翌日、恵美は朝からケーキ作りに取りかかった。美雪は恵美にねだって簡単な作業を小さな手で一生懸命やっている。やがてケーキの……
……絶対に離さないと言ったのは、貴方だったのに。一生護ると言ったのは貴方だったのに……。 恵美は美雪と二人で寺の境内にある……
恵美には会社の事はとんとわからない。ただ、元気を取り戻した貴明が緊急に臨時の株主総会を開き、専務の橋中を始め、この半年間……
運命という言葉は好きじゃない。 ただの偶然を至上の恋と思い込みたい人、何の努力もせず負けた人が言い訳として使う安っぽい言葉……
青光の塔(せいこうのとう)と呼ばれる、囚人が処刑を待つ間放り込まれる塔の一番上に閉じ込められた。 そこは、かび臭いごつごつ……
公爵ではない者の足音が部屋に入ってきた。 「それが身代わりか? 誰にも見られておらぬだろうな」 「ご心配なく。この者は話せない……
私は質素なドレスを屋敷の侍女に着させられ、表玄関へ一番近い客室に連れてこられた。部屋には光の神子と国王、そして公爵がいた……
その晩久しぶりに正樹の夢を見た。映画館や私のアパートへ行ってデートして楽しんでいる幸せな夢。本当はこっちが現実だったのに……
「ど……して」 「どうしてとはお言葉ですね、ラン」 得体の知れない微笑を浮かべた公爵の手のひらが両肩に置かれ、恐ろしさに胸が……
気がついたら、私はがたがた揺れる馬車に乗せられていた。ひどい馬車だった。下は板敷きでその上を黒の金属製の檻が覆っている。……
正樹は騎士達に取り押さえられ、王宮へ行く豪華な馬車に私と一緒に乗ることが許されなかった。二台あった馬車の一つに私は公爵に……
幼い頃の夢はお嫁さんだった。どこかのお金持ちとか王子様とかじゃなくて、とにかく優しい男の人と結婚したいと思っていた。 正樹……
離宮へ帰ってきた私は、結衣さんに会うことを許されなかった。罪人だからだという。おかしなことを言っていると思った。だって、……
「影の神子と光の神子は、国王と同等の権力を持てる。それが邪魔だった代々の権力者は、光の神子とは婚姻を結んで傀儡にし、影の……
平安の御世。政の中心は数百年前から変わらず、玄武、白虎、青龍、朱雀による四神の守護の恩恵を受ける平安京という都の中にあり……
一条の外れに物の怪邸と言われるほど荒れ果てた宮家の邸がある。無人ではなくつい最近まで女人二人が暮らしていた。一人は宮家の……
春の嵐が吹き荒れた。 容赦の無い風は今が満開とばかりに咲き誇っていた桜を吹き散らし、花を愛でていた人々はしきりに残念がった……
それから数日が経った。 逃亡しようとして惇長に捕まった珠子は元の局に戻されてしまい、嫌味女房に監視される毎日に精神的に参っ……
「今朝はお静かになさっておいでですのね。昨日は、それはそれは、ご退屈そうにしておいででしたのに」 朝、激しい痛みに、気持ち……
初夏に入ってから、じわりと汗ばむ日が続いていた。 珠子は扇を静かに煽ぎながら、早く目当ての場所へつかないかとばかり考えてい……
翌日、一条は坂本の実家へ帰っていった。 代わりに惇長の従者の由綱が女房の役目を果たしてくれたのだが、一条と違って男の由綱は……
「貴方……」 「妖物に魅入られますよ。気づきませんか? 姫の周りは妖の匂いがぷんぷんします」 「貴方には嗅ぎ取れるの?」 「皆わ……
雨が降らず、御簾内からでも陽の強さがわかるほど暑い日々が続いている。昼下がりだけあって蝉の声が騒々しい。 風はどこへ行った……
乞巧奠(きこうでん、七夕祭り)が無事に済み、宿直の惇長はなんともなし清涼殿の廂に座り、ふと置かれたままになっている盥の水……
暴風で、閉められた蔀戸がたがたと震えた。 降り出した雨が縁や庭の草木を叩きつけ、たちまち濡れそぼっていく。縁も風雨によって……
師走も中旬に入り、雪が舞い、凍えるような寒さに、人々は火桶に火を起こして暖を取っている。 京から望む山々はもう真っ白で、雪……
几帳を挟んだ向こう側の縁にいる女房に向かって、 「弾いていたのは私です。貴女は?」 と、珠子が警戒しながら返事をすると、 「こ……
女房達は皆撫子の御方の所に集まっているため、寝殿の孫廂(まごのひさし)に人影はなく、珠子は一人で翠野を抱えて彰親からの合……
それから惇長は、前のように珠子の所へやって来て、一緒に過ごしてくれるようになった。前と違うのは一緒の褥に入ってもなにもし……
優雅に扇を広げ、撫子の御方は面白そうに御簾の向こうを見やった。 騒々しい足音と共に女房達が慌てさざめく声がする。やがて撫子……
子の刻(深夜0時)。 燈台に明るく火が灯され、色鮮やかな衣装の花が咲き乱れている中、珠子は必死に欠伸をかみ殺していた。 東宮……
「中将の君」 いきなり噂の本人の右京の声がして、珠子はびっくりした。桜が飛び起きて局の奥へ逃げていく。 後宮暮らしで一番慣れ……
陣定の席で、惇長は渋い顔を隠しきれなかった。それは中心となっている左大臣も同様で、先ほどから重い沈黙が場を占めている。 「……
広いようでとても狭い後宮に、あっという間に珠子の恋人は彰親だという噂は広まった。広めたのは当然目の前の右京だ。 「本当にお……
一条に呼び出された彰親は、半刻も経たないうちに駆けつけてくれた。みるみる険しい顔になり、 「身体の中に入ったのですね。やっ……
惇長が、高熱でこんこんと眠っている珠子を抱いて彰親の屋敷へ入ったのは、亥の刻を小半時ほど(午後十一時)過ぎた頃だった。雪……
翌日はひどい吹雪だった。邸はみしみしと風を受けて軋み、格子や蔀戸の隙間から粉雪が舞い込んでくる。女房や家人たちは建物の中……
如月に入り、珠子は内裏に戻った。 淑景舎は以前より明るい声に満ちていて、風通しのいい場所に変わっていた。 妖の病魔が去ったせ……
琴の音や人の笑い声などが、遠くから微かに聞こえてくる。 粉雪が舞い散るこの寒い夜に、弘徽殿で雪を見る為の管弦の宴が催されて……
厳重な人払いがされた。 撫子の御方は気分が優れず暗い顔だった。珠子の兄の美徳に対しての約束が守れなかったのと、次から次へと……
珠子の局は、主が居ない為ひっそりと静まり返っていた。 猫の桜はおそらく彰親が連れ帰ってしまったのだろう、いつもの畳の上にそ……
雪がしんしんと降り、恐ろしく冷え込む夜の都を、美徳と彰親はゆっくりと歩いていた。 ともに、粗末な傘を被り蓑を羽織って身をや……
瞬く間に日が過ぎ、主上の譲位と共に東宮が新たな主上になられ、二の宮で御年一歳になられる永平親王が東宮に御立ちになった。落……
右大臣の屋敷は、朝から妙に騒々しかった。 なにか宴でも催されるのだろう。珠子は関係ないわと思いながら、刺繍をして気を紛らわ……
夜が明けた。 とはいえ、几帳や御簾や格子で隔てられた屋内は、まだまだ薄暗い。 美徳は瞑想をやめ、ゆっくりと目を開いた。 瞑想は……
「おお……これは素晴らしい」 院が楽しそうに笑まれたのを、惇長はうれしくお見受けした。 珍しく青空が垣間見えていた。御簾越し……
「これはどういう事か説明いただきたい」 惇長は、中納言義行に向き直った。 官位は同じでも、惇長の方が遙かに重く思われていて貫……
「やれ! なぜやらんのか。どうなっておるのだ、呪は効いている筈なのにっ」 哉親がどれだけ妖をそそのかしても、触手達は源晶を攻……
彰親の屋敷の庭にも、やはり桜の木があった。 今年は、満開の頃は屋敷の住人はそれを愛でる余裕はなく、何故かいきなり続出したけ……
陽が、湖の向こうへ沈もうとしている。 茜色に染まった空と金色に輝く陽を湖が映して、それはそれは美しい光景であるにもかかわら……
いよいよ妻問いが行われる日が来た。 今日は、村の若い者が総出で川掃除をする事になっていた。この間の屋敷の掃除のように、あき……
百合は、粗末な家の中の、また粗末な褥に美徳を誘った。 全てが使い古されたもので、今日の夜にはふさわしくはない。それが百合に……
華やかな舞踏会が繰り広げられていた。 着飾った貴族や軍人、王宮への出入りが許されている商人たち、隣国からの貴族や王族が参加……
「なに、この暗い割には軽そうな話」 「暗くない。この渾身の作を暗いなんて、お前はまじで女捨ててんな」 ぽいと|稔《じん》にノ……
目覚めたら、おとぎ話のお姫様が眠るようなベッドに横になっていた。 ……私って、確か部室に居たんだよね? そんでなんか白い光に……
目覚めた時、自分の部屋ではなくてがっかりした。 あーあ……、やっぱり妙な魔法のノートに摂り憑かれてるんだ。なんで読めたんだ……
「ちょ……、私、したことないっ」 「心配ない。私はある」 「あんたなんか嫌いだってば!」 「嫌いだろうが好きだろうが、身体を繋……
それから一週間ほど、私はジークフリードの詰め込み教育を受けた。 本を読んだり、文章を書いたりはいいのだけど、ダンスとか、礼……
その夜、陛下が部屋に偲んで来た。 「な、な、なんでしょうかっ」 びびる私の前で陛下の顔がゆがみ、ジークフリードの姿になった。……
なんか……あったかいな。すべすべしてるというか、あらぬところがべたべたしているというか……。 ああ、シーツはさらさらで気持……
そして、再び私は、ジークフリードのダンスの猛特訓を受けていた。 この男も忙しいだろうに、よくつきあうもんだ。 元の世界で言う……
舞踏会というものに出るのは初めてだ。 国王主催なので名だたる貴族が列席し、しかも今回は、諸外国の貴族や王族が招かれている。……
「王后陛下、貴女は国王陛下にとっての唯一の御方です。それは誰にも覆せないのです。それをよくご理解ください」 「ジークフリー……
白木さんは、驚いている私に大笑いした。 「私も一応神子だからね。対になる神子が替え玉だなんてすぐにわかったのよ。ものすごく……
ご飯らしいご飯が差し入れられたのは、このかび臭くて汚い牢獄に入れられてから二日後の夜だった。扉の横にある差し入れ口から入……
車窓の外には、大草原が広がっていた。私の身長程しかない低い木が、硬そうな緑の葉を扇のように広げて、おおよそ茂っているとは……
宿へ入るなり、ギュンター王子は真っ先に宿屋の主人に、部屋へ案内させた。 「疲れただろうから、ゆっくり休んで」 そう言って、笑……
薄暗い中で目覚めたら、清潔で真っ白な天井が目に入った。 「気づきましたか? まだ時間は少ししか経ってません。同じ日の夜です」……
「黒竜公……」 オトフリートがつぶやいた。 黒竜公って、ジークフリードのお父さんよね? 道理で顔が似てると思った……。すごく怖……
ジークフリードの手のひらが、熱い。 何度も何度も、私の首筋に口付けを繰り返し、体温を移すかのように密着する。うれしそうに囁……
あー……あったかい。 ふんわりふわふわ……気持ちいい。すべすべだし。ん? すべすべって何が? すべすべ……。 違和感に目をぱちっ……
ああ、また夢の中だ。 この空間は記憶にある……。 確か、白木さんとオトフリートに夢の中で出会った時、こんな柔らかな空間だった……
『ロザリン姫について、どこまでご存知ですか?』 「ギュンター王子のお兄さんの婚約者で、血縁に黒竜公の妹君がいらっしゃるって……
ぶわりと何かが吹き出て、周りが七色の虹に包まれた。 オトフリートに抱きしめられたまま、身体はどこかへ運ばれていく。夢だけれ……
「やっと行ってくれたのね、ドリス様のところへ」 はー……。 気が抜けた私は、ソファに深く沈みこんだ。 連れ去られてから、もう一……
翌朝、妙な色の飲み物を、シャルロッテに手渡された。 クリスタルのグラスに入っているそれは、白色に七色の虹が混ざっているよう……
結局、何の収穫もないまま、貴重な外出日は終わってしまった。 知りたくもないのに知った情報は、ギュンター王子は何が何でも私を……
侍女たちが、おろおろと懇願している。 「お鎮まり下さいませ、王后陛下。どうか、どうか……」 「お前たちこそお下がり。私はその……
皇太子妃候補からは外されたとのことで、私はその日のうちに王后の棟へ移った。ギュンター王子にまた言い寄られたら困るし、ジー……
白木さんに会いたい。彼女はきっと、オトフリートに詳しいはずだ。だって、私の夢の中へ一緒に入ってきたくらいだし。 私もそんな……
「銀……」 私の呟きに、オトフリートはくすりと笑った。 「最初に貴女の夢に訪問した時に、そう言ったでしょう? 私は銀の竜族だと……
あれ? いつまで待っても衝撃が来ない。それどころか、ジークフリードは私を離し、黒竜公を追う。 「お待ちを! 父上」 黒竜公は立ち……
オトフリートは、ジークフリードが傷口を治そうとするのを、頑なに拒否した。 「私は、この城に……鈴……様がいらした時に、黒………
それから、百年の年月が過ぎた。 私は久しぶりに、ジークフリードのお城から王都の近くに転移し、そこから馬車で王宮へ伺候した。……
女に刺されて数日後、目覚めた時には処置は全て終わっており、麻酔が施されている身体には違和感しか無かった。 一番先に目に入っ……
それから数日後、父が来た。 ノックもなしに入ってきた父は、横になっている私に起きろと命令した。まだ痛む身体を苦労して起き上……
半年に渡る苦しいリハビリが終わる頃、季節は梅雨に入っていた。 靖則はほぼ毎日私のリハビリに付き添い、来るなと言っても頑とし……
退院の日の朝、いつも午後に来る靖則が朝食を取っている間に来た。 「ずいぶん早いわね」 「仕事は休みました」 靖則は私の荷物をち……
そして私は、今の状況下にあるわけだ。 沙彩のシナリオ通り、今日も真嗣さんの会社で白い目で見られながら、仕事をしている。 午後……
あれ以来、ひなりは他社へ出向しており、詳しい話を聞けていない。謎掛けみたいな言葉を残してくれたせいで、物思いが増えた。 そ……
結局、ひなりと私が同じ布団で寝ることになってしまい、窮屈な寝心地で最悪な夜を迎えることになった。 「いいじゃないの。女同士……
朝食を食べ終えて靖則の様子を見に行くと、靖則は既に起きていて、しかも布団を畳んでいた。 「ちょっと、怪我は大丈夫なの?」 「……
ばこんと頭を叩かれ、痛くて目が覚めた。 叩いたのはひなりだった。 「やっと起きた。寝坊にも程があるわ」 「靖則にやられたの! 見……
『今日も美しいね、ジョセフィーヌ』 王宮の廊下で背後から突然話しかけてきたのは、ソフィアの父の宰相だ。初老に入っているとい……
沙彩は部屋を出ていき、その後、真嗣さんは鍵をかけた。 「そんなに怖い顔をしないでください。私と結婚したいって言ってたじゃな……
ものすごい量の前世の記憶がなだれ込んでくる。さすがに辛くてしゃがみこんだ私を靖則が抱き上げて、寝台に腰掛けさせてくれた。……
不意にバリアーが消えた。 「どうしてなの? どうして封印が完全に解けたの? すみれが靖則を許すはずがないのに……!」 沙彩が悔し……
ものすごく疲れる一日だった。 早く家へ帰ろうと北山の屋敷の裏口へあの夢乃に案内してもらった。すると、たまたまそこへ屋敷へ帰……
「ほら、仏頂面」 車を運転していた佑太は、妻の美留に耳を引っ張られ、危ないじゃないかとその手を払った。もう、佑太の兄の将貴……
その日の夜は主に千歳と美留がわいわいと盛り上がって、将貴と佑太がそれに追従する形で楽しく過ごせた。最近ぐずってどうしよう……