やがてやって来た鈍行電車に乗り、がらがらの座席のひとつに座ると、将貴は何故か心が開放されていくのを感じた。外はとても寒い……
「うわ、超美少年。どこで拾ってきたのこれ」 「人を物の様に言うんじゃない。熊が出たって向こうの華の屋旅館の連中がうるさいか……
厨房はかなりハードな仕事場だった。アルバイトをした経験がない将貴はとまどうばかりで、言葉遣いひとつでも沢山注意を受けてい……
「将貴どうしたんだ?」 料理長の稲田が不審がって聞いてくれる。なんでもないとは言えない。幼い頃から叩き込まれてきた感情のコ……
将貴は帰りたくなかった佐藤邸の自分の部屋で目覚めるまで、眠り薬を飲まされた事に気付いていなかった。あの居心地のいい旅館の……
ある日、麻理子がにこにこ笑いながら言った。 「将貴、一度ニードルレースでベッドカバーを作ってみない? デザインはまかせるわ」……
何度目かの電話の音で将貴は目覚めた。時計は午後の10時を指していた。何故か出る気になった将貴は懐かしい名前を耳にした。音……
「……つきあってもいいよ」 私の精一杯の告白に、広山君は目を輝かせた。そんな彼を見て、私も勇気を出してよかったなとほっとす……
嫌な夢を見た。きっとこいつのせいだ。 昨日ポストに投函してあった、同級会のお知らせのはがき。 誰が好き好んで、あんな嫌な思い……
引越し先の高校で、私は生まれ変わった。 朗のおかげだ。 友達も沢山できたし、楽しい三年間だったと思う。 中学の時の私のような子……
「やー、凄い人気ね」 「そうね」 新人歓迎会をしている飲み屋さんで、宮下君の方を見て桜子が面白そうに言うのに、まったくそのと……
「えっと、こんばんは。話は……えっと、部署が違うから話はできなくてもあたりまえじゃ……」 「そういえばそうだね」 にっこりと……
何故か私は、宮下君に連れられて、駅前ビルの地下何階かにある小さなバーに来ていた。とっておきの穴場だそうで、個室にもなって……
腕を宮下さんに舐められて、びっくりして彼を置いて店を飛び出した。 天気予報で今夜は晴れだったはずなのに、何故か雨がざあざあ……
「ブランデーに酔ったかな?」 そうつぶやく宮下君の声が、ひどく遠く聞こえる。ワンピースの服の上から身体をなぞる手のひらは、……
私はお酒に異様に弱い。気持ちが悪くなるというのもある。だけどそれ以上に、人が違ったみたいに淫乱になってしまう。 それがわか……
「車に乗って。おれと一緒に来て欲しい」 「……どこへいくの?」 「京都」 行き場所をなんとなくわかっていた私は、それでも目を見……
なぜ彼がこれを持っているの? レイプされてそのあと謝り倒されて、変わらず私を虐めからかばい続けてくれた広山君を許すかどうか……
翌日は、とてもよく晴れた暑い日だった。 空調が効いているホテル内から見える外は、まだ午前中なのに物凄く暑そうだ。 京都は暑さ……
また明日ねと言う鈴木さんとメルアド交換して、宮下君と会社を出た。 いよいよだ。 日差しはだいぶましになったのに、暑さだけはア……
ホテルへ帰ってきて、シャワーを浴びてさっぱりとした。 今日みたいに暑い日は、薄化粧でもべっとり貼り付くようだったから、落と……
「それよりお腹すきませんか? 僕、まだなんですけれど」 「あ、あそこは止めておいたほうが良いわ。お隣のイタリア料理のほうがい……
好きという気持ちは、どこから沸いてくるのだろう。 それが愛に変わる瞬間は自分でわかるのだろうか。 最終の新幹線で帰る中村君を……
久しぶりの出社は想像通りだった あちこちから視線を投げつけられ、ひそひそとされるのは、間違いなく横領問題騒ぎのせいだろう。……
桜子の結婚式の日がやってきた。 秋晴れの結婚式日和だ。 結婚式披露宴が行われるホテルのロビーには、見城ほのかと取り巻きの御曹……
「新婦のほのか様と新郎の勝彦様、このたびは本当におめでとうございます」 敵意を漲らせた若い男性が、顔とは正反対のうやうやし……
あれから数年の月日が過ぎた。 会社を辞めた私は結婚して、京都へ引越しした。嫌いだ嫌いだ二度と行くもんかと思っていた街だった……
埃やくもの巣だらけの空き家の中で、雅明は相棒のフレディと頭目であるトビアスの指示を待っていた。二人が潜んでいるボロ家から……
「あ……く……っ」 その白い顔を赤く染めて、雅明はアレクサンデルが与えてくる快感に耐えていた。ベッドに腰掛けた彼の膝の上に……
それから一週間が過ぎたが、雅明は相変わらずアレクサンデルの館の一角にとらわれている。ボスのトビアスからはなんのアクション……
それから二週間ばかり、雅明はフレディと一緒の部屋で生活していた。雅明が嫌がってもフレディは片時も離れずに、絶えず雅明の身……
若い男性と、数人の男達に連れられて、雅明とフレディは豪華な館の部屋に入れられた。その瞬間にフレディが正気に戻ったかのよう……
『私を忘れたくなるような恋愛はしないで欲しいね。私はいつだって、どこだって、永遠にお前の中に居たいんだから……』 もうすぐ……
またかと思いながら、フレディはペットボトルの水を窓の外の庭に捨てた。運ばれてきた昼食も恐らく駄目だろう。ビニール袋に投げ……
恋人の目が虹色に染まるのを見て、フレディはひどく興奮してベッドに押し倒し、その白い首筋に顔を埋めた。背中を抱きしめてくる……
枯れたと思っていたはずの涙が止まらない。でもその涙は愛するものへの哀惜の雫ではなく屈辱の炎だった。 「あ……くぅっ……」 熱……
高野は元気をすっかり失ってうなだれているフレディを抱きかかえて廊下を歩き、屋敷の隅にあるフレディの部屋へ連れて帰った。吐……
その晩、フレディは痛む腹や鳩尾を撫でながらパソコンに向かっていた。専門の人間でないとわからない文字列を目で追いながら、キ……
翌日、フレディはぐっすりと眠り込んでいる高野の腕の中で目覚めた。高野の腕はやわらかな枕と一緒に沈んでいたが、とても固く引……
仕事中にこんな事を思うのは不謹慎だが、退屈だとフレディは欠伸をかみ殺した。上司の貴明はそんなフレディに背を向けて、将棋に……
藍の着物を着させられたフレディは、貴明の宿泊する部屋で完全に酒気に飲み込まれていた。ずらりと並べられた酒瓶に、陽気に酒を……
目隠しをされて視界は真っ暗で何も見えない。 車に乗せられて数時間が過ぎていると思われたが、まだ目的地には着かないようだ。フ……
「二日経ったけど動きは無いな」 社長室で貴明が書類にペンを走らせながら言った。高野は少し離れた自分の机で顔を上げる。 「ええ……
鍵が閉まる音がしてフレディは息をついた。監禁される事はわかっていたのでこれくらいで落胆はしない。 ずっと攻める側だった為わ……
甘いりんごの味も、ぶっ掛けられた泥水の味もきちんとわかっていたし、暖かで美しい布の手触りや、厩舎の鼻が曲がるような臭いも……
『髪の毛を三回引っ張った時は、計画実行間近の合図だ』 季節はずれの雷雨が暴れ、木造の別荘は暴風でみしみしと軋んでいた。困っ……
再び戻ったフレディの部屋は相変わらずの暴風雨で、ガラスを叩く雨音が喧しいほどだ。イヴィハイトによって落とされたブレーカー……
「ねえねえ、お熱い中悪いんだけどお知らせがはいりますよー」 「手短に言え」 ぐしゃぐしゃに乱れたベッドの上で、フレディはトビ……
午後十時を回った頃、ようやく狂宴は終わりを告げ、フレディは責め苦から開放された。深く眠っているフレディの身体を丁寧に洗っ……
これと似たような場面を見た記憶があった。そう、雅明を自分のものにしていたパウルから雅明を奪還する時、同じように雅明が背後……
凍りつくように冷たい。 息が出来なくて、苦しい。 抱きしめられているから苦しいのではなく、この氷の様な世界に居るから苦しいの……
佐藤邸の裏庭にある梅が花を咲かせる季節になった。 数日前医者から許可がやっと下りて、表面上では高野もフレディも何事もなかっ……
「おまけに新田が佐藤グループの筆頭秘書を務める高野湊の弟を男娼に使っている事を貴方は知った。高野の耳に入れば当然社長の佐……
佐藤貴明(さとうたかあき): 大企業佐藤グループの跡取り。恵美の恋人。 小川恵美(おがわめぐみ): 普通の大学生。貴明の恋人だ……
自分のロッカーを開けた途端目に入ってきたのは、泥だらけになった体操服とスニーカーだった。貴明はまたかと顔をしかめる。転校……
恵美の母の房枝は、貴明と正人がずぶ濡れになっているのを見て驚き、すぐに二人をバスルームへ案内してくれた。 「恵美、この二人……
「ねえねえ、恵美はだれにチョコあげるの?」 「毎年正人にチョコケーキ焼いてるから、今年もそうなると思うわ」 親友の亜由美が聞……
翌日、なんだか息苦しくて恵美は目覚めた。 目を開けると、貴明の顔が超至近距離にあって自分にキスしており、恵美は貴明の顔を思……
「お前、どうかした?」 正人がコーヒーのマグカップをテーブルの上に置き、雑誌を読んでいる恵美の顔を覗きこんだ。 「別になにも……
次の日、恵美は貴明の腕の中で目覚めた。恵美がもぞもぞと動いたので貴明が目覚め、腕から抜け出ようとしていていた恵美は引き戻……
(ああもう! 目立ちすぎるよこいつは) 恵美は心の中でののしりながら、鶏のもも肉のパックを取った。カートに積んだカゴにそれを……
正人は恵美と一緒に家の中に入った途端、安心したように息を吐いた。 「やっとお前らがくっついたから一安心だよ」 「なにそれ? 佐……
貴明が一人暮らししているマンションに帰ると、義父の圭吾に依頼していた書類がファックスに届いていた。義父の手を借りるのは不……
そこは狭いワンルームで、明らかに単身者が住むに適したアパートだった。近くに大学があり、そこへ通う学生を目当てに立てられた……
二人はベンチに離れて座り、しばらく何も言わなかった。恵美がどうやって貴明を説得しようかと思って黙り込んでいるのに対して、……
恵美はレストランの裏口から出た瞬間、やられたと思った。駐車場に駐車していたのが正人の車ではなく、貴明の紺色の外車だったか……
結局もとさやのようになってしまったが、恵美は絶対に甘い雰囲気にならないように努力をしている。しっとりとした空気が流れても……
恵美はがちがちになっていた。目の前に居る圭吾にどうしても緊張してしまう。大学から少し離れた場所にあるこの喫茶店に入ったの……
貴明は、恵美が用意した布団に寝転ぶなり、すぐにぐっすり眠ってしまった。身長が百八十センチある貴明に、恵美の用意した布団は……
「ちょ、待って貴明……っ、友達なのに」 「男の友達を一人で家に上げるなんて、無防備もいいところだよ。大学で知り合った男連中……
ゴールデンウィークに入る直前、正人は、公子のマンションに来ていた。慎ましくひとり暮らししていた公子が最近妙に派手になり、……
午後の四時過ぎに恵美は貴明に揺り動かされて目覚めた。すっかり寝込んでいたようで、恵美は目を擦りながらゆっくり起き上がった……
恵美が気づいた時には、キャデラックはすでに東京に入っていた。夜明け前の薄暗闇に見覚えのあるビル群が見えて恵美はびっくりし……
嵐の時間が過ぎた恵美は、圭吾がさっさと出て行った後も、長い間ぼさぼさの髪のままでぼんやりとしていた。精神的なショックがき……
貴明は歴史ツアーから開放されて東京へ戻ってきたが、マンションへは帰らず恵美がいる佐藤邸へ行った。しかし、執事はそんな娘は……
恵美はぱらりと本のページをめくった。読んでいるのは圭吾の本棚の歴史書で、前から図書館で予約待ちしていて、借りたいと思って……
残暑がまだ残る頃、圭吾が恵美を旅行に連れ出した。行き先は信州の蓼科で、圭吾のお気に入りの避暑地らしい。とはいえ恵美の気は……
目覚めると圭吾の姿はなかった。熱っぽかった身体は楽になっていたので、恵美はほっとした。圭吾はどこかの社長の挨拶を受けてい……
『そうか、元気でやってるんだな。安心した』 久しぶりに聞く正人の声に恵美は癒されていた。あと三ヶ月ほどドイツに行っていると……
圭吾は書類の決裁を終えた後、いらいらとする心を持て余しながら珈琲を飲んだ。旅行先で恵美が消えてからこのいらいらがずっと続……
ベッドで目覚めた恵美は心配そうに貴明が自分を覗きこんでいるのを見て、ああ、大丈夫、自分はまだ捕まっていないと安心した。 「……
瑠璃は、沢山いる恋人の一人の男の腕の中で、にんまり笑った。 「未練がましいブス女。生まれが卑しい会社社長。女の価値のわから……
今日も恵美は佐藤邸の圭吾の寝室で診察を受けていた。あの日、佐藤邸を出たところで事故に遭い、圭吾が救急車を呼ぼうとしたが、……
佐藤邸は相変わらず沢山の人が過ごしていて賑やかだった。寮がわりに暮らしている社員達の話題は、もっぱら圭吾の愛人についてだ……
あすかに介助されて自分の部屋に戻った貴明は、左腕の痛みは治まったが心の痛みは激しくなっていく一方だった。 汗びっしょりにな……
圭吾が銀座にある宝石店の前で車を止めさせ、一時間後に迎えに来るように言い置いて恵美と二人で入店した。 「これはこれは佐藤様……
三月に入った頃、圭吾は社長室の自分の席で新聞を読んでいて、気になる記事を見つけた。貴明の見合い相手の鹿島瑠璃が、自宅マン……
圭吾に愛されてとても幸せなのだが、抱かれていないとまた不安な襲ってくる、そういう毎日の繰り返しで恵美は疲れていた。特に今……
「今飲んだ媚薬、効いてくると効果が絶大なんだ。そろそろその強い効果が出てくる頃だよ」 「やあ……そん……ああ」 官能の高まり……
「これをどうぞ」 メイド長が出した白い錠剤を、恵美は黙って飲んだ。もうこのメイド長が貴明を引き入れたのだと察しがついている……
「……何の用だ?」 社長席についている圭吾に貴明が冷たく言った。圭吾は椅子の背もたれに背中を預けているが、決してリラックス……
恵美の記憶が戻らないまま、また数ヶ月が過ぎた。専門の医者に圭吾が受診させたりしたが効果はあがらない。しかし、恵美は献身的……
旅行カバンには、着替えやいくばくかのお金が入ったバッグなども入っている。一月ぐらいは持つはずだ。恵美は圭吾を起こさないよ……
時計は夜の二十三時を回っていた。貴明は伝票入力を全て終えて保存し、必要なデータだけ上司にメールで送付してパソコンの電源を……
妊娠七か月に入ったお腹は大きくせり出してきて、恵美はたっぷりと布幅がある妊婦服を着るようになった。しかし、圭吾の趣味でレ……
深夜。ふと目を覚ました恵美は、窓から差し込む月の光にそっとカーテンを開けてみた。 「わあ……綺麗」 雲ひとつ無い漆黒の夜空に……
それからまた数ヶ月が過ぎたある日、恵美は必死に痛みと戦っていた。 「痛い痛い……」 「大丈夫だよ。恵美」 「なんで圭吾来ないの……
「恵美ー、居る?」 「あら、貴明いらっしゃい」 恵美は美雪を抱いて、戸口に居る貴明ににっこり笑った。貴明も恵美には微笑みかけ……
とある社長夫妻の金婚式を祝うパーティーに出席した貴明は、主催者達へ丁重な挨拶をした後、想像通りご令嬢方に囲まれて辟易して……
貴明は、圭吾の机で重役達と対峙していた。 「だから何度も言っているだろう。僕が社長の代理だと。早くその書類を……」 「こちら……