宇宙を映す瞳 第02話

 車はそのまま、星都の東側にある瀬川邸へ入った。
「大きなものだな。おまけに木でできている」
 雪が感心して、立派な門の柱を撫でた。木でできた家がめずらしいのだろう。貴美によると、万青の上流階級の家は石造りが圧倒的に多いらしい。
 昔の地球人たちの描いた未来の絵には、華達には笑えるものがある。何故か毎日、身体にぴっちり吸い付く服を着て、そこいらじゅうを円盤形の宇宙船で飛びまくっているのだ。人口過密地帯の星都でそんな事したら、交通事故が多発してしまうだろう。おまけに住居がキノコ型? や、妙に湾曲したものばかりなのも謎だ。歴史の授業で初めて見た時は、皆爆笑し、しばらくはネタになっていたほどのおかしさだ。
 昔の地球人たちには悪いが、住居の形はあまり変わってはいない。材質やセキュリティが進化しているだけだ。とはいえ、さすがにこの瀬川邸ほどの日本家屋は、かなり少なくなってきている。自然破壊に繋がっている事から、木材を切るのは特別な伐採期のみで、その木材を使用できる人間は、裕福でかなりの上流階級に限られている。恐ろしい額の税金が、木材にかけられているためだった。


 雪は屋敷の表玄関から案内されていき、華はほっとして裏へ回った。
「華様お久しぶりですね」
 厨房へ行くと、使用人頭の那美夜が笑顔で出迎えてくれ、華も用意していた御菓子を差し出した。
「一年ぶりくらいでしょうか」
「もっとちょくちょくおいでくださったらと、皆で話していたところなんですよ」
 瀬川邸には、十人ほどの使用人が居る。
「さすがにお嫁に来る前はちょっと……」
「まあまあっ。お可愛らしい!」
 那美夜や他の女中は上機嫌に笑うが、世間的に嫁入り前に婿の家へ出入りするのは、どうも憚られるのだ。おまけに海衣はずっと万青にいた、いくら父親の要と慣れ親しんでいるとはいえ、我が物顔で出入りすのはずうずうしい気がする。
 お茶を出してもらって女数人で話していると、やっと解放されたのか、海衣が入ってきた。
「華、待たせてすまない」
「海衣様」
 立ち上がり、華は海衣の後について廊下を歩いた。見事な庭が右手に現れる。ここは要の自慢の庭で、親しい人間と使用人にしか見る事はできない。
 海衣の部屋は屋敷の東側にある。障子を海衣が開け、華は促されるまま中へ入った。
 畳の上へ座ると、海衣が直ぐ近くに同じように座った。
「今日は、色々とすまなかったね華。王子がいろいろと我侭を言って」
「いいえ。お仕事ですから気にしてません」
 那美夜が二人の食事を配膳し、静かに下がっていった。彼女の足音が消えるのを確認してから、二人は箸を手に取った。
「そう言えば、王子は誰がお相手を?」
「父さんと川崎大尉がしてくれてる。さすがにずっとご一緒では、こちらも参ってしまうから良かった」
 海衣が汁物をすする。
「まあ」
 海衣が愚痴を言ってくれるのがうれしくて、華は汁碗を持ちながら笑った。那美夜の心づくしの膳は、どれもこれも美味しそうだ。しばらく二人は無言で食べ、残りがデザートだけになった頃、海衣が言った。
「そうそう。王子にしっかり叱っておいた。僕の華に失礼がいくつもありましたからね」
 華は、雪に胸がないだの、男女と言われたりしたのを思い出し、自分の胸を見下ろした。
「そんなに私……胸がないでしょうか」
 くすりと海衣が笑う。
「そんなことはないと思うよ? 皆がありすぎるだけだ」
「そうならいいんですけれど」
 結局胸がないのだと言われているのに、華は全く気づいていなかった。海衣もなかなか人が悪い。
「華……」
 顔が近づいてきて唇が重なる。抱きしめられて、華はさらに深くなるキスに酔った。一旦唇が離されて、海衣の瞳に映る自分を華は見つめた。
「海衣様」
「結婚は、来年の六月の七日に決まったよ」
 華はうれしくて、そのままぎゅっと海衣に抱きついた。
「僕から父を通して、お願いしていた」
「うれしいです」
「僕もうれしい」
 海衣の手が華の服を弄ろうとしてきたので、さすがに華は焦ったが、直ぐに抵抗は止めた。今まで一切手を出してこなかった海衣のこの行動は、おそらく父親同士も了承済みなのだろう。
 そのまま海衣が華に再び唇を重ねた、その時だった。
「おい海衣? どこに居るんだ」
 雪だ。
 華が慌てて離れようとすると、かえってぐっと抱き寄せられ口付けられる。
「海衣?」
 雪の声が近づいてくる。華は緊張と焦りと恥ずかしさで、完全に気が動転しているのに、海衣はそのまま行為に及んできた。
「参ったな。海衣がいないと、風呂に入れないではないか」
 何故、海衣がいなければ、風呂に入れないのだろうか。
 服の前が肌蹴られて、ささやかなふくらみに海衣の手がすべりこみ、包み込む。
 特に何もされていなのに、華はじっとりと汗ばんでいた。
 海衣の唇が首筋を強く吸う。
 痛みと気持ちよさの中間の、心地いい甘さが華をうっとりとさせる。
 やがて王子は諦めたのか、もと来た場所へ帰っていった。
「よろしいのですか……?」
 華は、喘ぎながら海衣に聞いた。
「たまにはね」
 海衣はいたずらっぽくウインクする。相当普段から手を焼かされているらしい。そのまま海衣が華を抱きしめてごろりと転がると、ちょうど敷かれた布団の上だった。
「華」
「あ……そこ、は」
 胸の先を摘まれて吸われる。お腹の奥がきゅんと痺れ、華は身体を捩らせた。すると逃がさないとばかりにより強く吸われ、噛まれる。恥ずかしいなどという域は、もう超えかけている。いつも穏やかなだけな海衣が見せる新たな一面に、華は胸を高鳴らせた。
 指が下肢に伸びて服も下着も抜き取り、まだ乾いている、奥まった場所を探り当てた。
「海衣様……わたし」
「怖がらなくていい。最後まではしないから……ね?」
 優しいキスを胸に受け、華は顔を赤くした。少年じみて見える華でも、この時ばかりは海衣の理性を振り切らせるほどの何かを発している。
 今度のキスはとても深く、舌を何度も吸われて甘噛みされ、飲みきれないものが二人の唇から滴った。同時に胸と奥まった場所への愛撫は続いていて、恥らっていた華はその中に自分の新たな姿を見出しつつあった。
「あ……はぁっ……ん、や……あ、あ」
「可愛いね華。もっと啼いて……」
「指……動かさないで、おかしくなりそうっ!」
「おかしくなればいいよ」
「だって、声……あんっ!」
 ついに海衣の指が、ほぐれたそこにずぶりと入り込む。かすかな痛みを感じるのに、膨らんだ芽が撫でられたため、直ぐに消え去った。
「皆……聞いて……やだ!」
 この家は純粋な日本家屋なので、防音がほとんどなされていないのを華は知っている。
「聞かせようよ」
「お願い……海衣様っ」
 ぐりぐりと意地悪に、蜜でぬめる芽を何度も何度も撫でられては、爪を立てられ、腰が蕩けそうだ。海衣が楽しそうに華の胸の先をまた強く吸った。
「や……や! 海衣……」
 熱は上がり、見えない何かが迫ってくる。海衣のいたずらな指を止めたくて手首を掴んでも、力で敵うわけがなかった。  指が増やされているのに華は気づかない。そんな華を、一瞬だけ海衣は悲しげに見つめ、すぐに消した。今はそんな事を考える時ではない。  華は強く海衣に抱きこまれ、高みへ押し上げられていく。そして、なす術もないまま白い波に飲み込まれた。
「ああぁ…………っ!」
 がくがくと身体を震わせ、直ぐに華はぐったりとした。
 なんだか眠くて仕方がない。
「お眠り。華」
 海衣の柔らかな口付けと共に、華は幸せな眠りについた……。


 海衣は華を綺麗に整えると、微笑みながら布団をかけた。そして静かに障子を開けて、庭先に出た。
「困りますね。恋人との逢瀬を盗み聞きとは」
 なんと、前の庭の砂利の上で、雪が膝を抱えて座り込んでいた。月の光を帯びた雪は神々しいほど美しかったが、頬を膨らませているため、その表情は子供のようだ。
「わざと聞かせたのだろうが」
「王子が邪魔をしたからです。申し上げましたよね? 地球に着いたら私は華としばらく過ごしたいと」
「それはそうだが……」
 雪は海衣を見上げ、すぐに大きな池に目を移した。鯉が静かに泳いでいる。
「王子も二週間後には総督府の主になられるのですから、早く地球に慣れ親しまれたほうがよろしいですね」
「お前が協力してくれるのだろう?」
「華と一緒なら」
 雪は嫌な顔をした。
「またそれか。あの男女を何故そこまで俺の側につける? 愛しいのであろうが?」
「華はきっと王子の役に立ちます」
 雪は長い髪を滑らせながら、首を横に振った。
「本人はいやいやだろう?」
「言い聞かせます」
 海衣は顔を巡らせ、塀を越えた遠くの一点を睨んだ。一キロほど先の木陰が揺れるのが遠目に見える。雪にも見え、雪はゆっくりと立ち上がり、そちらへ向かって人差し指を突きたてた。直ぐに轟音が聞こえ、何かが砕け散った。 「海衣」
「はい」
「お前は、如月華を愛しているのだろう?」
「心から……」
 自分より幾分か背丈の低い海衣を、雪は見下ろす。
 海衣も黙って見返してきた。お互いが無言で何かを確認し、了承する。
 冷たい風が吹いた。静まり返ると海衣は微笑んだ。
「明日より日本を案内します。もう、おやすみください」
「そうする」
 海衣は雪を部屋に送り届けた後、自分の部屋へ戻って、華の隣に潜り込んだ。