天の園 地の楽園 第2部 第13話

 恵美はぱらりと本のページをめくった。読んでいるのは圭吾の本棚の歴史書で、前から図書館で予約待ちしていて、借りたいと思っていた貴重な古書だった。

 誘拐監禁されてから、もう三ヶ月が過ぎようとしている。

 最初の頃は強姦されたショックで情緒不安定な毎日を送っていたが、それ以降の圭吾はむしろ優しいくらいで無理に押し倒したりせず、どこまでも恵美を甘やかした。それはまるで初めて出会った頃の圭吾のようであったが、本性を知った恵美は、いつも表情を固く強張らせて拒絶している。飽きるのは一体いつなのだろう。メイドたちは圭吾はとても女に飽き易く、長く持って二週間ほどだと言ったが、もう三ヶ月も経つ。貴明にはもう逢えないし逢うつもりもない。大学も辞めた。この三ヶ月、日を置かずに身体を弄ばれ続けているみじめさと言ったらなく、もう気が狂いそうだ。早く出たくてたまらないのに、何もかも忘れたいのに、圭吾が開放してくれない……。それほど圭吾は貴明が嫌いなのだろう。

 もしかして、この先ずっとこのままなのだろうかという恐怖が胸を侵食し、恵美はそれを考えないように努力している。この部屋にはパソコンも電話もなく、相手をしてくれるのは数人のメイドだけで彼女達は話し相手にはなってくれるが、ここを出る手段にはなってくれない。

 夜の九時、仕事が終わった圭吾がネクタイを外しながら部屋に入ってきた。同時にメイドが二人入ってきて酒の類をテーブルに並べ始めた。食事はどこかで食べてきたようだ。

 恵美は何もせずに本を読んでいる。圭吾がシャワーを浴びて出てきたところで、メイドたちは支度を終えた。

「ではまた明日。圭吾様も恵美様も良い夜を……」

 並べ終えるとメイドたちは頭を下げ、さっさと出て行った。

 恵美は隣に座った圭吾を無視して本を読み続けていた。圭吾は圭吾で一人で手酌をして洋酒を飲んでいる。その姿は誰が見ても完成された大人の男で、二十歳前の貴明では持ちようがない重厚な雰囲気が漂っていた。おそらくは大半の女はこれを見ただけで圭吾に心を奪われるだろう。

 かちゃりと音がして、グラスを置いた圭吾が恵美のうなじをゆっくりと撫でた。

「もう寝る。ベッドへ行け」

「…………」

 今日はするのかと恵美はがっかりしながら本を閉じる。

 

 室内スリッパがあるのに恵美はいつも裸足だった。もっとも圭吾の部屋は毛の長いカーペットが一面に敷かれていて、空調が快適な温度に管理されている。そして恵美もメイドたちに管理されていた……圭吾がいつでも抱けるように。今の恵美は、圭吾専属の本番ありの風俗嬢の様なものだった。まともな洋服は滅多にない外出時にしか着させてもらえず、いつも前開きの長いネグリジェを引き摺っている。

 恵美は隣の部屋のベッドの隅に腰を掛け、あつかましく腰に手を回す圭吾を無視してそっぽを向いた。

「……今日は一日何をしていた?」

「さっきの本、読んでた」

 

 そっぽを向いたまま、恵美は言った。圭吾はそうかと言って恵美の長い髪を梳き始めた。よくわからないが手触りがいいといって嬉しそうにしているから、髪が好きなのだろうと恵美は思っている。

「そうか、気に入ったのならいい……」

 腰にあった手が胸に上がってきて、胸を柔らかく掴まれるとたまらない疼きが生まれた。しかし反応するのはとても癪で恵美はじっと我慢した。圭吾が自分を観察しているのがわかっているだけにかなり辛い。恵美の悩みは監禁の次にこの性欲旺盛な圭吾の相手で、回数が週に三回ぐらいと多くなくても、いざ始まると何時間もやられるので嫌だった。しかし一番嫌なのは圭吾の愛撫になし崩しになる自分だ。もともとがセックスアピールが抜群な圭吾なのだから、恵美の様な男性経験が乏しい女などひとたまりもない、

「ん……あっ」

 ぬるりと鎖骨を舐められ、その舌が首筋に上がってくると同時に立ちあがった胸の先を指先で摘ままれると、その小さな身体は圭吾の腕の中で跳ねた。じゅんと下腹部が反応して濡れていくのが嫌で、恵美は懸命に太ももを閉じた。

「相変わらず感度がいい……」

 鎖骨から顔まで上ってきた圭吾の唇が、恵美のそれに熱く重なった。胸を弄られながらそのままベッドに倒れた恵美は、唇全体を食まれて呼吸が苦しくなり、圭吾の顔に両手を添えた。すると圭吾は恵美の呼吸に合わせて口付けの角度を変えながら、より深く口付けていく……。

 つ……と流れていく唾液を圭吾の指先がなぞり、恵美の唇に咥えさせた。

「舐めろ」

 抵抗しても無駄だとわかっている恵美は大人しくその指を舐めた。その間に圭吾が股間を押し上げるように何度も何度も同じよう掌全体で撫で上げ始め、その熱い体温に局部が蕩けてたまらなくなり、恵美は閉じられない口で呻いた。

「ふ……んんっ……ん、んっ……んんーっ」

「そうやって我慢しろ」

 小さく笑った圭吾がネグリジェの裾を捲り上げ、濡れているショーツを抜き取り、大きく股を広げた。なす術もなく自分の愛戯に乱れている恵美を楽しみながら、圭吾は乾いた唇を舐めた。ネグリジェの下にブラジャーはなく、前開きの服のボタンが外されると大きくなった乳房がすぐに柔らかくまろび出た。つんと固く立ち上がっている蕾に圭吾の唇が吸い付く。

「んんんっ……う……うん……」

 唇の中で舌が踊り、そそりたって充血している蕾を優しく撫でた後にまた強く吸われると、じんじんとしてたまらなくなる。今度は歯で柔らかく噛まれ、じゅわりと股間の蜜が濃厚に溢れて下着を濡らした。

「ああ!」

 口から指が抜かれた。蜜で滑っている局部を緩やかに撫でまわされると、びりびりとした快感が指先にまで走り、恵美は顔を仰け反らせた。せめる指先は決して性急ではなく、じわじわと恵美をさいなむ。圭吾の性交はいつもこうで、嫌がっている彼女を焦らしに焦らして乱れるのを楽しむのだった。若い男にありがちな、ただ突っ込んで快楽を得たいというタイプではないらしい。貴明との数回の性交しか知らない恵美は、熟練者の愛戯に溺れさせられて、いつも息も絶え絶えになるのだった。

「どうした? 気持ち良いのならもっとねだれ」

「や……だ」

 僅かに残る理性で圭吾を拒絶する。乱れた吐息が囚われているのを意味しているのに、それでも必死に恵美は理性に縋った。

「お願い、もう……終わって……おねが……っ、んんっあ!!」

 ねっとりと舐められる首筋とずぶりと局部に侵入した指先に、浮上しかけていた恵美は再び快楽に沈んだ。じれったいほどにゆっくりと内部をかき混ぜられると、強い刺激がほしくて勝手に腰が動き出してしまう。何度も頭を振っている恵美はいつも圭吾の指先に翻弄されて、結局は圭吾に思い通りに彼に抱きついて懇願する羽目になるのだった。

「あっ……はあ……」

「どこを触って欲しい?」

 唾液を含んだ舌に耳を舐められ、開かれきった身体が妖しく蠢いて圭吾を誘った。なかなかねだらない恵美に焦れた圭吾の指が、痛いほどに張り詰めて息づく局部の芽を舐めるように撫でた。それだけで恵美は嬌声を上げていきなり達した。

「ふ……何をしたわけでもあるまいに」

 びくびくと細かく震える正直すぎる身体に、圭吾は含み笑いをする。

 

「余程貴明が下手だったのか? どうだ」

「ああっ……やあっ……あっ、いやあっ」

 いやだとは言っているが、身体は圭吾を欲していた。それが何よりも圭吾の嗜虐心をあおり、恵美をめちゃくちゃにしてやりたくなるのだ。彼女が貴明を思い出すたびに、得体の知れない感情が恵美を憎らしいと思い、もっと恵美が欲しいと心の底から願い始める……。

「……まだあいつが好きなのか?」

 ぐいぐいと敏感な芽が擦られて、恵美の細い腕が圭吾の首に回された。同時に長い指先にしごかれる胸の先がたまらない。再び唇が重なり、今度は舌を絡めて吸いあった。圭吾の舌が恵美の舌の根元をゆるりと舐めると、また恵美はびくびくと震わせて達する。こうなるとイキ地獄の様なもので、恵美は辛いばかりだ。それでも圭吾の欲は深く序の口だった。秘唇に三本目の指が入り、ばらばらと蜜を掻き始めると恵美の愉悦を訴える声は止まらなくなり、お互いがじっとりと汗ばんでいく。そこでようやく圭吾は自分の服を脱ぎ、恵美の身体に絡まっているネグリジェをベッドの脇に落とした。

「う……ああ!」

 押し込まれた熱い塊に頭の中が真っ白になった。ずくずくと秘肉が蠢き、圭吾のものを歓待して締め付け、肉体の持ち主の理性を破壊する。ただでさえ身体中疼いて仕方ないのに、一番敏感な部分を熱いそれに擦られると、たまらない痒みが生まれて何もかもがふっとんでしまう。この時だけは誰を愛しているとか、嫌いだとか、そういうものが消えて、快感だけが身体も心も支配するのだ。

「いいっ……ああ……んっ……んっ……」

「恵美……私の名は?」

 吐息と共に耳に艶のある声を聞かされ、恵美のそこがきゅっと締まった。揺れる乳房を大きな手が捉えて、揉み潰しながら先端を指でまた扱いていく。喘いでいるだけの恵美の耳に圭吾が同じ事をささやきながら、今度はぬちゃぬちゃと水音を立てながら舌で嬲った。髪を乱した恵美は小さな手で圭吾の背中にしがみ付き、掠れた声でやっと言った。

「け……ご、圭吾っ……」

「そうだ。ご褒美にもっとやってやろうか……」

「ひいっ……あんっあああっ……あう……ああ!」

 猛然と突かれるともう確実に貴明は消えてしまう。狂ったように喘いで、圭吾になされるがままになった恵美は、貴明が知る彼女ではなくなっていた。この姿を見たらなんと言うだろうと、圭吾は仄暗い愉悦に笑みを浮かべる。

 蜜で滑っているそこはもうびしゃびしゃになっていて、圭吾が腰を打ち付けるたびに淫靡な音がした。

 やがて、また白濁が恵美の中にそのまま注がれた。こそばゆく熱い液に恵美は圭吾のものと同時にイキ果てる。上気して妖艶な風情すら見せる恵美に、圭吾は唇を寄せて長い口付けを始めた……。

 翌日、ベッドで一人目覚めた恵美は、変わらない悪夢のままである事にがっかりし、暗い気持ちを抱えて丸まった。またどろりとした物が足を伝うので、このままでは絶対に妊娠してしまうという恐怖で胸が一杯になる。いつもいつも快楽に蕩けきって我を失った翌日は、この恐怖に苛まれるのだった。

(怖いよ。誰か助けて)

 どろどろと圭吾の放ったものが流れ、シーツに染みていく。圭吾はいつも避妊をしないし、ピルを服用させてくれない。子供などできないから安心しろなどとむちゃくちゃを言う。

(わたしどうなっちゃうの……)

 外の世界と完全に遮断され、一人ぼっちだ。圭吾は恵美を落として貴明を徹底的にやり込めたいらしく、宝石やら服やらをたんまりと持って来る。先日は巨額の金が振り込まれた恵美名義の貯金通帳まで持ってきた。いずれもいらないので、部屋の隅のクローゼットに放り込んである。最近では恵美の趣味から落とそうとたくらみ始めたようで、恵美の好きな歴史関係の書籍を片っ端から揃え始めた。

 物質欲と性欲とで絡め取り、贅沢に慣れた恵美をある日突然突き放して、人生をめちゃくちゃにするつもりなのだろう。しかし恵美が欲しいのはそのどちらでもなく、ごくありふれた普通すぎる毎日なので全く効果はない。

「貴明……」

 小さく名前を呟き、恵美は上掛けに包まって目を閉じた。涙が沢山溢れてく

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