結城千歳 25歳 手ひどい失恋をし、シビアに生きる普通の女性。 佐藤(石川)将貴 29歳 佐藤グループの御曹司。 佐藤佑太 27歳 佐藤……
冷房がいささか効き過ぎているスーパーから出た千歳を、夏特有のむわりとした熱気が押し包んだ。入れ替わりに部活帰りの男子学生……
結城千歳(ゆうきちとせ)は、高校卒業と同時に地方から東京近郷の食品工場へ就職した。地元を離れたのは東京への華やかさに憧れ……
「ああ、面接して断られた所に、そういうセクハラする馬鹿建設会社があったね。大気建設だったっけ? 下ネタがんがん飛ばされても……
「聞いてる?」 記憶の回廊をさ迷っていた千歳は、佑太の探るような声ではっと現実に戻った。多分この佑太という男にはわかってい……
「じゃあ仕事の説明をするよ。まず搬入口。次は倉庫、計量室、野菜室、加熱室、ミックス室、盛り付け室、米飯室、事務所、そして……
一週間が過ぎた。 夏なのに分厚いタイツとセーターを着込み、白い作業着を上に着る。そんな千歳を見て、横で着替えていた惣菜室の……
社食のラーメンセットをトレイに載せて、千歳は休憩室に沢山並べられた机でも一番隅っこにある机を選んで座った。まだ親しく食べ……
将貴は千歳達にすぐ気付き、靴を脱いで畳に上がりまっすぐ歩いてきた。さっき福沢が言っていた意味がわかった。確かに将貴はどん……
外は相変わらずうだるように暑かった。アパートから一番近い田舎の駅から電車で一時間ほど揺られ、千歳はパンツスーツ姿で市街地……
「たっだいまー……っと」 帰宅し玄関のドアを開けると、将貴の靴があったので千歳は口を噤んだ。 将貴は確かにご飯を食べるように……
恐ろしい暑さの加熱室で千歳は煮込みの作業をしていた。先週まで冷蔵庫と冷凍庫という極寒地獄に居たのに、今度は灼熱地獄だ。惣……
それから千歳はさまざまな部署へ入った。そして今日は現場で一番最後だという弁当のラインに入っている。10メートルほどあるベ……
鈴木は闇金融の中でもとびきりたちの悪いところからお金を借りていた。破産宣告をしたら殺すと脅され、自分の貯金から支払おうと……
「今日は大変だったな」 「皆さんにご迷惑をお掛けしました」 千歳は隣で運転している福沢に頭を下げた。渋滞する国道の交差点も、……
キャベツをざくざくと切り、かつおぶしで煮出しただし汁に油揚げと共に入れる。忘れていた塩わかめを冷蔵庫から取り出してボール……
新幹線に揺られながら、千歳は窓から流れていく景色を眺めていた。隣にはサングラスをして深く帽子を被った将貴が眠っている。 あ……
「取りあえずそちらのベッドへ」 「あの、いいのですか?」 「構いません」 千歳は柳田が将貴を運ぶのを手伝った。将貴の身体はかな……
翌朝、目覚めた将貴が起き上がろうとしてふらつき、床に倒れた音でソファで寝ていた千歳は跳ね起きた。 「将貴さん大丈夫ですか!……
「で、でも、それだとあのお二人は結婚式があげられないままで……」 『家へは戻らないけど結婚式は出るよ。それでいいだろう』 「……
将貴が離れて身体が開放されると、千歳は深呼吸をした。今頃になって身体が震えてくるのが困る。 「……いつから話せる様に?」 「……
事務所の仕事は精神力がガリガリと削られるというのは、福沢の誇張ではなく本当だった。広い工場での作業や人が行きかうビルの中……
事務所での将貴の評判は、仕事はできるけど何もかも謎な人……だった。一緒に暮らしてキスまでした千歳ですらそうなのだから、あ……
『千歳……』 初めて聞く甘い声に千歳は自分に覆い被さっている将貴を見上げた。ああ緑色の目だ。将貴もきっと自分以上に興奮して……
もんもんとしながら自転車を漕いでアパートに戻った千歳は、玄関の靴を脱ぐ場所に女物の靴を発見して驚いた。リビングの方から明……
美術館を出ると、福沢の車は高速に入った。なるべくアパートへ帰りたくない千歳は遠出は大歓迎だったが、一体どこへ向かっている……
わずかな金属音を立てて部屋へ福沢が入ってきたのは、それから40分ほど経ってからだった。ソファで寝ている千歳を見つけて抱き……
将貴が大金持ちの家の御曹司であるのは千歳だってわかっていた。それでも都心部から外れているとはいえ、固定資産税が馬鹿高そう……
将貴が千歳を後ろに下がらせ様子を伺った。自分の家なのにいちいち鍵をかけるのは変だが、他の従業員達と一緒に暮らしているのな……
夕食会が行われる部屋はとても大きな食堂だった。よくある会社の社員食堂ではなく、やはり西洋の雰囲気が多分に漂う白を貴重とし……
「慶佑(けいすけ)って言うんです」 「すっごく社長に似てますね」 「そう思いますか?」 千歳は子供が大好きだ。美留が生まれてま……
どうして今頃連絡を取ってきたのか。千歳の貯金を全部返すという愁傷な真似を、たかしがするとはとても思えない。千歳はどん底生……
「帰って来いったら帰って来い! 妻の癖に言う事聞けないのかっ」 「何それだっさ! 夫の命令第一だなんて今時犬でも言わないわよ」……
品質管理の社員はパートを混ぜて6名いた。初めてその部屋へ入った千歳を、主任の高瀬という男性の社員が紹介してくれた。 「今日……
どうやってここを嗅ぎつけたのだろう。薄気味悪いと思いながら千歳は身体を硬くした。たかしは一人ではなく車からもう一人の男が……
翌朝、将貴は部屋におらず、キッチンへ行ってみても居たのは朝食を作っている朝子だけだった。朝子は千歳に気づいて振り向き、に……
その日は山本のシフトが休みだったので、千歳は赤塚とストレスなく仕事が出来た。食中毒のクレームもないので、たかしは約束を守……
「きゃあっ」 俯いて歩いていた千歳は保冷庫を出た通路の角で、コンテナを持って運んでいた将貴に気付かずにぶつかり、見事に床に……
「このままでは貴女の評判は落ちるばかり。あの御曹司も庇い立てはできないでしょう? 手遅れになる前に辞めた方がいい」 「山本さ……
それから数週間が過ぎて年末になった。将貴の配慮のおかげで、千歳は幾分かは仕事がやりやすくなった。赤塚と全く同じシフトに将……
赤塚のフォローのおかげでなんとか仕事をこなしている千歳は、なんとか今日も無事に仕事を終えた。明日は給料日だ。いつもはうき……
城崎はちっとも慌てずのんびりとしている。 「佐藤グループの御曹司の佐藤将貴君。高校の同期の久しぶりの再会なのにいきなりそれ……
千歳はアパートへ連れて帰られた後、自分の布団で泥のように眠った。夢など見ないと思っていたのに次から次へといろんな顔が出て……
眼に入った光景に千歳は目を奪われた。一面に広がるのは美しい花畑で、七色に輝いていているそれは、水晶の粒を花びらに載せた美……
夜に入ったばかりの佐藤邸はにぎやかだった。メイドや従業員達はまだ仕事をしていて照明は明るく、ひっそりとしているのは佐藤の……
少し離れて買い物しようとした千歳の目論見は将貴にはとっくにお見通しで、余計に引っ付かれる羽目になった。従って目立つカップ……
翌日、千歳は相変わらず自分を無視する山本に挨拶をしてからパソコンを立ち上げた。顔を上げて山本をちらりと見てから何か違和感……
結局山本は壁にぶつけたと言い張り、誰も本当の事がわからないまま彼女は定時で退社していった。思えば彼女は家の事情もあるが残……
翌日、山本を見舞った千歳を出迎えたのは二人の姉妹の笑い声だった。個室に入っている親子三人は久しぶりの親子水入らずの時を過……
アパートに帰った千歳はキッチンでお茶を入れながら思案に沈んでいた。どちらかというと困惑に近いものがあるがこの場合は思案の……
二時間ほど経った頃、将貴の声がした。 「ほらほら、真っ暗な部屋で何をやってるのかな? ごちそう作ったから早く食べようよ」 将貴……
将貴と千歳はシフトを調整して休みを同時に取り、千歳の家へ挨拶に行く事になった。総務の仕事をしているおかげで事情を知ってい……
ほぼ一年ぶりの故郷だった。将貴が運転するクラウンに乗り、見慣れた町並みが見えてくるに従って、千歳は懐かしさとともにその優……
その後、男女別にご飯を食べて、千歳は美好とあかりの三人でゲームをしたりして盛り上がった。もっとも妊娠中のあかりは眠りづわ……
それから一週間ほど経った頃、比較的に貴明の容態が落ち着いているという事で、千歳の両親と千歳は、将貴の運転するクラウンで東……
夕食をメイドが運んできてくれた頃、将貴がその気配で目覚めて天蓋のカーテンを開けた。配膳を手伝っていた千歳は、将貴に振り向……
「離して!」 美留が佑太の腕を振り払い、びっくりしている将貴と千歳の方へ後ずさった。嫋やかな美留の恐ろしく冷たい雰囲気に、……
結婚式当日は生憎の空模様で雲がどんよりと厚く垂れこめていた。おまけに雪が散らついている。天気予報は午後から晴れ間が覗くと……
式は厳かに執り行われ無事に終わった。その後の大広間での会食は、厨房チーフの池山が期待してくださいと言っただけあって、すば……
「佑太、……お前が先だ」 「なんでしょう?」 やっぱり俺が先だろうというふうに佑太がチラリと将貴を見た。 「人目が有る所で喧嘩……
火葬された貴明の骨壷が祭壇に戻され、ようやく告別式は終わった。ひと月後に教会の隣のお墓に埋葬されるとの事だった。千歳と美……
※43話の直後の話です。 弟に皆奪われた馬鹿御曹司。 ありがたくも無い、ひねりが足りない情けない自分の代名詞だ。 部屋が明るい……
身を切るような冷たい風が頬を撫でた。 どこまでも続く田舎の一本道を将貴は一人でとぼとぼと歩いていた。道を取り巻いている裸の……
やがてやって来た鈍行電車に乗り、がらがらの座席のひとつに座ると、将貴は何故か心が開放されていくのを感じた。外はとても寒い……
「うわ、超美少年。どこで拾ってきたのこれ」 「人を物の様に言うんじゃない。熊が出たって向こうの華の屋旅館の連中がうるさいか……
厨房はかなりハードな仕事場だった。アルバイトをした経験がない将貴はとまどうばかりで、言葉遣いひとつでも沢山注意を受けてい……
「将貴どうしたんだ?」 料理長の稲田が不審がって聞いてくれる。なんでもないとは言えない。幼い頃から叩き込まれてきた感情のコ……
将貴は帰りたくなかった佐藤邸の自分の部屋で目覚めるまで、眠り薬を飲まされた事に気付いていなかった。あの居心地のいい旅館の……
ある日、麻理子がにこにこ笑いながら言った。 「将貴、一度ニードルレースでベッドカバーを作ってみない? デザインはまかせるわ」……
何度目かの電話の音で将貴は目覚めた。時計は午後の10時を指していた。何故か出る気になった将貴は懐かしい名前を耳にした。音……
「ほら、仏頂面」 車を運転していた佑太は、妻の美留に耳を引っ張られ、危ないじゃないかとその手を払った。もう、佑太の兄の将貴……
その日の夜は主に千歳と美留がわいわいと盛り上がって、将貴と佑太がそれに追従する形で楽しく過ごせた。最近ぐずってどうしよう……