「これは一体どういうこと? レイナルド様は、ソフィア様と別れて、私と結婚すると約束してくださったはずでしょう?」 夢の中の私……
私は俗に言う、天涯孤独の身の上だ。 父と母は想いあう仲だったらしいけれど、とある大企業の跡取りだった父と、普通の家柄の母と……
靖則は、顔だけはいい男だから、目の保養にはなると思う。 だけど心の中は、溝のような汚さで満ち溢れているに違いない。 でもそれ……
営業から回ってきた書類に不備があり、営業部のある4階のフロアに向かっている最中に、見覚えのある姿が目に入ってきて思わず足……
真嗣さんから連絡があったのは、それから数日後だった。当時勤めていた会社で、仕事だった給与計算の処理がちょうど終わって一息……
アパートの部屋に戻ってドアを閉めるのと同時に、携帯端末が鳴った。 見ると真嗣さんだ。まだパーティー中じゃないかな。 出てもい……
それからの私は、真嗣さんの呼び出しに臆することなく応じるようになった。それは沙彩のプレゼントに関する相談だったり、食事に……
夢の中で、私はカンテラのようなものを持ち、夜の暗闇の中を、腰に剣を佩いた男と二人で歩いていた。魔法の壁のようなものが二人……
12月に入って寒さが深まっていた。真嗣さんは相変わらず私をデートに誘ってくれ、私はそれに応えていた。沙彩も靖則も父も、私……
昼食を作り終え、恵美は外で遊んでいる子供を呼んだ。 長女で小学生の美雪(みゆき)からはすぐに返事が返ってきたが、五歳の長男……
それから一週間ほど過ぎた日曜日、朝、恵美と子供たちがのんびり過ごしているところへ、雅明から電話がかかってきた。 「今日、貴……
正人のお墓に手を合わせる貴明を、恵美は申し訳ない気持ちで見ていた。 季節はずれの墓地に人影はなく、今にも雨が降りそうな湿気……
恵美は客間へ入った。子供たちがついて来たが、麻理子を不安にさせているようなので出て行ってもらう。 目覚めた麻理子は、ばつが……
佐藤邸で居候生活に慣れ始めた頃、とんでもない噂を恵美は耳にした。 それは佐藤邸へ来た時から流れていたらしいのだが、恵美は部……
眠れない恵美は、圭吾のスーツを胸に抱えてベンチに座り、ぼんやりとしていた。 いや、ぼんやりとしているふりをしていた。少しで……
それから数日、麻理子も貴明も雅明も部屋に来なかった。恵美は、結婚式の準備が忙しいのだろうと思い、特に気にしていなかった。……
恵美は、飛行機の中でひどい頭痛に耐えていた。飛んでいるのはもうギリシャの上空で、機内アナウンスが着陸に備えてベルトを締め……
異国の気に包まれて起きた恵美は、深く深呼吸した。 (そうだ……ギリシャにいるんだった) ベッドから降りて、室内スリッパを履い……
──ごめんね、正人。ごめん……私は。 ──いいよわかってる。だからそんな顔するな。俺はお前の事ならなんだってわかってるんだ……
夕闇の中を、途切れることなく走っている車が、歩道を歩いている二人をライトで次々照らしていく。あんなにいた観光客は別の地区……
次の日の朝、恵美は雅明の腕の中で目覚めた。カーテンの色が浮き上がって明るい。今日もいい天気になりそうだ。 目の前で雅明がす……
ひとしきり泣いて恵美は圭吾を見上げた。 「どうして今まで姿を隠してたの? ひどいわ」 子供のように拗ねる恵美に、圭吾は申し訳な……
関係者以外立ち入り禁止というプレートが下がっている廊下へ、奏は眠った恵美を横抱きにしてずんずんと進んでいく。後ろからアネ……
眠っている恵美の隣で朝六時ぴったりに、雅明は佐藤グループ独自の通信を開始した。通話だと盗聴されるためだ。この通信は、管轄……
ギリシャからドイツまで飛行機を使い、シュレーゲルへ戻る車の中で、雅明は氷のような表情を崩さなかった。 身体中で自分を拒絶す……
午後をだいぶ回った頃、恵美たちはアテネへ帰ってきた。 たくさん居る観光客、ずっと車が途絶えない道路、排気ガス、それでも神話……
「圭吾は捨て子だったと言っていました」 奏は頷いた 「ええ……、実際母が捨てたようなものです。だいぶ経ってから兄を探し出して……
シュレーゲルという地名は、三百年ほど前からこの地を支配した、貴族の名に由来する。 三方を山、残る一方を大河という天然の要塞……
夕闇に染まりゆくシュレーゲルの館の庭で、雅明は過去を思い出していた。 ドイツ語を話せず、誰も知らない人間の中にいきなり放り……
ソルヴェイは日本人とドイツ人のハーフで、ずっと日本で住んでいたが昨年母親が亡くなったので、父親のいるドイツへ引き取られた……
そうして十一年の歳月が過ぎた。 今日も大きなアルブレヒトの館の中の自分の部屋で、雅明は熱心に絵を描いていた。 大学へ入って初……
ソルヴェイと結ばれた翌日の昼、雅明が彼女との結婚の許可をもらうためにアルブレヒトの部屋へ行くと、エリザベートが来ていた。……
翌朝、アルブレヒトは、雅明の部屋で置き手紙を握りしめた。 ” 愚かな孫をお許しください ” 部屋の中のものは、ほとんど持ち出され……
フランスの絵画展を終えた雅明を待っていたのは、ディートリヒ邸の人々の冷たい視線だった。 「おかえりなさいませ」 「……ただい……
ぐいぐいと己の慾を押し込み、細い腰を腕で固く抱きこんで揺さぶると、女は嬌声をあげて自分にしがみ付いてくる。柔らかな肌は吸……
雅明はアルブレヒトに遠慮して館には帰らずに、シュレーゲルから100キロほど離れた街に、小さなアパートを借りて一人で生活を……
「居たぞ! あそこだっ」 拠点にしていたあばら家で情報機器の後片付けをしていた雅明と、組織のメンバー数人は、その声を聞くなり……
夏の暑い日だった。 雅明は自分のぼろアパートで、絵を描いていた。 この数年で闇の組織の重要な仕事をまかされるようになり、今で……
エリザベートと食事をした翌日、朝から激しい雨が降った。雅明は仕事があるという少年を車で自宅の近くまで送ってやり、そのまま……
月日は流れ、雅明は二十九歳になっていた。 アンネがたまたま館を開けた夜、雅明はトビアスに呼びに出されて、ベッドを共にしてい……
飛行機で睡眠薬を飲まされて眠らされ、目覚めた時には、恵美は見知らぬ部屋に居た。薬が切れたばかりで動けない恵美は、首だけ何……
夕日が家々の屋根へ沈もうとしている。 混雑する道を避けて奏が車を走らせているので、奏のマンションへ帰るのではなければ、穏や……
眠れないまま、恵美は朝を迎えた。 時計は五時半を指している。眠るのを諦めて、恵美はベッドから起き上がって着替え、顔を洗った……
佐藤邸へ戻った恵美はすぐに暫く住んでいた部屋へ通され、ベッドへ横たえられた。切られた足首を雅明が消毒して、手馴れた手つき……
美雪と穂高は恵美の姿を目にした途端、それぞれ持っていたものを放り出し、思い切りしがみついてきた。 「お母様っ!」 「おかあさ……
病気も治り、ただの居候をしているのはかなり心苦しいので、恵美はなんでもいいから仕事をしたいと貴明と麻理子に言った。 「仕事……
そんなことがあった翌日、ソルヴェイが一人で恵美の部屋へやってきた。その目は遠慮気味ではあるものの、雅明について話したがっ……
それから数日が過ぎた。 麻理子にソルヴェイとは関わるなと言われたものの、向こうからやってくるのを避けるのは難しかった。恵美……
「まったく、いい加減にしてほしいな。早くあの女を追い出せ」 貴明が刺々しく、窓際に持たれて煙草をふかしている雅明に言う。 部……
翌日、アネモネがやって来た。 「メグミ元気? マリコもおはようございます」 「おはようアネモネさん」 麻理子はアネモネに丁寧に返……
深夜、貴明は眠っているところを、麻理子に起こされた。 「……誰だ?」 「ソルヴェイさんです」 「…………」 差し出された受話器を……
自分の身体が腐っていく感覚とは、こういうのを言うのだなと、恵美は突き上げを受けながら感じる。 そして、心底望まない交わりと……
奏が仕事を終えて実家へ帰ると、亜梨沙が出迎えた。 「おかえりなさいませ」 「ただいま池谷さん。今日はどうでしたか?」 奏の質問……
時は半月以上を遡る。 雅明の様子を見に来たソルヴェイは、想像以上の仕上がりぶりに狂喜していた。 「よくやったわ、フリッツ、ア……
多人数の足音が近づいてくる。今度は猿轡を施された夫妻がおびえる番だった。 雅明は拳銃をアネモネに手渡して、夫妻に振り返った……
そして現在に時は戻る。 「おい、これ飲めるか?」 雅明がシロップ剤に水を混ぜた物が入っている吸い飲みを差し出すが、意識が朦朧……
「恵美様、奥様がご一緒に外出をと申されております。お着替えください」 いつものお茶の稽古の後、亜梨沙にそう言われ、恵美はあ……
振り向いた奏の目には、恐ろしく清らかで穏やかな光が宿っていた。 「恵美」 「はい」 恵美が返事をすると、奏はスーツのポケットか……
「……これが頼まれごとなの?」 唇が離されて恵美が聞くと、雅明は唇の端をあげて微笑した。 「抱いてはいけない人を抱いてしまっ……
春休み。 結ばれた雅明と恵美、そして子供たちは佐藤邸の人々に惜しまれながら、田舎の古い家へ戻ってきた。子供たちは家を恋しく……
驚きの後、恵美の心に生じたのは疑惑だった。 今頃になって実の両親について話しに来るなど、作り話も良いところだと追い払うべき……
老年の男性はリヒャルトと名乗り、青年はフィリップと名乗った。フィリップは車の部品を作る工場を、ドイツで経営しているらしい……
鉛のように重苦しい雲が垂れ込めているせいで、すっきりしない。 恵美はそっとため息をついた。 あれからすぐに恵美達は日本を立ち……
タクシーを呼び、恵美達はリヒャルトの館へ行った。シュレーゲルの館から三キロほど東にあるその館はこじんまりとしていたが、そ……
シュレーゲルの館では、貴明がまだ寒いというのにテラスのベンチに腰掛けていた。エリザベートがそんな貴明にお茶を持って来た。……
「ちっとも似てないわね……」 丸聞こえのひそひそ声にうんざりする。 そんなの貴方達に言われなくても、二十二年間一緒だった本人……
つかまれた腕を振り払おうとすると、男はにやりと笑って顔を寄せてきた。 「あんたが周一郎が好きだって、皆にばれてもいいのなら……
翌日、ホテルから電車に乗ってそのまま旅館へ出勤し、退職するむねをお願いすると、当然のごとくチーフに文句を言われた。そこで……
できたてのそのホテルは、何もかもが綺麗でとても気持ちが良かった。 オープンしたてで混雑しているけれど、もうすこし日にちが経……
カーテンの隙間から、朝陽が顔に当たってまぶしい。 目覚めると、隣には忍さんが居て、ずいぶん幸せそうに眠っている。 「わ!」 ご……
「……よく似てるだろ? 忍の弟のホテルのレストランとさ」 にやにやしながら、早野チーフが私の顔を覗き込んだ。なんなんだろな、……
疲れきってどさりとソファに寝転がった。やわらかでほんのりあったかくて、とても心が休まる心地がする。 忍さんがいない部屋は、……
夜、千夏が強く勧めるので、家に泊まることになった。 千夏にしてみたら積もる話があるのだろう。私は大学卒業と同時に家を出てし……
それから一週間ほど経ったある日、和田チーフに更衣室で呼び止められた。 「三杉さん、貴女、仕事をしてないって言う人がいるんだ……
忍さんにもう何週間も会ってない。季節は梅雨に入り、じめじめとしたスッキリしない天候が続いていた。清掃する客室の換気も窓を……
周一郎さんの車に乗り、しばらくは、はじめての二人きりの空間に緊張して、何も言えなかった。しんと静まり返った空気が重い。な……
「兄弟って言っても、同い年で誕生日も少ししか違わない。幼い頃からずっと比べられてたよ。母親にあいつにだけは負けるなと言わ……
翌日出社した私は、ロッカーの扉に貼られた、「辞めろ」の貼り紙を見てびっくりした。 なんだこれ……。周囲を見回したけれど、気……
私は、カードキーを取り上げられ、ホテルの一室に閉じ込められた。 「は…………」 力なく、シングルベッドに突っ伏した。千夏の結……
いつもの意地悪な忍さんだ。 「原、お前、誰が犯人だと思う?」 お客様を呼び捨てにした忍さんに、私も小寺みちるも驚きを隠せない……
ホテル翡翠には結婚式事業で建てられた、こじんまりとした白い教会がある。 その教会を、ぐるりと取り囲むように広がっている庭園……
「はい、千夏の好きなシナモンティー」 私の手渡したマグカップを、千夏は泣きながら受け取り、ぐすぐすと泣きながら啜った。 こん……
翌日、仕事を終えた私は、夕ご飯の食材を買うためにスーパーに向かっていた。すると、車のクラクションを背後から鳴らされた。 見……
深い深い闇だ。 千夏が涙を流しながら、私に何かを叫んでいる。千夏の周りは闇なのに、千夏の姿だけは異様にくっきりと明るく見え……
女に刺されて数日後、目覚めた時には処置は全て終わっており、麻酔が施されている身体には違和感しか無かった。 一番先に目に入っ……
それから数日後、父が来た。 ノックもなしに入ってきた父は、横になっている私に起きろと命令した。まだ痛む身体を苦労して起き上……
半年に渡る苦しいリハビリが終わる頃、季節は梅雨に入っていた。 靖則はほぼ毎日私のリハビリに付き添い、来るなと言っても頑とし……
退院の日の朝、いつも午後に来る靖則が朝食を取っている間に来た。 「ずいぶん早いわね」 「仕事は休みました」 靖則は私の荷物をち……
そして私は、今の状況下にあるわけだ。 沙彩のシナリオ通り、今日も真嗣さんの会社で白い目で見られながら、仕事をしている。 午後……
あれ以来、ひなりは他社へ出向しており、詳しい話を聞けていない。謎掛けみたいな言葉を残してくれたせいで、物思いが増えた。 そ……
結局、ひなりと私が同じ布団で寝ることになってしまい、窮屈な寝心地で最悪な夜を迎えることになった。 「いいじゃないの。女同士……
朝食を食べ終えて靖則の様子を見に行くと、靖則は既に起きていて、しかも布団を畳んでいた。 「ちょっと、怪我は大丈夫なの?」 「……
ばこんと頭を叩かれ、痛くて目が覚めた。 叩いたのはひなりだった。 「やっと起きた。寝坊にも程があるわ」 「靖則にやられたの! 見……
『今日も美しいね、ジョセフィーヌ』 王宮の廊下で背後から突然話しかけてきたのは、ソフィアの父の宰相だ。初老に入っているとい……
沙彩は部屋を出ていき、その後、真嗣さんは鍵をかけた。 「そんなに怖い顔をしないでください。私と結婚したいって言ってたじゃな……
ものすごい量の前世の記憶がなだれ込んでくる。さすがに辛くてしゃがみこんだ私を靖則が抱き上げて、寝台に腰掛けさせてくれた。……
不意にバリアーが消えた。 「どうしてなの? どうして封印が完全に解けたの? すみれが靖則を許すはずがないのに……!」 沙彩が悔し……
ものすごく疲れる一日だった。 早く家へ帰ろうと北山の屋敷の裏口へあの夢乃に案内してもらった。すると、たまたまそこへ屋敷へ帰……