清らかな手 第1部 第6話

「アウグストは、君に劣等感を持っている」
 トビアスはテーブルを挟んで貴明と向かい合ってソファに座ると、言った。リカルドは窓際に立ってその様子を見ている。リカルドの館の客間で、使用人たちはお茶などをテーブルの上に置くと頭を下げてそそくさと出て行った。
「劣等感? 何故」
 貴明は気に入らないという風に、右眉をあげた。7歳までしか一緒にいられなかったが、記憶の中の雅明は、いつも近所の子供達にからかわれては泣かされていた貴明を助けてくれた、力強く優しいイメージしかない。
 トビアスは、そんな貴明の様子に何か合点がいったようで、一人でふーむと唸った。
「……君にはわからないかね、人にできるものができない悔しさと惨めさが」
「今はそんな話をしているのではない。何故雅明を組織に引き込んだ? 何故囮にしたんだ! 貴様はこの僕の兄をそんなふうに扱って、ただで済むと思ってはいないだろうな? シュレーゲル伯爵もお怒りだ」
「それに関しては、深く謝罪する」
 トビアスは深く頭を下げた。素直に非を認めたトビアスに、貴明もリカルドも毒気を一瞬抜かれた。普通、日本人ならともかく、ろくに説明も話し合いもなしにあっさりと謝罪をすることなどありえないのだ。それを元にどんな言いがかりをつけられるか、わかったものではないからだが、それを誰よりもよく知っているはずの闇の組織の頭目が頭を下げたまま上げない。
「我々の調査不足だった。おかげで救出が難航してしまった。これに関してはどんな償いも可能な限りさせてもらうつもりだ。最悪、組織を抜けることも許可しようと思っている……。アウグストが望めばだが」」
「…………」
 貴明は息を吐くと、わかったと言った。煮ても焼いても食えなさそうなトビアスが、謝罪したのだ。その言葉には万金の重みがある。心からの謝罪であることは明白であったので、貴明は怒りを納めることにした。
「……それで、その麻薬はどう言ったものだ」
 トビアスは頭をあげた。
「6yhという新薬だ。媚薬の一種だが、自我を取り去ってしまうという作用がある」
「……戻れるんだろうな」
「おそらくは。ただ、半年も取っていたら脳の機能が停止して死んでしまう。アウグストは1か月程打たれていたらしい。6yhにしては比較的症状は軽いほうだが、一般の麻薬に比べると重いほうだろう。重症の部類に入る……」
 貴明は足を組むと、宙を見つめている。その貴明にトビアスはすまなそうに言った。
「君は今すぐにでもアウグストを連れて帰りたいだろうが、それではアウグストの精神的不安が増すだけなのだ。ここは我々に任せて欲しい」
「何故だ? 日本へ帰れば母のナタリーもいる。雅明を捨てた義父はもう亡くなって居ないんだ。あいつは日本へ帰りたがっていると祖父のシュレーゲル伯爵も言っていた」
 残念そうに頭を左右に振りながら、トビアスは続ける。
「元気であったなら構わないだろう。だが今は駄目だ。アウグストはフレディといることが幸せなのだ。そして佐藤社長、君といると不幸になる。それは先ほど言った劣等感からくるものだ」
「僕になんの劣等感があるというのだ!」
 腹ただし気に貴明は舌打ちをした。
「6yhは快楽を引き出す薬であると同時に、恐怖をも引き出す薬なのだ。あれは主に調教に使われるもので、そして調教は主の言いつけを聞くために飴と鞭を使い分ける必要がある。今のアウグストにとって飴はフレディで鞭は佐藤社長だ」
「だから、何故だ! 調教とは何だ」
 鋭い目で睨みつけてくる貴明の視線を受け止め、トビアスはこれほど対極の兄弟もめずらしいと思った。
「……フレディが転送してきた調教の映像の中に、君がテレビに映っていて……その声を聞きながらアウグストがアレクサンデルに弄ばれるものがあった」
「…………っ」
「……どれほどの屈辱かわかるだろう? 大企業を率いる君が華々しく開花しているのに、自分は男に弄ばれているのだから。そしてこれはフレディの本意ではなかったのだが、同僚にもその時犯されたのだ。あの時アウグストの受けた打撃は底知れないだろう。それと彼自身が語ったことがある、自分は凡人で君は天才児、いつもその能力の差は歴然としていたとな」
 貴明は歯を思い切り噛み締めて俯いた。情けない顔を見られたくなかったからだ。自分は誰にも弱みを見せてはならない……。ほんの数瞬で立ち直ると、貴明は立ちあがった。
「わかった、日本へ帰る。ただし、雅明のことは毎日報告しろ。うそをついたりごまかしたりしたら許さない。あと、必ず雅明を自由にすると約束しろ」
 トビアスとリカルドはうなずきあった。トビアスが言った。
「約束しよう」
 それぞれと握手をすると、貴明は帰っていった……雅明に会わずに。
「凄まじい人ですね」
 リカルドがやれやれとネクタイを緩めた。トビアスは苦笑している。貴明はまだ若くて溢れんばかりの威圧感を隠したりはできない。あれでは人は萎縮してなかなか本心を見せてはくれまいと思う。トビアスは貴明の父親のような年齢であるから、子供を見守るような態度で接していた。だがまだ若いリカルドは、貴明の威圧感に完全に飲み込まれてしまったようだ。
「しかし、本気でアウグストを組織から足を洗わせるのですか?」
 トビアスはその問いに食えない笑みを浮かべる。
「アウグストが望むなら……と、さっき言っただろう? 」
「じゃあ無効ですか? あの社長がまた拳銃撃ってきたらたまりませんよ。日本人なのにどこで射撃などならったんでしょうか?」
 ソファに深く沈みこむとトビアスは言った。
「彼は7歳から10年間ほどアメリカで教育を受けている。その間だろうな」
「恐ろしい殺気でしたよ。うちの者が一人も動けなかった」
「ああ、それは感じた……部屋の外からも」
「……は?」
 いつからトビアスはこの館の中にいたのだろうかと不思議に思った。トビアスは茶目っ気たっぷりにウインクすると、部屋の入り口に立っている質素なドレスを着た女を手招きした。
「アンネ……おいで」
「もう終わって?」
 トビアスの妻であり、フレディの女主人でもあるアンネが現れた。
 美女と聞いていたのに十人並みのアンネに、リカルドがいささかガッカリしているのを感じ取ったトビアスが言った。
「私もアンネも素顔を隠しているからね。君に迷惑がかかる。本当は違う顔だよ我々は」
 リカルドは、赤面した。佐藤貴明には殺気でやられ、トビアスには人間的にやられてしまったと……。   
 悪夢の春から夏、秋、そして冬へと季節が流れ、断薬症状がほぼ治まった頃、トビアスの館へ雅明とフレディの二人は住居を移した。フレディはすぐに任務に戻ったが、雅明は麻薬の後遺症のせいで筋力がまだ完全に戻っておらず、館でずっと過ごしていた。
 する事はほとんど事務的なことで、後は筋力トレーニングや仲間との連絡の仲介役を館の一角の情報室でやったり、自由な時間ができると本を読んだりしていた。 
 仲間達はアウグストを温かく迎え入れてくれたが、雅明にとっては物足りないものだった。決定的な何かが足りない。
 そして今日も自分の部屋の前の庭で、雪の中、雅明は小さな苛立ちを感じながら一人立っていた。
 恐ろしい幻影も、息苦しさや、気持ち悪さも無くなったのだが、何かの記憶が抜け落ちている。
 それを思い出そうとすると気持ち悪くなるので、雅明は考えないことにしていた。
 抜け落ちているのは、アレクサンデルの館の中での出来事だった。あまりにも苦痛を伴う境遇だったため、なんらかの防衛反応が出たのだろうと医師はトビアスにそっと耳打ちしていた。
「アウグスト、ただいま」
 待ちかねていた声が響き、雅明はうれしそうに振り返った。フレディがコートを着て部屋の入り口に立っている。任務でフレディはほとんど館には帰らなくなっていて、前回に会ったのはひと月も前の事だった。感じていた苛立ちが一瞬で消え去る。
「おかえり……」
 静かに雅明は歩み寄ると、自分よりやや高いフレディにキスをした。
 部屋に入って二人で他愛の無い話をしていると、電話が鳴った。雅明はその電話に出ると後にしてくれと言って乱暴に受話器を置いた。
「誰からだった? アウグスト」
「……メイドが夕食はいかがですかって。まだ早いから後にしてくれって断ったよ」
「そうか」
 そんな会話をしているふうではなかったがとフレディは思ったが、黙っていた。そしてこの数ヶ月、ずっと思っていたことを口にした。
「なあ……アウグスト」
「ん?」
 そのまま電話が載っているデスクに頬杖をついていた雅明は、気だるげにフレディに視線をやった。
「この館も、俺はそのうち出て行こうかなって思ってる」
「な、なんで?」
 唐突過ぎて雅明は驚いてしまった。フレディはソファに寝転んで続ける。
「もうお前も大丈夫そうだし一人でもやっていけそうだろ? いい年した男が二人いつまでも同じ部屋ってのはな……」
「滅多にお前帰ってこないじゃないか」
「それでも……、だ」
 それはフレディが以前から決めていたことだった。断薬症状がおさまった雅明はいずれ自分を必要としないだろうと、その時が来たら離れようと。このままいくと自分は雅明を壊すほど愛してしまうかもしれない、二人とも元々同性愛の傾向はなかったのだ。
 断薬症状がおさまってくるのと比例して、フレディが雅明を抱く回数は激減していった。もうこの2ヶ月はキスまでしかせず、それ以上はない。
 
「そっか……、わかった」
 あっさりという雅明に、フレディは内心寂しかったが仕方が無いと思った。雅明は熱愛していた女を殺され、その復讐のために組織に入ったと聞いている。そんな彼が男を愛するはずが無い。
「じゃあ私は、アンネのところへ行くから」
「なんでアンネ?」
 フレディはドアへ歩き出そうとする雅明に聞く。雅明は事も無げに言った。
「なんでって……、ああ、実は今の電話はアンネなんだよ。今日も抱いて欲しいんだってさ」
「今日……も?」
 はっきりと状況が飲み込めていなさそうなフレディに、雅明は薄く笑った。
「お前が最近相手してくれなくて寂しいから、私に抱いて欲しいって最近ずっと頼まれてる。トビアスももちろん容認しているさ」
「だからって」
「愛人ナンバーワンを奪われて悔しい? 」
 からかうような、誘うような、虹色を帯びた瞳で雅明はフレディを見る。フレディの中で何かが切れた。しかしもう視線をドアの取っ手に向けている雅明は、フレディの目がすっと細くなったことに気づかずに話を続ける。
「まーいいんじゃない? 他にも……あ、ん……」
 駆け寄ったフレディに強くドアに押し付けられて、雅明はキスを受ける。これまでなかったほどの激しいもので雅明はかすかに震えた。
「あの女のものにお前はなりたいのか?」
 唇を離すと怖い声でフレディは雅明の首筋に顔を埋めて聞いた。すると雅明はくすくすと笑った。
「別に……。ただ言えるのは、私は私を一番欲した人間のものだろうね」
「一番欲した人間?」
 顔を上げ、フレディは雅明を見つめた。雅明はもう笑っていない。
「私が欲しいのなら力づくで奪えばいいんだ。心も、身体も。私は少しおかしいのかもしれない……、アレクサンデルの薬がまだ残っているのかもな、強く欲せられると心が高揚する」
「アウグスト」
「さ、離してくれ。一人暮らししたいんだろ?」
 だが雅明を拘束しているフレディの両手は彼の両手首から離れない。それどころか強く握られて雅明は顔をしかめた。
「フレ……ディ……?」
 おびえが混じった雅明の声音に、フレディは抑えていた感情を爆発させた。雅明をきつく抱きしめるとドアに鍵をかけた。そしてそのまま雅明を部屋の床に押し倒して馬乗りになる。頭を軽く打った雅明はその部分を手のひらで撫でながら文句を言った。
「なんなんだよ? 何がしたいんだお前」
 返ってきたのは、左の頬への平手打ち。同時に来ていた黒いシャツのボタンが外されていく。しかし途中でもどかしくなったのか、フレディはボタンごと引きちぎってしまった。下から真珠色の美しい肌が現れる。もう触るまいと懸命に我慢していたフレディが夢に見ていたものだ。
「なにす……う……あああ……」
 ズボンの上から立ち上がっていないものをいきなり握られて、雅明は震えた。その顔を見やりながらフレディは半分泣いて半分怒っている声で言った。
「あんなクソ女にお前をやるために、解放しようとしたんじゃないんだよ!」
「あ……あ!」
 ベルトがはずされると下着ごとズボンを下ろされ、直につかまれる。その手の熱に芯が蕩けるような気が、雅明はした。息が荒いフレディはそのまま雅明の耳を舐めだした。たちまち自分のものが固く立ち上がり、その熱を逃がそうと雅明はもがく。
「だめ、ああ、フレディ……そんな、強くしてはっ」
「うるさい! お前が悪いんだ」
「ぐ……うっ……あああ……は」
「何だよお前、女に戻ったくせに、俺の手の中でもう固くなってるぞ」
 雅明はフレディの腕を力任せにはずそうとする。フレディはその雅明に意地悪げに笑った。
「お前みたいなか細い奴が敵うわけないだろ? 薬が切れたって俺に勝てないさ」
「……くそ……っ……あ、ん……っ」
 そもそも官能の波が押し寄せているため、フレディを振り払うことは今の雅明には不可能だ。ダメ押しのように乳首に吸い付かれて雅明の身体は細かく振るえ、熱くなっていく。
「あ、あ、……フレ……っ。くう……」
 舌と唇の愛撫でたちまちそこは唾液で濡れて光っていく。乳頭を強めに舌で舐められるたびに背筋に戦慄が走った。その間も股間は容赦なく揉みこまれ、うずく刺激が身体中を走り抜けていく……。
 電話が鳴った。おそらくアンネだろうが、フレディは雅明を出す気はさらさらなかった。雅明は電話に出ようと腰をくねらせたが、フレディの馬乗りになっている身体はてこでも動かない。
「は……な……せ!」
「薬がないと、なかなか溺れないなアウグスト」
「だまれ……っ」
 自由な両手で雅明はもう一度フレディを押し返そうと試みる。舌打ちをしたフレディは一旦愛撫を止めるとはだけているシャツを雅明の両手首まで引き上げ、身体を横向きにさせて後ろ手にぎちぎちに縛った。
「解けっ……」
「お断りだ」
 フレディはその雅明を抱き上げると、部屋の隅にあるベッドに転がした。起き上がろうとする雅明にふたたび圧し掛かり、その唇を奪う。鳴り続けていた電話の音が途絶えた……。
「んーんっ……ふっ……!」
 フレディのキスを終わらせようと雅明は頭を左右に振った。それを両手で固定してさらにフレディが舌を侵入させて絡めとろうとしてきたので、雅明は思い切り噛み付いた。
「……痛っ……」
 唇の端から血を滴らせたフレディは、荒い息をつく雅明をにらみ付けた。
「いいざまだ……フレディ」
「ふん、その強気な様も今のうちだけさ」
 フレディは雅明をうつぶせにする。そして淫靡に息づいているアヌスに香油を塗ると言った。
「悪い子にはおしおきだなあ……」
 熱いフレディの肉棒をそこへ感じ、雅明は逃れようと身体を動かそうとしたが、フレディの強固な両腕ががっしりとその腰を捉えている。
「やめろ……て……ああああっ……くう!」
 侵入してきたフレディの肉棒に雅明は歯を食いしばった。もう何ヶ月もその熱さを受け入れたことはない……。おぼろげに覚えているフレディとの情交がその身体に蘇った。ずんずんと出し入れを繰り返しながらフレディは笑った。
「これを忘れたのかアウグスト……、お前はさんざんこれに貫かれてヒイヒイ言ってたんだぜ?」
「あ……っいやだ! 揺らすな……あぐ……」
 
 猫のように身体をしならせた雅明の背中にのしかかると、さらにフレディは激しく腰を動かす。
「我慢してたんだよ、アウグスト」
「あああああああっ……やめ……、それ……ああ!」
 フレディの右手に自分のモノを再び握られ、二重の快感で雅明は目の前が白くなりかけた。指で先端を執拗に撫で回されると、何がなんだか分からなくなる。
「あん……ああっ……はあ……は……」
「いい声出すね。アウグスト」
 結合部は熱く、フレディはいきそうになるのを耐えながら、雅明を高みに押し上げていく。薬を打たれていた頃はすぐにイっていたが、通常の今ではなかなか雅明は果てない。フレディのモノを容赦なく締めてくるので、何度も何度もフレディは果てかけてはその衝動に絶えた。
 ぐちゅぐちゅと結合部から音がする。香油なのか、フレディの先走りが漏れてきたものなのかはわからない。フレディが背後から雅明の耳の近くに唇を這わせ、舐めだすと、四つんばいになっていた雅明はお尻を突き出した格好になり、その場で崩れた。その時に甘美な締め付けが来て、フレディは限界に達して雅明の中に熱い飛沫を出した。
「はああ…………、フ……レ」
 射精の余韻に浸る間も無く、フレディは雅明も達すると感知して、すばやく自分のモノを抜くと雅明を仰向けにして固く熱くなっている雅明のモノを口に含んだ。刹那雅明が達する。
「はあ……はあ……は……ん……、ん……」
 何度も身体を震わせながら雅明は射精を繰り返す。それを執拗な口使いですべて飲み干すと、フレディは丹念に雅明のモノを舐めてきれいにした。舌が滑るその感触に、終わらない愛撫で雅明は透明な涙を流す。再び電話が鳴り出した。
「もう……やめ、フレディ……電話……」
「出るな」
「だって……く」
 肉棒を離し、フレディが再び雅明の身体に圧し掛かる。そして熱い口付けをした。
 電話は口付けの間中鳴っていてうるさかったが、雅明はすぐに濃厚すぎるそれに飲み込まれていく……。
 唇が離れた時にはふたたび電話は鳴り止んでいた。雅明はあの虹色がかった茶色の瞳でフレディを見上げる。
「……こんなに……こんなに、私が好きなのに……出て行くのか?」
「アウグスト」
「お前が、私には分からない。私は薬で打たれている間しかお前に愛されていなかったのかとずっと悩んでた」
 激しい情交の後のせいなのか、それともただ単に起き上がるのが辛いだけなのか、雅明はひどくだるそうに言った。フレディは雅明を抱きしめる。
 
「……愛してる。多分、この世で一番」
「だったら私を置いていくな、一人で大丈夫だなんて言うなよ」
 フレディは、雅明が薬が消えてもなお自分を必要としてくれているのを知り、胸が熱くなった。だが……。
「それでいいのかお前は? お前は……忘れられない女がいるんだろう?」
「それすらも消し去りたいほど、フレディを愛してる」
「アウグスト……」
 雅明の両手がフレディの首の後ろに伸びてきた。フレディがうれしそうに微笑むと、雅明も同じように微笑んだ。
 軽く触れるだけのキスを繰り返した後、雅明が言った。
「この館を出て行くときは、二人同時だ」
「ああ……わかった、約束だ……」
 
 フレディは握り締めた……、真珠色に輝く雅明の手を。
 

Posted by 斉藤杏奈