天使のキス ~Deux anges~ 第19話

 次の日、麻理子はなんだかぐったりして目覚めた。隣の貴明は、すやすやと眠っていて、相変わらず寝顔はずいぶんと可愛い。

 静かで爽やかな朝で、天気がいいのか部屋の中は明るかった。

 一人ではないというのはいいものだ。この爽やかなものを分かち合える幸福を、麻理子はずいぶん長い間忘れていた。

 麻理子は、貴明を起こさない様にベッドを抜け出して、シャワーを浴びた。温かいシャワーの湯を浴びていると、貴明の身体の感触がふっと甦り、体の芯がかっと熱くなる。

 昨夜はしたなくなかっただろうか。あられもない声を張り上げていた記憶だけが、やけに大きく、麻理子はそれが恥ずかしかった。タオルで拭く体が、なんだか別人になったような気がした。

「あら?」

 脱衣所の籠に入れておいたはずの服がない。昨日は確かに丁寧に畳んで置いたのだ。それが下着ごとないのは明らかに貴明の仕業だった。

 どうしたらいいのか、脱衣所でおろおろとしていると、起きてきた貴明が脱衣所の扉を開けて入ってきた。慌てて麻理子はバスタオルで前を隠した。

「何を探しているの?」

「あの……服がないんです」

 くくくと貴明は笑う。恥ずかしいのに、貴明はさっぱりわかってくれない。

「まだ朝の五時だよ。服は要らないんじゃないかな?」

「要りますよ。部屋に帰らないと……、あっ」

 貴明に腕をひっぱられ、横抱きにされたかと思うと、ベッドへ連れ戻された。

 とまどっている麻理子に、寝起きの貴明がにっこりと笑った。

「おはよう、麻理子」

「……おはようございます」

 貴明とは目が合わせられないまま、小さな声で麻理子は挨拶を返した。

「どうして僕の顔を見ないの?」

「その前に服を返して下さい」

「クリーニングに出したよ。とっくに」

 突然、貴明の身体に押し倒されて、麻理子の小さな身体は簡単に組み伏せられてしまった。

「何す……」

 抗議しようと思わず貴明を見上げると、あの綺麗な顔が至近距離だったので、麻理子の心臓は飛び跳ねた。

 目が離せない。胸の高鳴りが貴明に聞こえそうだ。薄茶色の瞳は楽しそうに踊っている。貴明はあのあとシャワーを浴びたのだろう、長い髪はさらりと流れていて、身綺麗だった。

「麻理子……今日はいつもより綺麗だね」

「……うそ、というか、見ないで下さい」

 顔が熱くなる。きっと今の自分は、みっともないほど赤くなっているだろう。

 頬に貴明の手が触れ、慈しむ様に撫で回した。

「こんな麻理子初めて見たなあ。自分でわかってる? 男がむしゃぶりつきたくなる顔してる……」

「いや、見ないで下さい!」

「見るよ、昨日は薄暗くて何も見えなかったからね」

 言うなり貴明は、麻理子が身体に巻いているタオルを引きはがした。麻理子はタオルを奪い返そうとしたが、手の届かない場所に置かれる。麻理子を押さえつけたまま、貴明もバスローブを脱ぎ全裸になった。

「ん……」

 頬を貴明にぬらりと舐められ、麻理子は硬く目を瞑った。舌は、そのまま麻理子が一番弱い部分……耳の下を舐めていく。

「あん……あ、あ!」

 両手を貴明に押さえつけられているので、唯一動く頭を振って抵抗を試みるが、無駄だった。そのまま貴明の愛撫を甘受するしかなく、麻理子の身体から抵抗する力がどんどん抜けていく。

 くすりと笑った貴明の手に、柔らかな乳房を掴まれた。それだけで麻理子の身体は飛び跳ねる。

「君を、頭の中で裸にしている男連中は、多いだろうね」

「うそ……嫌です、そんなの」

「うそじゃない、僕がどれだけ我慢してたと思う? 我ながら感心するよ」

 貴明の唇が重なった。触れるだけのキスはすぐに深くなり、舌が口腔内に入ってきた。

「ん……む……」

 深くなっていくキスに、麻理子は貴明の背中にしがみついた。

 角度を変えて貴明はキスを続ける。麻理子は貴明の舌の動きに合わせるのが精一杯で、自分の恥ずかしいところを撫でまわす、貴明の手に頭が回らなかった。

 濡れているのが恥ずかしくて身をよじったが、貴明の指は吸い付く様に陰部を愛撫している。麻理子は、何故貴明がここをやたらと撫でるのか、不思議だった。そこを触られるとあられもない声をあげることになってしまうので、恥ずかしい。

 貴明はそこがうるおってくると、顔をそこに埋めて舐めだした。

「きゃあ!」

 恥ずかしいなどというレベルはとうに飛んでいき、仰天した麻理子は、必死で貴明から逃れようとした。

 しかし、貴明は腰をしっかりと掴んで離さない。貴明の舌がぬるぬると陰裂を這い回り、たまらない疼きをもたらす。

「ん……あ! いやあっ! は……」

「あー、甘いね。おいしいね。麻理子はどこもかしこも最高だね」

 のんびりした声で貴明がうれしそうに言いながら、今度は肉の芽をなぶった。たちまち麻理子の身体は震えだした。

「かわいいね。昨日は初日だから我慢してたんだけど、今日は思いっきりやってあげるから」

「え? 何で、飛行機……」

「この部屋連泊する」

「仕事は……」

「休みを作るなんて、簡単さ」

「私は困ります!」

 麻理子は貴明の隙をつき、身体を押しのけた。

「メイド長には言ってあるよ。だから今日一日は完全にフリーだ」

 貴明はそう説明すると、また麻理子の身体に手を伸ばそうとする。だが麻理子は、その手をはねのけた。

「駄目です。すぐに帰りましょう。東京に」

「帰れないよ、飛行機ないし」

「じゃあ今から取ります」

「ふうん、取れるんなら取ってみれば?」

 薄茶色の瞳を意地悪に光らせた貴明に、素早く抱き寄せられた。麻理子は再び押しのけようとするが、もう無理だった。

 先程の愛撫で充分に濡れているところに、ずぶりと貴明の慾を埋め込まれる。

「あぁっ!」

 痛みと疼きが同時にわきあがり、麻理子は顔をしかめた。向かい合わせに抱く貴明が、無邪気に微笑んで甘くささやく。

「大丈夫だよ、すぐにこれが気持ちよくて、たまらなくなってるから」

 貴明の長い指が、すうっと麻理子の背中を一直線に撫で下ろしてきて、ぞくぞくとした麻理子は弓なりに反った。

「あ……あ!」

「可愛い麻理子、大事にするよ」

 繋がったまま抱きしめられ、貴明の歯が耳朶を甘噛みする。振り切れず麻理子は喘ぐだけだった。恥ずかしいところは貴明を食い締めて、さらに蜜をあふれさせて出し入れをスムーズにする。緩やかに腰を動かして、貴明は麻理子の表情の変化を眺めて楽しんでいるのだ。

「は……っあぁ……あ、ん……っ」

「いい表情をする」

 うっとりしたように貴明が呟き、柔らかな乳房をそっと押し上げ、摘んだり揉んだりしながら、片方を赤い舌を出して舐める。胸を舐められるこそばゆさと、恥ずかしいところを突き上げられる快感を、自分の指を噛むことで阻止しようとして、貴明に手を取られた。

「声を我慢するな」

「や……なのっ。おね……ああっ、ああ!」

「恥らって、気持ちいいのを我慢してるのもいいね」 

 いかにもセックスに慣れていない女というところが、貴明にはたまらないらしい。

「あんっあっ! たか……あきさま……っ」

 口が自由になると、途端に麻理子は声をあげる。

「もっと……、その、いやらしい声……聞かせてよ」

「はぁっ、ん……あ、あっ……ぁあ!」 

 貴明が猛然と腰を動かした。

 熱くて気持ちが良くて何もかもが白く染まる。

 麻理子はどんどん昇りつめていき、やがてぴんと身体をはりつめらせ、ぐったりとした。

「ふふ、本当に可愛い」

 貴明の声が、遥か遠くに聞こえた。

 

 麻理子が目覚めると、貴明は朝食をとっていた。

「あ、麻理子気がついた? ご飯食べる?」

「…………」

 貴明はバスローブをきちんと着て、涼しい顔をしている。昨夜と今日と肌を重ねて、何故あんなに平気なのか麻理子は不思議でならなかった。

 ワゴンごとベッドの隣に移動してくると、貴明は麻理子の後ろに座り、身体を起こさせた。

「食べさせてあげる。食べないと身体が保たないよ?」

 さらさらと貴明の黄金の髪が、降り掛かってきて頬がくすぐったい。

「あの、服は……」

「すぐ脱ぐんだからいらないよ。部屋も暖かいし」

 やわやわと胸を揉む貴明の手を、麻理子は容赦なくつねった。続けさまにされたら体がもたない。

「やめてください」

「痛いなあ、もお……」

 ぶつぶつ言いながら貴明は箸を取り、麻理子の口に食事を運ぶ。麻理子はめずらしく食欲がなかったのに、貴明のペースにはめられて完食した。

「よく食べました」

 天使の様な微笑みを浮かべた貴明が、優しく麻理子の頬にキスをしてくれた。

 背中に感じる貴明の温かさが、とても気持ちいい。

 貴明は今日は本当に、麻理子にずっとひっついているつもりのようだ。

(私……私、こんなことしてていいのかな)

 気になって背後の貴明を見ると、貴明はにこりと笑った。

 こんなに綺麗で魅力的な男が、自分を愛していると言ってくる。

 それが、麻理子は不思議でたまらない。

 自分を一目みた瞬間に貴明は恋に落ちたという。

 なら自分は? 

 その時、あの執務室で振り返った、貴明の姿が脳裏をよぎった。

「何を考えてる?」

 貴明のやや高い声が、麻理子の耳をくすぐった。熱い吐息を感じて肩をすくめると、貴明の人差し指が麻理子の口に差し込まれた。あの甘い舌の様に、指がゆっくりと口腔内をかき回す。

「しゃぶって……」

「んっ!」

 わけがわからないまま舐めていると、貴明は満足そうに息をつき、下腹部を撫でていた片方の手を一気に麻理子の足の間に割り込ませ、恥ずかしい場所に指を突き立てた。

「あっや!」

「指を舐めるのを、忘れたらいけないよ」

 貴明はそう言いながら麻理子の頬を舐める。指は乾いた局部には痛いだけだったが、挿入を繰り返されるに従って蜜が溢れ、充血し、熱を持ち始める。むずがゆいしびれがまた下腹部を襲い、麻理子は喘ぎだした。

「ふ……ううう!」

 口に入れられた指は、抜かれる気配はない。麻理子は桜色の唇から唾液を流しながら、懸命に指をしゃぶった。

「ん、頑張ってるね。ご褒美あげるからね」

 やっと口から指が引き抜かれたが、陰部の濡れた部分では貴明の指が暴れている。その動きに余裕を感じて麻理子は悔しくなった。貴明は何人もの女を抱いた事があるのだ、自分以外に。

 胸の奥が、嫉妬でちくちくする。

「もう……もう駄目です……止めて」

 貴明が、背後でくすくすと笑う。

「まだ大丈夫だよ」

 増やされた指がぬらつく局部を、出たり入ったりする。口から引き抜かれた指が、肉の芽を蜜の潤いを利用しながらまぶす様に愛撫し、爪を立てた。

「ううっ……く!」

 麻理子は身をよじらせて、貴明から逃れようとする。

(怖い、また、来る……っ)

 でも現実は、貴明の愛撫をより強く受け止めているだけだ。

「もうやだ……!」

「もっと、もっとないて? まだ我慢してるね? 自分に正直におなり」

 腕の中でもがいている、麻理子の耳に口づける様に、貴明が熱く囁く。

「ずいぶん……お上手ですね」

「うん? なんだ、やたらと綺麗になって頑張ってるかと思えば嫉妬か? ふふ」

 胸中を当てられて、麻理子は顔を背けた。

 その艶のある美しさが貴明の心を鷲掴み、愛撫をしつこいものにし、局部を嬲る指の動きを激しくさせる。

 熱く疼き潤みきっているそこを、麻理子は鎮めようと頑張った。

 これ以上されたらまた自分はおかしくなる、おかしくなってしまう。それが恐い。

 なのに、さっき以上に大きな波が押し寄せてくる。

「嫌! 離して離してえ! お願い……っああ!」

「離さない。僕からは絶対に逃れられない。何度でもいったらいいよ」

 狂いそうな快楽の中で、麻理子は背後の貴明を見た。

 見たのは、妖艶で悪魔の様な美しさの貴明。冷たく光る薄茶色の澄んだ瞳。

 ずくんと身体の奥が響く。

 初めて見る貴明に麻理子の心は釘付けになり、一瞬で、離れたいと思った心は遠ざかった。

「あ……っ! は」

 もっともっと影の貴明を感じたい。

 麻理子は悪魔の様な貴明の唇を求めた。

 直ぐにそれは与えられ、妖しい甘さが彼女を包んでいく。激しく舌を絡められ、吸われ、お互いつつきあって唾液をたらしながら、何度も濃厚に口づけあった。

 唇を離すと二人は銀色の糸を引いた。そのまま熱に浮かされた様に麻理子は、切ない声で想いのたけをぶつける。

「貴明様……好き、好き、好き……!」

「僕もだよ、麻理子」

 何度も好きと言い続ける麻理子の頬を、貴明がなだめる様にキスをして、うれしいという笑みで顔を一杯にした。指をきつく締めて痙攣し、どっとぬらつく蜜があふれて貴明の指を濡らしていく……。

 麻理子の手は、いつの間にか貴明の髪をつかんでいた。

「……貴明様」

 潤んだ目をきらきらさせながら、懇願する麻理子の声に、貴明は含み笑いをした。

 何を言いたいのか、手に取る様にわかる。

 貴明は熱くなって興奮している慾を、麻理子の手に握らせた。それはまるで、別の生き物のように麻理子には思えた。

「いれて欲しかったら、さすって」

 生まれて初めて触るそれが、麻理子は恥ずかしかったが、いれて欲しい欲望に勝てなくて懸命にさすった。でも触り方がよくわからない。しかし、その微妙な触り加減が、貴明は心地良いらしい。

「ん……」

 低く呻く貴明の声が、麻理子はうれしい。多分気持ちいいから呻いているのだ。だから余計に頑張ってさすった。すると貴明の慾はびくびくと動いて、先からぬるぬるしたものがにじんでくる様になった。

「なんだかよくわからないけど、上手だね……」

 苦しそうに貴明が言った。貴明は麻理子の手から慾を外し、麻理子の腰を抱えて、座ったまま後ろからそのまま、ズ……ズと慾を押し込んだ。

「うああ……!」

 甘い快感がぱあっと広がり、麻理子は悶えた。震える麻理子の乳房を貴明が形が歪む程握り、先端を摘む。

「あは……! いやあ」

「ふふ……沢山ご褒美あげるからね」

 貴明は、麻理子の身体を撫で回しながらその肩に吸い付き、愛おしそうに舐めあげていく。

「……っは、あぁ……、ん、ん、……あっ!」

 繋がっているところはしとどに濡れ、卑猥な音がして、その音が麻理子を羞恥と興奮に駆り立てる。麻理子の手は、貴明の腕と長い髪をつかんだままだった。

「ねえ麻理子、気持ちいい? 君の中で僕はどうなっている?」

「あつい!  溶けて……く……」

「僕もそうだよ」

 腕を掴んでいる麻理子の手を取り、その指を貴明は口にくわえて舐めた。腰は相変わらず動いて麻理子を攻めたてている。

「はあっ……は……ああっ」

 麻理子の胎内は、もう痛みを感じない。

 今はただ、貴明の慾がかき回す疼きと熱にひたすら酔う。

 はしたないとは思うのに、麻理子は声を止められない。頭の中が虹色に輝く様な、真っ白になっていく様な、そんな感覚にとらわれる。

「た……貴明」

「あれ? 呼び捨ててくれるの? うれしいな」

 貴明が麻理子の顔を覗き込んだ。麻理子は絶頂間近で、朦朧としながら首を振った。話すのも大変なのだ。

「も、もう無理なんです……、お願い」

 貴明のもたらす、甘くて熱いむず痒い感覚でどうにかなる前に、先にいって欲しいのだ。麻理子は目から涙を流し続けている。

 でも貴明は、やさしく笑っただけだった。

「ごめんね、これくらいじゃ僕はいけない。昨日は初めてだったからやさしくしたけどね」

 そう言いながら、貴明は腰の動きをさらに早め、濡れてぐちゃぐちゃになっている結合部に指を這わせたかと思うと、固くぷくりとしこっている肉の芽をやわらかく撫で、容赦なく押しつぶした。

「……っ────!!」 

 麻理子は目の前が真っ白になった。

 そのまま気を失い、やや息の荒い貴明の腕に抱きしめられた。

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