嶋田麻理子は1億の借金を返済している、元華族の家系のお嬢様。その彼女が勤めている佐藤邸の主人の佐藤貴明が大嫌いなのに、ある日、いきなり本人が迫ってくるようになった。当惑しながらも断りきれず、受け入れていってしまう麻理子の恋の行方は?
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嶋田麻理子 27歳 佐藤邸でメイドとして働いている元お嬢様。佐藤貴明  29歳 佐藤邸の主。佐藤グループの社長。木野亜美  22歳 麻理子の後輩。木野和紀  29歳 亜美の兄。外科医。石川雅明  29歳 貴明の兄、画家。小山内恵美 29歳  ...

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 嶋田麻理子は深窓の令嬢で、美しいものに慣れていると、その時まで思っていた。 美しい家。庭。服。おいしい料理。品のある人々。 両親に早逝され、あったものをすべて奪われ、見る間に一般人よりも貧しい生活に追われて、あちこち彷徨った末にたどり着い ...

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 コンパの会場は、ひどくうるさくて騒がしい。 結局麻理子は園子の誘いを断りきれず、職場である佐藤邸から離れた、とあるレストランの隅っこで一人、お酒を飲んでいた。 男も結婚もする気はない。だから、言い寄ってくる男をすべて軽くいなし、飲んで飲ん ...

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「麻理子、麻理子ったら!」 園子の声で、麻理子は、壁に激突する一歩手前で止まった。高価な花瓶を持って移動していたので、園子が声をかけてくれなかったら、確実に壁にぶつかって花瓶を落としてしまっただろう。「それ一品物だから、割ったら何百万も、弁 ...

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 午後十時、麻理子は貴明の部屋の、隣の控え室に入った。 応接室は静かだ。貴明は在室だが呼ばれる気配はない。あのにやにやの貴明なら、入ったと知れた途端に何かを言ってくると、麻理子は警戒していたので、拍子抜けした。 貴明からの呼び出しが無い限り ...

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 頭が少し痛む。 麻理子は、ウォッカなどというアルコール度が高いものを、飲んだのは昨夜が初めてだった。 今日は休みだ。この痛みは少なくとも午前中は続きそうだ。休みで、本当に良かったと思いながら、麻理子は布団の柔らかさを堪能した。ふかふかして ...

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 白いレースのカーテン越しに、爽やかな朝陽が差し込んでくる、気持ちのいい朝だった。 貴明に部屋へ連れ戻された麻理子は、まだ配膳されていない朝食の席に座らされた。(どういうことなのよどういうことなのよ) 悶々としている麻理子をよそに、貴明は機 ...

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 隣の部屋から戻ると、貴明は、また麻理子のベッドに勝手に横たわっていた。ベッドが小さいせいで、かなり足がはみ出しており、なんだか寝づらそうだ。 なんとなく、麻理子は、貴明を見下ろした。 女性より少し太い眉、長い睫に、形のいい高い鼻、これだけ ...

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「麻理子じゃないか」 搭乗口に向かっていた麻理子は、聞き覚えのある声に振り向いた。「勇佑お兄様」 仕事なのか、勇佑はきちんとスーツを着ていた。勇佑は麻理子の従兄で、勇佑の父は麻理子の父の弟に当たる……。相変わらずやさしげな容貌の勇佑は、変わ ...

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 ベッドから起き上がった麻理子は、体が重く寒気を感じた。昨日、富良野から大雪山までやってきて、大雪山の中にあるホテルに宿泊したのだが、空調が異様な温かさで、気持ち悪くなり、体調を崩してしまったらしい。念のため、持ってきておいた栄養剤と風邪薬 ...

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 朝早く遊覧船に乗るため、貴明と麻理子は暗いうちに起き、身支度を整えた。麻理子はすっかり元気になっていて、これなら外気温が一桁と寒くても、コートを着ていれば大丈夫そうだった。 待ち合わせのホテルのロビーで、麻理子はピアスを付け忘れていたこと ...

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 貴明が運転する車は、羅臼の海岸沿いを走っていた。海風が強く、車全体が衝撃を伝えてくる。朝とはうってかわって、海は白波が立っていた。助手席に麻理子、運転席の後ろは亜美、助手席の後ろは和紀が座っていた。「あ、国後島が見えるわよ」 亜美がはしゃ ...

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 平地では晴れて暖かだったというのに、山の中へ入るに従ってだんだん雲が増えて寒くなり、霧がかってきた。そして、摩周湖に着こうとする頃には、周りはすっかり濃い霧に包まれて、霧以外何も見えなくなっていた。気温も真冬並みの気温で、全員、朝しまった ...

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 貴明はエレベーターの前で、麻理子を捕まえようとしたが、もう少しというところで扉が閉まってしまい、間に合わなかった。七階からどんどんと下がっていく数字を、目で追いながら、もう一台ある隣のエレベーターを見る。隣も使用中で、こちらは七階を通り過 ...

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 それは同じ沈黙でも、いつもの息詰まるような冷たい沈黙ではなかった。なぜなら、貴明の表情のない顔の裏側に、荒れ狂う嵐のような葛藤が透けて見えるからだ。 相当な、よからぬ企てなのだろう。しかし、もう何も言われても動じないと、麻理子は心に決めて ...

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 次の日は、雲が多く、薄暗い日だった。 最初に、オンネトー湖に行く予定になっていた。別名五色沼という、とても美しい湖らしい。「陽が出ている方が、とても綺麗に眺められるんだけどね」 貴明はそう言いながら、ひざの上に置いた、白い袋を落ちないよう ...

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 日高の山中を抜け、緑の牧場が目立つようになった。牛は、白に黒のぶち模様のホルスタイン種の乳牛が多く、中には驚くほど乳房が大きな、スーパーカウという乳牛も居た。馬のほうはさまざまで、いろいろな種類の馬が放牧されていた。 二人は、新千歳空港か ...

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 覚えている電話番号を押そうとして、麻理子は躊躇った。 昨日から一人きりになると、公衆電話やホテルの電話の前で、これを繰り返している。 一言聞けばいいだけなのだ。 何故、貴明が犯罪者だと、思わせるようにしたのかを。 ただ単に、世間知らずの麻 ...

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 深夜、貴明は一人起き上がり、麻理子を見下ろした。 深く眠っている麻理子は、これくらいでは目覚めず、静かに眠っている。 起こさないようにベッドを抜け出し、棚から出したグラスに氷を入れ、ウイスキーを並々と注いだ。火照った額にグラスを当てると、 ...

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 次の日、麻理子はなんだかぐったりして目覚めた。隣の貴明は、すやすやと眠っていて、相変わらず寝顔はずいぶんと可愛い。 静かで爽やかな朝で、天気がいいのか部屋の中は明るかった。 一人ではないというのはいいものだ。この爽やかなものを分かち合える ...

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 成田国際空港へ降り立った麻理子は、貴明の後ろについて混雑する搭乗口を抜けたところで、声をかけられた。「麻理子、おかえり」「……お兄様」 にこにこと笑っている勇佑に、麻理子は複雑な笑みを返した。何故この時刻に帰ってくると、わかっているのだろ ...

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「っあ……あ……」 麻理子は、貴明に貫かれて声をあげていた。 貴明の激しい動きに、ベッドが軋む音が少しうるさい。 密着した腰が熱く、全身から汗が滴っている。 絡められた指も同じで、溶けていく心地がする。 ベッドの脇には、二人の服が無造作に脱 ...

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「嶋田さん、この薔薇はこちらですか?」「そのテーブルが合わないわね。倉庫から青銅のものを持ってきて頂戴。一番小さな、鳥の彫刻が入っているものをお願い」「はい」 後輩のメイド二人が倉庫へ行く後姿を見ながら、もう一人くらい助けを呼ぼうかと麻理子 ...

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 梅雨時のせいかむしむしとして、車の冷房も湿気をたっぷりと含んでいた。 上品な淡いブルーのスーツを着た麻理子は、両手を膝の上に重ね、どんよりとした曇り空を窓から眺めた。 雅明の車は白のスカイラインだった。同じ白なのに貴明のベンツとは、ずいぶ ...

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 開け放たれた障子から涼しい風が入ってくる。東京とは違って山間のこの地域は、湿度がかなり低いらしく爽やかな気候のようだ。微かに匂ってくるのは庭の花山椒のものだった。          風にたゆっているような、ゆらゆらとした目覚めだった。最初 ...

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 佐藤邸では、貴明がかつての灼熱の恋の相手を連れて帰ったため、大騒ぎになった。 特に穂高の存在が人々の興味を引いた。しかし、穂高は雅明の子供として人に紹介され、貴明の隠し子だというゴシップを期待した騒ぎはすぐに治まった。貴明も麻理子も雅明の ...

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 夏に向って陽射しが強くなっていく中、佐藤邸では、麻理子と貴明の結婚式の準備が着々と進められていた。 大々的な結婚式披露宴は行われない予定になっており、式に出席するのはシュレーゲルの一族数人と佐藤グループの社員たちで、披露宴も似たような感じ ...

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 昼はにぎやかな佐藤邸も、平日の深夜はしんと静まり返り足音ひとつしない。プライベートスペースとなるとなおさらで、麻理子は自分の部屋から顔を出して左右を確認し、足音を立てないように注意しながら廊下へ出た。 どうにも我慢がならない。 なんとかし ...

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 中庭で自分の部屋に飾る薔薇を切っていた麻理子は、呼びに来たみどりの声に振り返った。 会う約束をしていた亜美が来たのだ。「そう。私の部屋に通してくれた?」「はい」 みどりはいつものようにうなずいたが、右手の茂みに目を走らせ、急に麻理子を急か ...

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「今日は、恵美の世話はいいから」 数日経ったある朝、食事の時間にそう言われ、麻理子は、貴明が何故そんなことを言うのかわからず首を傾げたが、貴明が気まずそうに麻理子の視線を避けようとするので、ぴんと来た。「……雅明さんですか?」「なんでわかる ...

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 その日も貴明に会う事はなく、夜になり、雅明の言ったとおり貴明は外出したようだった。 結婚式はあと五日後だというのに、こんなふうでは挙式ができるかどうかわからない。 つくられたウェディングドレスも見る気になれない。ため息をつく麻理子に、みど ...

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 麻理子。 優しい声は父の三郎だった。リボンのついた制服を着た高校生の麻理子は、庭に面したテラスに居る三郎に呼ばれて、お茶がセットされた白のテーブルについた。 三郎はご機嫌だった。「麻理子は昔、白馬の王子様と結婚すると言っていたが、今でもそ ...

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 雅明と和紀は部屋を出て行き、貴明と二人きりになった。 言いつけに逆らった麻理子は、恐らくは誰かの結婚式披露宴を抜け出してきたのだろうと思われる、礼服の貴明と目線が合わせられなかった。 頑なまでに貴明の言葉をはねつけた結果がこれで、情けなく ...

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 結局、麻理子達は、翌日の夜まで嶋田邸と警察署に留められた。和紀は勇佑の精神鑑定に立ち会っていて、三人と共に行動しなかった。北海道の件は、麻理子が表沙汰になるのを認めなかった上、ヤクザ者がどこのチンピラか確定できなかったため、水面から出ずに ...