ぼんやりと脱衣所の大鏡の前に座らされていたフレディは、妙に艶がある純の声にはっとした。この声は自分を欲する声だ。

「旦那様は近いうちに切ると言ってたけど、もったいないな」

 髪を梳る純の手を止めようとしたが、純は無視してブラシを流している。

 手に力が入らない。二日続けて攻め立てられたせいで、フレディは極度の疲労に陥っていた。純は髪を乾かし終わると全裸のフレディをそのままベッドまで運び、綺麗になったシーツの上に寝かせた。どうやら二人がバスルームに入っている間に、誰かが直したらしい。この別荘には他にも人がいるようだった。

 純は服を着せる気がないらしく、そのままフレディの上に圧し掛かってきた。くたびれきったフレディは青い目を揺らしゆっくり瞬いた。危険だとわかっていても、情欲に満ちた目で近づいてくる純を見ている事しか出来ない。

「やっと邪魔者が消えた」

 耐え切れない喜びがその声ににじんでいて、純の手がフレディの身体を撫で回し始めた。もう蜜を出すのも無理な萎えた肉棒を握られ、フレディは呻いた。その横顔に純が何度もキスをして囁く。

「もう一回できる?」

「……やだ。もう、勘弁……ああ!」

 容赦なく扱く純の手に、静まりかけていた愉悦がまた甦ってくる。涙を流すフレディに口付けて純は握っていた手を離した。

「そうだよね。安心してもうしないから……、ふふ。でもさあ、僕、貴方が気に入っちゃった。旦那様になんとかしてもらって僕のものにしようっと」

 猛烈な眠気が襲い掛かり、何も言う気になれず黙ってフレディは目を閉じた。トビアスが現れるまではこの生活が続く。自分で選んだ事なのだ。フレディは純に抱かれながら眠るしかなかった。

(……高野に会いたいな)

 眠りの淵に沈む前に、高野の冷たい横顔が浮かんだ。

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